プラグコード
プラグコード(点火コード、ハイテンションコード)は、イグニッションコイルやディストリビュータからスパークプラグへ高電圧を確実に伝送する導体である。数十kV級のパルス電圧を瞬時に届け、気筒ごとの点火タイミングに合わせて火花放電を成立させる。耐熱・耐電圧・耐振動・電磁ノイズ低減の各性能が要求され、取り回しや固定方法も着火性能や耐久性に直結する。
役割と機能
主機能は高電圧の損失なき伝送である。加えて、ラジオやECUへの電磁妨害(RFI/EMI)を抑えるための抵抗・スパイラルコア構造を備える。二次電圧はおよそ20〜40kVに達し、リークやクロスファイアを防ぐため絶縁・配索が重要となる。
構造と材質
- 芯線(導体):銅芯、カーボン含浸繊維、スパイラル巻線(低抵抗でノイズ抑制の両立)
- 絶縁層:シリコーンゴムやEPDM。耐熱性、耐オゾン性、耐油性を確保
- シース:外装保護。耐擦傷・耐候性を付与
- 端子・ブーツ:プラグ側/コイル側の端子に耐熱シリコーンブーツを組み合わせ、気密・防水を確保
電気的仕様の目安
- 抵抗値:おおむね1k〜10kΩ/m(方式により差異)
- 耐電圧:パルスで数十kV相当の絶縁耐力
- 静電容量・インダクタンス:波形立ち上がりやノイズ抑制に影響
規格と試験の観点
自動車用点火ケーブルでは耐電圧、耐屈曲、耐熱老化、耐薬品、電磁ノイズの評価が行われる。メーカー仕様に従い、導通抵抗や絶縁抵抗、パルス通電時のリーク有無を確認することが一般的である。
故障モードと症状
- 絶縁劣化・ピンホール:雨天や高湿時の失火、夜間に青白いコロナ放電
- 芯線断線・高抵抗化:加速時の息つき、P030x系のミスファイアDTC
- 端子接触不良・腐食:始動性悪化、アイドル不安定、ラジオ雑音の増大
診断・点検方法
- 外観:擦れ、硬化、ひび、ブーツの炭化・トラッキング痕を確認
- 暗所観察:霧吹きで軽く湿らせ、放電痕やスパーク音の有無を確認
- 抵抗測定:整備書の規定値と比較し、著しいばらつきや高抵抗を判定
配索と設計上の留意点
熱源(エキマニ等)から離隔し、ホルダやステーで確実に固定する。鋭利なエッジや可動部との接触を避け、他のコードと平行・密着させすぎない。必要に応じ耐熱スリーブや遮熱板を併用し、ブーツ挿入時は誘電体グリースを薄く塗布して密封・防湿を高める。
種類と特徴
- カーボン抵抗線:ノイズ抑制に優れるが経年で抵抗上昇しやすい
- スパイラルコア:低抵抗で強い火花を得やすく、RFIも低減
- ソリッド銅芯:導通は良いがノイズ対策上、一般公道車では非推奨
整備と交換の指針
高温・振動環境で劣化するため、予防整備として定期交換が実務的である。交換時は気筒順を厳守し、1本ずつ入れ替える。端子は確実に「クリック」感が出るまで差し込み、取り外しはブーツ根元を保持して引く。併せてプラグやコイル、ディストリビュータキャップ/ロータの状態も点検する。
システムとの関係
ディストリビュータ方式では回転分配された高電圧をプラグコードで各気筒へ送る。DIS(コイルパック)では短いリードで接続し、COP(ダイレクトイグニッション)では基本的にコードが廃され、コイルがプラグ直上に配置されるため伝送距離が最短化される。
ノイズ対策と車載電子機器への配慮
ECUやセンサ、車載通信に干渉しないよう、抵抗入り構造や適切な配索・アース設計が求められる。ラジオ雑音やOBDスキャナでの異常が増える場合は、コード劣化や端子接触不良を疑う。
選定ポイント
- 熱環境:ターボや狭小室ではシリコーン外装や遮熱スリーブを重視
- 抵抗値:点火エネルギーとノイズ抑制のバランスを確認
- 車種適合:全長・端子形状・ブーツ角度、固定クリップ類の有無
取り扱い上の安全
点火系は高電圧を扱う。エンジン停止後に作業し、濡れた手や金属工具で端子部に触れない。測定・交換時は整備書の手順に従い、誤配線による着火順序の乱れを回避する。