ブルドーザ(湿地)
ブルドーザ(湿地)は、軟弱地盤・湿原・干潟・造成直後の盛土など支持力の低い路面での押土・整地を目的に、接地圧を大幅に低減した低接地圧型(LGP: Low Ground Pressure)のクローラブルドーザである。広幅シューや長尺の接地長、増設のトラックローラ、泥水浸入を抑えるシール構造、水際作業向けの防錆・防泥対策を備える点に特徴がある。一般の土工用機と同等の押土性能を保ちながら、スタック(自重での沈下・はまり込み)を避け、湿地での生産性と機械稼働率を高める設計となっている。
定義と適用領域
湿地用ブルドーザは「地盤支持力が小さく、車両単位面積当たりの荷重が沈下を誘発する環境」での常用を想定する。典型例は、河川堤防や調整池の築造、ため池・遊水地の浚渫土処理、農地の客土整形、林道のぬかるみ区間の路床整形、港湾の干潟造成などである。施工管理上は、路床CBRやせん断強度、含水比、間隙水圧の状態を踏まえ、ブルドーザの接地圧が許容地耐力を下回るよう機種選定・作業範囲の設定を行う。
低接地圧化の仕組み
接地圧は概ね p=W/A(W:車両重量による法線力、A:接地面積)で表せる。例えば運転質量19,000 kg級で接地長2.5 m、シュー幅0.90 m×左右2条のとき、A≒0.90×2.5×2=4.5 m²、W≒19,000×9.81≒186 kNより p≒186/4.5≒41 kPa 程度となる。一般幅0.61 mなら A≒3.05 m²、p≒61 kPa と増大し、沈下リスクが高まる。湿地機はこのAを拡大するため、広幅シュー(例: 760–1,000 mm)、長尺トラックフレーム、荷重分散に有利なローラ配置を採用する。
構造と主要部
主要構成は、広幅グローサーシューを備えた履帯、泥詰まりを逃がすオープン形状のトラックシューフレーム、水・泥の浸入を抑えるシールローラ・アイドラ、耐腐食仕様のピン・ブッシュ、ファイナルドライブの高防水シール、泥離れ性を高めたブレード背面形状、上部転倒保護構造(ROPS)・落下物保護(FOPS)などである。ブレードは湿地での押土・敷き均しに適したストレート(S)やアングル(A)が選ばれ、サイドキャストや薄層整地の頻度に応じて装備を決める。
走行・操縦上の要点
湿地では剪断強度の小さい表層を乱さず、面圧を分散する走行が重要である。旋回は原地旋回を避け緩やかな大径旋回とし、加減速は滑りを最小化する穏やかなスロットル操作とする。ブレードは薄層で均一に敷き均し、一工程当たりの沈下を抑える。段差越えは接地長を活用して前傾姿勢を小さく維持し、斜面では下り旋回を避ける。スタックの兆候(前進抵抗の急増、スリップ率上昇)が出たら直ちに後退して路面を回復させる。
施工計画と補助資材
- 仮設マット・敷板:木製マットや合成樹脂マットで面圧をさらに低減し、作業帯を段階的に延伸する。
- 排水・脱水:明渠・暗渠や暗排材で間隙水圧を抜き、地盤強度を回復させる。
- 改良材:必要に応じ石灰・セメント系で表層改良し、初期走行性を確保する。
- 救出計画:ウインチ・けん引ポイントの明確化、バックアップ機の配置、通信手順を事前に定める。
選定指標と仕様の読み方
機種選定では、接地圧(kPa)、シュー幅(mm)、接地長(m)、運転質量(kg)、エンジン出力(kW)、ブレード容量(m³)、最小旋回半径、後進・前進の変速レンジ、防水・防塵等級、トランスミッション(HST/パワーシフト)を重視する。湿地用では LGP 指定の有無、広幅シューのラインナップ、ローラ・アイドラのシールド構造、泥離れ設計、サーマル・腐食対策塗装などが比較ポイントとなる。
保守・点検と信頼性
湿地は泥・砂粒・塩分が多く、可動部の摩耗・腐食が進行しやすい。日常点検では、ローラシールの漏れ、アイドラの偏摩耗、ピン・ブッシュの伸び、シューの曲がり・割れ、スプロケット歯先の摩耗、ファイナルドライブの油乳化、ブレードピボットのガタを確認する。作業後は高圧洗浄で泥を除去し、排水穴の閉塞を解く。グリースは防水性・耐塩性に優れる仕様を採用し、電装コネクタは防水被覆で保護する。
安全・環境配慮
水際作業では転落・転倒・吸い出しによる不整地化のリスクが高い。作業帯のマーキング、立入規制、気象・潮位の監視を行い、視界不良時は中止判断を徹底する。環境面では湿原の植生・生態系への影響を最小化するため、走行回数の制限、仮設材の回収、濁水・汚濁の拡散防止、燃料・油脂の流出対策(防油堤・吸着マット常備)を実施する。運搬・洗浄時の外来種付着対策も重要である。
関連機との位置づけ
湿地での整地・薄層押土・法面均しを主目的としつつ、深い湛水や極端な軟弱地では浮上式作業船や長尺クローラの専用機を併用することがある。タイヤ式のモータグレーダやホイールローダは路盤形成後の仕上げ・積込に適し、湿地ブルドーザは初期整地・路体形成の段階で威力を発揮する。作業計画では、それぞれの機能を分担させることで、全体の工程短縮と沈下リスクの低減を図れる。