ヘイロータイ(世界史)
ヘイロータイは、古代ギリシアの都市国家スパルタにおいて支配階級であるスパルタ市民に従属し、農耕や労働を提供していた被支配層のことである。主にラコニア地方やメッセニア地方の住民が征服された結果、この身分階級に組み込まれたとされる。彼らは自由民ではなく、スパルタ国家の財産とみなされていたため、土地とともにスパルタ市民へ割り当てられ、厳しい制約の下で生活していた点が特徴的である。独立した市民権は一切認められず、軍事的・政治的権限を持たないまま、農産物の上納や公共事業への従事を義務づけられていた。
語源と制度の起源
ヘイロータイという呼称は古代ギリシア語の「heilos(捕虜)」に由来する可能性が指摘されている。スパルタが周辺地域を征服する過程で得た住民を半ば強制的に従属させた結果、この用語が定着したと考えられる。戦争に勝利したスパルタ人は、土地とそこに住む被征服民を一体で支配下に置き、独自の被支配階層として再編成した。これによってスパルタ市民は農業や生産活動からほぼ解放され、軍事訓練や政治活動に専念できるようになったのである。
スパルタ社会との関係
強力な軍事国家として知られるスパルタでは、市民階級が戦闘能力を高め続ける一方で、農業生産を支えていたのがヘイロータイであった。スパルタ市民の生活維持に必要な穀物や家畜の供給を担い、時に貢納物として定められた一定量の収穫物を提供させられた。もし上納が不十分であったり、反抗の兆候があったりすると、当局は圧迫や懲罰を加え、その支配を強化した。さらに、市民数に対してヘイロータイが非常に多かったため、反乱を防ぐことはスパルタ政体にとって死活問題であった。
クリュプテイアと反乱防止
スパルタの社会制度には、ヘイロータイの反乱を抑止するためのクリュプテイアという習慣があったとされる。これは一定年齢の若いスパルタ市民(エイリテス)が夜間に密かに出動し、潜在的に危険とみなされるヘイロータイを襲撃または排除する行為である。狩猟や暗殺を通じて敵対心を未然に摘む一方、青年たちに軍事的訓練の機会を与える目的もあった。こうした苛烈な仕組みが強固な治安維持には寄与したものの、ヘイロータイ側に強い恐怖と恨みを植え付ける要因ともなった。
経済的役割
ヘイロータイの存在によってスパルタは安定した食糧生産を確保し、市民階級の軍事能力を充実させることができた。とりわけ広大なメッセニア地方の肥沃な土地を利用することで、大量の穀物や果実が得られ、それらを市民やペリオイコイ(周辺民)に供給する仕組みが確立した。また農耕だけでなく、家畜の飼育や牧畜、工芸作業など多様な労働にも従事し、都市国家としての機能を下支えしていたとも考えられる。
身分の特徴
- 国家所有の被支配民であり、買売の対象にはならない
- 原則として市民権がなく、政治参加の機会が認められない
- 土地とともに市民へ割り当てられ、納税や労役の義務を負う
- 反乱や逃亡に対する処罰が極めて厳格
スパルタ衰退との関係
古代後期になると、対外戦争や内部抗争が続き、スパルタ市民の数が徐々に減少した。これに比例して軍事力の維持やヘイロータイの管理が困難となり、従属関係に綻びが生じていった。テーベに敗れたレウクトラの戦い(紀元前371年)を境にスパルタの優位が崩れると、多くのヘイロータイは自由を得たり、メッセニアとして再独立した地域に戻ったりする動きが広がった。結局、この身分制度の硬直化はスパルタの柔軟性を奪い、周囲のポリスとの競争力を失わせる一因となったと考えられている。
歴史的評価
ヘイロータイ制度は、スパルタ社会の特殊性を語る上で欠かせない要素である。軍事力と社会秩序の維持を目的とするあまり、圧倒的に抑圧的な被支配階級を生み出したという点で、古代世界でも特筆すべき事例となっている。近年の研究では、実際の生活状況や共同体内の微妙な関係性に関する再検証が進められ、強制労働という側面のみならず、地域経済との密接な結びつきや日常生活上の交流についても注目が集まっている。