フランシウム(Fr)|極短寿命の放射性アルカリ金属




フランシウム(Fr)


フランシウム(Fr)

フランシウム(Fr)は原子番号87、周期表第1族に属するアルカリ金属である。全同位体が放射性で、天然にはアクチニウム系列の壊変連鎖において痕跡量のみ生成する。最長寿命は質量数223で、およそ22分の半減期をもつ。強い放射能と希少性のためバルク試料の取得は不可能に近く、主として原子物理実験や核化学の研究対象となる。

原子構造と同位体

電子配置は[Rn]7s1であり、第1族特有のs電子1個を最外殻に持つ。既知の同位体はA=199〜233付近に分布し、うち223Frが最も長寿命である。223Frは主としてβ^-壊変によりラジウム223へ移行し、壊変定数が大きいことから化学実験の時間窓は数分〜十数分に限られる。核スピン・超微細構造の測定は、原子トラップ技術の発展により精密化が進んでいる。

天然での生成と人工合成

天然ではアクチニウム227の壊変分岐で微量発生し、ウラン鉱やトリウム鉱中に極めて低濃度で存在する。人工的には加速器で金などの標的に重イオンを入射して核反応を起こし、生成した原子を熱拡散で放出させイオン源に導入する手法が用いられる。蒸発後は電場・磁場で質量選別し、中性化してレーザー冷却・MOT(magneto-optical trap)に捕獲して研究に供する。

物理的性質(推定を含む)

金属フランシウムの融点・沸点は直接測定が困難で、多くは理論推定値である。一般に融点はセシウムに近い温度域、沸点は数百℃台と見積もられる。イオン化エネルギーは単純な族内トレンドから外れ、相対論的効果によりセシウムよりやや高い可能性が指摘される。このため単原子の気相反応性は「第1族で最強」とは断言できず、凝縮相での挙動との峻別が重要である。

化学的性質と化合物

化学形はFr+が支配的で、塩化物(FrCl)、硝酸塩(FrNO3)、水酸化物(FrOH)など、セシウム同族体に類似の化合物が生成すると考えられる。水溶液中では強電解質としてふるまい、水和イオン半径は第1族中で最大級と推定される。沈殿・抽出・イオン交換などの分離化学では、Rb+やCs+との分配係数差を利用し、担体添加法で動的平衡を短時間に達成させる運用が典型である。

測定・取扱い上の要点

  • 壊変熱と線量率:試料量は極微量でもβ^-やガンマ線の寄与に注意する。
  • 時間管理:半減期が短く、合成から測定までのリードタイム最小化が品質を左右する。
  • 封入:石英・ステンレス等のカプセル化と遠隔操作機器の併用が望ましい。
  • 定量:放射能計測(γ分光)を一次参照とし、化学収率は担体法で補正する。

安全衛生と法規制

体内動態はK+/Cs+と類似し、血液→軟部組織へ分配される可能性があるため、内部被ばく対策が最重要である。密封線源等級の管理、遮蔽体・遠隔ハンドリング、排気・表面汚染監視、実効線量の評価と教育訓練を徹底する。廃棄物は核種別の崩壊待機と減容化を計画的に実施する。

研究上の意義

重元素の相対論的効果検証、原子パリティ非保存(PNC)や電気双極子能率(EDM)の探索、核構造の同位体シフト・超微細準位の系統研究などで独自の価値をもつ。MOT内に10^3〜10^5原子規模で蓄積できれば、選択則に合わせた多段レーザー分光で遷移周波数やランドé因子の高精度測定が可能となり、標準模型を超える物理の制約にも寄与する。

歴史と命名

1939年、パリのキュリー研究所にいたマルグリット・ペレイがアクチニウムの精製過程で新元素を同定し、祖国にちなみ「フランシウム」と命名した。発見は壊変系列化学と放射能測定を統合した精緻な手仕事の成果であり、核化学分離の古典的到達点として位置づけられる。

物性データの不確かさについて

多くの熱力学量や結晶学的情報は、同族元素の外挿と量子化学計算に基づく推定である。報告値には系統誤差や手法依存のばらつきが含まれ得るため、参照時は測定法・理論モデル・不確かさ表示を併記するのが適切である。

要点の整理(データシート風)

  1. 分類:第1族アルカリ金属/周期7/ブロックs
  2. 原子番号:87(標準原子量は安定同位体が無いため[223]の表記が慣用)
  3. 主同位体:223Fr(t1/2≈22 min, β^-)
  4. 電子配置:[Rn]7s1/イオン:Fr+
  5. 代表化学種:FrCl, FrNO3, FrOH(推定)
  6. 主な用途:原子分光、PNC・EDM探索、核構造研究
  7. 主なリスク:内部被ばく、表面汚染、線量管理

用語と操作の実務メモ

短半減期核種の化学では「合成→分離→測定」の直列工程を秒〜分単位で最適化する。オンライン質量分離、担体迅速沈殿、微小体積のマイクロ流路、レーザー同位体選別などを組み合わせ、全滞留時間を最小化することが測定精度と安全性の双方を高める。必要に応じてフランシウム(Fr)の生成率・輸送効率・検出効率を逐次校正し、トレーサビリティを確保する。