プリチャージ回路|抵抗でソフトスタートして機器保護

プリチャージ回路

プリチャージ回路は、電源投入時に大容量コンデンサ(直流リンク/バスコンデンサ)へ流れうる突入電流を抑制し、安全かつ確実に所定電圧まで充電するための回路である。主接触器を投入する前段階で、抵抗やNTC、あるいはMOSFETを介して徐々に充電し、所定の電圧到達後にバイパス(短絡)して通常運転へ移行する。産業用インバータ、EVの高圧バッテリ、UPSや大容量SMPSなど、直流母線を持つ多くの機器で必須の安全・信頼性機能である。

目的と原理

コンデンサを電源へ直結すると、瞬間的に等価直列抵抗や配線抵抗に支配された大電流(インラッシュ)が流れ、ヒューズ溶断や接点溶着、EMI悪化を招く。これを防ぐのがプリチャージ回路である。基本原理は「初期は直列インピーダンスで制限して充電し、十分に電位差が小さくなったら短絡バイパスする」ことである。コンデンサ電圧の立ち上がりはおおむね指数関数で記述でき、初期電圧0の近似で Vc(t)=Vs·(1−e^(−t/RC)) と表せる。目安として 90% 到達時間は t≈2.3·R·C、99% は t≈4.6·R·C 程度である。

基本構成要素

  • 主電源/高圧DC源(例: 400–800 VDC)
  • 直流リンク用コンデンサ(電解/フィルム、容量C)
  • 主接触器(メインリレー/コンタクタ)
  • プリチャージ素子(抵抗、NTC、またはMOSFETアレイ)とプリチャージ用リレー
  • 電圧検出(分圧+ADC)と制御(BMS/MCU/PLC)
  • 放電抵抗(保守や異常停止後の残留電荷対策)

シーケンスの流れ

  1. 主接触器は開のまま、プリチャージ経路(抵抗やNTC、MOSFET)を投入。
  2. コンデンサ電圧がしきい値(例: 源電圧の90–95%)に達するまで待機。
  3. 主接触器を投入し、続けてプリチャージ経路を開放(バイパス完了)。
  4. 運転中は監視を継続。異常時は安全に遮断し、必要に応じて放電。

設計手順と要点

設計では「電流制限」「時間」「損失・サージ」「絶縁・定格」「検出・ロジック」を整合させる。

  • 電流上限 Ilim を定め、抵抗方式なら R≥(Vs−V0)/Ilim とする(V0 は初期電圧)。
  • 所要時間は t≈−R·C·ln(1−Vt/Vs)。運用上は 3–5τ(τ=R·C)を目安に設計する。
  • 抵抗初期損失は P(0)=Vs²/R と大きく、短時間のパルス耐量(Joule耐量)と電圧定格が重要である。
  • エネルギは近似的に WR≈½·C·(Vs²−V0²) を抵抗が熱として受ける。複数直列やワイヤ wound/厚膜の採用で分担する。
  • コンタクタはDC遮断定格・突入耐量・コイル消費・寿命を満たすものを選ぶ。
  • 検出は源電圧と母線電圧の差ΔVを監視し、ΔVがしきい値以下で主接触器を投入する。
  • タイムアウト・異常判定(到達せず/到達が早すぎる/差圧再拡大)とフェイルセーフを組み込む。

数値例(高圧DC/EV想定)

Vs=400 V、C=2 mF、Ilim=5 A とする。抵抗方式では R≥(400−0)/5=80 Ω、τ=R·C=0.16 s。90% 到達は約 0.37 s、99% は約 0.74 s。初期損失は P(0)=Vs²/R=160000/80=2000 W と大きく、短時間パルス耐量に優れた抵抗を用いる。電圧定格確保とエネルギ分散のため 3〜5 本直列/並列の組合せが実務的である。筐体内の熱拡散、リード線の許容電流、クリアランス/沿面距離も同時に満足させる。

NTC方式の特徴

NTCサーミスタは低コストで自己加熱により抵抗が低下し、初期インラッシュを緩和する。一方で連続再起動や高温環境では抵抗が十分に回復せず制限効果が弱まる、低温で初期抵抗が高すぎる、通電後の損失が残るなどの癖がある。高圧DCの厳密なシーケンスが必要な場面では、抵抗+リレーやMOSFET方式が選好されることが多い。

MOSFETソフトスタート方式

MOSFETを線形領域で制御し、電流(またはdV/dt)を能動的に規定する方式である。リレーを省略でき、損失を分散しやすく、温度依存性も小さい利点がある。設計の要は SOA(安全動作領域)内に収めること、ゲート駆動のスルーレート制御、並列分流のばらつき管理、サージ/ESD対策である。高耐圧FETの直列多段や電流フィードバック(電流検出+PI制御)により、再現性の高いプリチャージ回路が構成できる。

故障検出とフェイルセーフ

  • 未到達:規定時間内に Vc がしきい値に達しない→プリチャージ経路断/容量過大/漏れ。
  • 早すぎる到達:接触器溶着やリーク短絡の疑い→直ちに停止し絶縁診断。
  • 再差圧拡大:運転中にΔVが増大→主接触器トリップや供給低下の可能性。
  • ログ保存:到達時間、初期ΔV、温度を記録し経年劣化を監視。

実装上の注意

  • 抵抗・FETの発熱経路(基板銅厚/サーマルビア/ヒートシンク)と部品間の熱干渉を抑える。
  • 高電圧区画のクリアランス/沿面、汚染度、絶縁材トラッキング性を規格に整合。
  • 接点のサプレッサ(RCスナバ、TVS、ダイオード)で誘導性サージを抑制。
  • 電圧検出の分圧抵抗は許容誤差・電圧係数・自己発熱を考慮。フィルタは時定数を大きくし過ぎない。
  • 放電抵抗は保守要件(例: 数十秒以内に安全電圧)から値と定格を逆算。

以上のように、プリチャージ回路は電流制限素子の選定、時間定数の設計、エネルギ・定格・絶縁の整合、堅牢な検出とシーケンス制御を総合化することで、高信頼の直流リンクを実現する。