プリチャージ抵抗
プリチャージ抵抗は、電源投入時にDCリンクコンデンサへ流れ込む突入電流(inrush current)を抑制するために直列に挿入する抵抗である。インバータ、UPS、産業用サーボ、EVの高電圧バッテリーシステムなど、大容量コンデンサを備えた装置で広く用いられる。投入直後、コンデンサはほぼ短絡に等しく見えるため、無対策ではスイッチ素子、リレー接点、配線、ヒューズ、さらにはコンデンサ自体を損傷しうる。プリチャージ抵抗は充電電流を指数関数的に減衰させ、所定の電圧まで安全に立ち上げた後、バイパス素子(リレーやMOSFET)で短絡して通常運転へ移行する。
目的と役割
プリチャージ抵抗の主目的は、突入電流による熱・電磁ストレスを制限し、部品の定格内で立ち上げ動作を保証することである。具体的には、(1)スイッチング素子の一時的な過電流回避、(2)配線・コネクタの電圧降下と発熱抑制、(3)コンデンサのリップル・自己発熱低減、(4)EMC観点での立ち上がり電流スペクトル緩和、を達成する。
動作原理
理想電源電圧をV、コンデンサ容量をC、抵抗値をRとすると、電流はi(t)=\u007bV/R\u007d·exp(-t/RC)、コンデンサ電圧はv(t)=V·(1-exp(-t/RC))で立ち上がる。初期電流はI0=V/Rで、時間定数はτ=R·Cである。充電完了時、コンデンサに蓄えられるエネルギーはEc=1/2·C·V²であり、理想条件では抵抗で消費されるエネルギーも同値Er≈1/2·C·V²となる。ゆえにプリチャージ抵抗には高いパルス耐量(ジュール定格)が要求される。
設計パラメータ
- 初期電流制限:I0=V/R ≤ 許容突入電流(リレー接点や半導体、ヒューズの定格に基づく)
- 時間定数:τ=R·C(一般に5τで約99%充電とみなす)
- パルスエネルギ:Er≈1/2·C·V²(抵抗のジュール耐量≥Erに安全率を乗じる)
- 瞬時電力:P0=I0²·R=V²/R(ごく短時間のため、連続定格よりパルス定格を重視)
- 周辺温度・冷却:筐体内温度上昇や自然空冷/強制空冷可否
素子選定の流れ
- システム仕様(V、C、許容立上り時間tr、許容I0)を確定
- R≥V/ I0から下限を決め、同時にτ=R·C ≤ tr/5で上限側も確認
- Er≈1/2·C·V²よりパルス耐量を算出し、データシートのサージ曲線で可否判定
- 実装・温度条件でディレーティングし、抵抗形式(ワイヤ wound、厚膜、セメント抵抗など)を選ぶ
- バイパス方式(メインリレー/コンタクタ、MOSFET)と制御手順を定義
実装上の注意
プリチャージ抵抗は高エネルギーを消費するため、発熱・絶縁距離・難燃性を考慮する。配線は短くしループ面積を縮小してEMIを抑える。温度センサやサーミスタを近傍に配置し、異常温度で立上りを中断できると安全性が高まる。メインバイパスの投入は、DCリンク電圧が所定閾値(例:目標の90–95%)に達したことを確認してから行う。
故障モードと対策
- 抵抗開放:立上り不能。対策=充電完了判定のタイムアウト、フォールト処理。
- 抵抗短絡:突入電流保護喪失。対策=メインバイパスの遅延投入、ヒューズ/ブレーカで一次保護。
- 過熱劣化:抵抗値ドリフト。対策=十分なパルス耐量と温度ディレーティング、放熱経路確保。
代替方式との比較観点
NTCサーミスタは自己加熱で抵抗が下がり突入を抑えるが、低温始動や短時間再投入で効果が小さくなる。一方、固定値のプリチャージ抵抗+バイパスは再投入再現性に優れる。MOSFETによるソフトスタートは損失を低減できるが制御回路が複雑化する。用途(EVバッテリー、産業インバータ、DC電源)と要求信頼性で最適解を選ぶ。
制御シーケンス例
- メイン経路開放・プリチャージ抵抗経路ON
- DCリンク電圧監視(例:目標の95%到達または5τ経過)
- メイン経路ON・抵抗経路OFF(バイパス)
- 異常時(過電流/過温/電圧未到達)=停止・アラーム
規格・試験との関係
製品安全(絶縁、クリープ距離、発火性)、EMC(立上りスペクトル・伝導ノイズ)、環境試験(温度サイクル、振動)を念頭に置く。特にプリチャージ抵抗は単発ジュール耐量がボトルネックになりやすく、量産前に実機でのインパルス反復試験・温度上昇測定が有効である。
計算例(400 V/1000 µF)
DCリンクV=400 V、C=1000 µF、I0上限=5 Aとする。R=V/I=80 Ω、τ=R·C=0.08 s、約5τ=0.4 sで充電完了とみなす。Ec=1/2·C·V²=0.5×0.001×(400)²=80 J、抵抗消費も約80 J。初期瞬時電力P0=I²R=25×80=2000 Wだが、指数的に減衰するためパルス定格で評価する。選定としては、ジュール耐量≥80 J、適切なケースサイズと放熱を満たすワイヤwound系セメント抵抗が候補になる。
よくある誤り
- Rを小さくしすぎてI0が定格超過
- ジュール耐量不足での長期劣化
- 再投入条件(コンデンサ残電圧)を無視した制御
- 抵抗近傍の実装密度過多による熱結合
再投入と残電圧
残電圧Vresがある場合、実質のΔVはV−Vresであり、I0やErは低下する。逆に、短時間再投入でNTC採用時は素子が冷えず抵抗が低いままになり、抑制効果が変動する。固定プリチャージ抵抗はこの点で予測性が高い。
安全率の取り方
量産ばらつき、周囲温度、使用回数を考慮し、ジュール耐量・電圧・抵抗値に20–100%程度の安全率を持たせる。試作段階での温度上昇と波形実測は必須である。
関連部品・周辺要素
- メインバイパス:リレー/コンタクタまたはMOSFET
- 計測:電圧検出、シャントまたはホール素子
- 保護:ヒューズ/サーキットブレーカ、サージ吸収(TVS、MOV)
- 熱監視:NTC、温度スイッチ
設計チェックリスト
- V、C、I0、trの仕様一致
- R、τ、Er、P0の算出とマージン
- バイパス投入閾値と遅延の整合
- 放熱設計と部品実装クリアランス
- 量産試験(サイクル、温度、EMI)計画