フーリエ解析
フーリエ解析は、関数や信号を正弦波・余弦波の重ね合わせとして表し、時間(空間)領域の情報を周波数領域へ写像して本質を抽出する手法である。周期関数はフーリエ級数、非周期信号はフーリエ変換で扱い、離散データにはDFT/FFTを用いる。線形時不変(LTI)系の入出力関係は畳み込みおよび周波数応答で簡潔に記述でき、微分方程式は周波数領域で代数方程式へ簡約される。機械振動、音響、熱伝導、通信、画像処理など幅広い工学分野において、スペクトル解析、フィルタ設計、異常検知、推定・同定の基盤となる手法である。
背景と基本概念
フーリエ解析の数学的基盤は、内積空間における直交基底の展開である。正弦・余弦は互いに直交し、係数は内積(積分)で決定される。周波数領域では、振幅スペクトルと位相スペクトルが信号の周期性・対称性・遅延を表す。偶関数は余弦成分、奇関数は正弦成分に優勢である。エネルギー保存はParsevalの関係で与えられ、時間領域の畳み込みは周波数領域の積に対応する(畳み込み定理)。
だいたいの話は「微分で線形近似する → その結果を線形代数のテクニックでまとめる → 最期にフーリエ解析を使って中学校レベルの計算に落とし込む」という構成になっています.
●微分・積分https://t.co/6VGahlnhvC
●線形代数https://t.co/iaNOkLF8i2
●フーリエ解析https://t.co/nk4NmEetNJ pic.twitter.com/d7V0gQAe5V— リニア・テック 別府 伸耕 (@linear_tec) September 20, 2025
フーリエ級数
周期Tの関数は、基本角周波数ω0=2π/Tの整数倍の調波で表現される。係数は直交性により一意に定まる。鋭い不連続を含む波形では、部分和の近傍に過大振幅が残るギブス現象が現れるが、収束は平均値の意味で保証される。実務では下記の性質を利用する。
- 収束条件(Dirichlet条件)を満たす関数はフーリエ級数で表現可能である。
- 三角波・矩形波・鋸歯状波など典型波形は高調波が解析的に求まる。
- 周期畳み込みや周期相関の計算に有利である。
フーリエ級数。
「どんなに複雑な波でも、基礎となる波(周波数、振幅、位相の異なるsin波)の組み合わせで構成できる」というのが、視覚的に見ると分かりやすい。… https://t.co/xsci0gTkuz— とき@engineer (@toki_engineer) October 8, 2025
フーリエ変換
非周期信号は連続周波数のスペクトルで表す。時間シフトは位相の線形項、微分は周波数領域でjω倍、積分は1/(jω)に対応する。ガウス関数のように自己フーリエ的な関数もあり、δ関数を含む広義の関数枠組みで厳密化される。パワースペクトル密度(PSD)は確率過程のエネルギ分布を示し、機械振動や騒音解析で有用である。
フーリエ変換ってこういうことだっんだね!納得!! pic.twitter.com/4AN3OFcZaV
— ハギ (@hagi_55y) October 10, 2025
離散フーリエ変換とFFT
サンプリング周波数fsで長さNのデータx[n]をDFTで周波数ビンk(k=0,…,N−1)へ写像する。周波数分解能はΔf=fs/Nであり、解析帯域は0〜fsの範囲(実信号では0〜fs/2の片側表示)となる。FFTはO(N log N)でDFTを高速化し、リアルタイム計測・制御や大規模データ処理を可能にする。実務では以下が重要である。
- ゼロパディングはスペクトルの補間可視化に有効であるが分解能自体は向上しない。
- 循環畳み込みの性質により、時間畳み込みはFFTベースの周波数積で高速化できる(overlap-add/overlap-save)。
- 振幅の正規化(2/N、片側スペクトルの2倍補正など)を明示する。
ウィンドウとスペクトル解析
有限長データの切り出しは漏れ(リーケージ)を生む。ハミング、ハン、ブラックマンなどのウィンドウは主ローブ幅とサイドローブ低減のトレードオフを制御する。主ローブが細いほど周波数分離は優れるが、サイドローブが高いと微小成分が埋もれる。用途に応じて窓補正係数(振幅・エネルギ)を用い、平均化(Welch法)でばらつきを低減する。
- 矩形窓:分解能は高いがサイドローブが高い。
- ハン/ハミング:一般的な漏れ低減に有効である。
- ブラックマン:より強い漏れ抑制が必要な場合に用いる。
畳み込みとフィルタ設計
LTI系では出力は入力とインパルス応答の畳み込みで与えられ、周波数領域では応答H(ω)の乗算となる。FIRフィルタは線形位相が得やすく、IIRフィルタは次数を抑えられるが位相非線形が課題となる。設計法には窓法、周波数サンプリング法、Parks–McClellan(等リップルFIR)、およびバタワース、チェビシェフ、楕円型(IIR)がある。群遅延、安定性、因果性、ゼロ位相(オフライン前後処理)などの仕様を周波数領域で整合させる。
解析上の注意点
サンプリング定理を満たさない取得はエイリアシングを生じるため、fs/2(ナイキスト周波数)以上の成分は前段アナログLPFで抑制する。リーケージ、ピケットフェンス効果、スキャロッピング損失は窓とデータ長の選択で緩和する。非定常信号には短時間フーリエ変換(STFT)を用いて時間–周波数特性を得る。直流成分やトレンドは事前に除去し、片側/両側スペクトル、RMS/ピーク、AM/PM表現などの規約を明示することが重要である。
フーリエ解析は理工系で学ぶ数学の「華」です.実際,ほとんどの分野の設計や分析はフーリエ解析の知識だけでなんとかなります.
フーリエ解析がわからないのは「微分・積分」の知識不足です.「オイラーの公式」を押さえるだけでも,かなり見通しがよくなります.https://t.co/6VGahlnhvC pic.twitter.com/YWMm6MSq9I
— リニア・テック 別府 伸耕 (@linear_tec) October 4, 2025
ギブス現象の実務対応
急峻な不連続を含む信号では部分和の過大振幅が残る。スペクトルターパー(例:Lanczosσ因子)、スムージング、適切な窓選択、空間・時間の過サンプリング、境界条件の整形(周期延長・ミラー延長)により振る舞いを制御する。
ギブス現象がチェザロ総和法で抑えられることを確認した pic.twitter.com/sH7JoJHAcM
— とある高専卒業生 (@subarusatosi) March 3, 2024
応用例
フーリエ解析は、回転機の状態監視における高調波・サイドバンドの診断、構造物の周波数応答関数(FRF)・モーダル解析、騒音のバンド解析、画像の周波数フィルタリング・エッジ抽出、通信のOFDM・帯域整形、パワエレのスイッチング高調波評価、熱伝導・拡散方程式の解法、逆問題の正則化、レーダ/ソナーのマッチドフィルタなどに利用される。設計・試験・運用の各段階で、「どの周波数の何が支配的か」を明瞭に示し、モデル簡略化と制御・最適化の方向付けを与える中核技術である。