フューエルポンプ
フューエルポンプは燃料タンクからエンジンへ燃料を圧送する装置であり、ガソリン車・ディーゼル車の燃料供給系を成立させる中核部品である。ガソリンのポート噴射では約300〜400 kPaの供給圧を維持し、直噴(GDI)ではカム駆動の高圧ポンプと組み合わせて5〜35 MPaの高圧を生成する。ディーゼルのコモンレールでは100〜200 MPa級の高圧を扱うため、低圧側のサプライポンプと高圧側のプランジャポンプを使い分けるのが通例である。車載用ではタンク内蔵式が主流で、燃料でモータを冷却・潤滑し騒音とキャビテーションを抑える構造を採る。なお、化学的適合性や耐久性は燃料の種類(E10やE85等)と温度条件に大きく依存するため、材料選定とろ過設計が重要である。
種類と構造
- タンク内蔵電動式:DCモータでタービン/ローラーベーン/ギアを回し、比較的低〜中圧を連続供給する。モジュール内にストレーナやレギュレータ、液面計を統合する設計が一般的である。
- 機械式ダイヤフラム:旧来のキャブ車で用いられ、カムの偏心で膜を往復させる。現在は置換が進む。
- 高圧プランジャ:GDIやディーゼルで用いられ、カムでプランジャを駆動しチェックバルブで吸入・吐出を制御する。低圧側のサプライポンプと併用する。
作動原理
電動式はモータの回転をインペラやベーンに伝え、流体の動圧/容積移送で吐出する。プランジャ式はカムで容積を周期変化させ、吸入弁・吐出弁で脈動しつつ高圧化する。タンク内蔵式では燃料に包まれることで冷却と防音が得られる一方、ストレーナの目詰まりや燃料残量低下に伴うキャビテーションが吸込み損失を増やすため、流入条件の確保が重要である。
性能指標
- 吐出量:L/h。エンジン消費に対し20〜30%の余裕を持たせる設計が推奨される。
- 定格圧力・圧力保持:始動時・全負荷時の必要圧を満たし、停止後の残圧保持性も評価する。
- 効率・消費電力:車両電源12 Vでの電流値、熱上昇、効率ηを確認する。
- 騒音・振動:dB(A)で評価し、モジュール防振や流路最適化で低減する。
- 耐久性・信頼性:温度、エタノール混合、硫黄分、微粒子による劣化への耐性。
- ろ過性能:ストレーナとフィルタ(例:10〜30 µm)の組み合わせでポンプ寿命と噴射系の保護を図る。
制御方式
ECUはPWM制御で電圧/デューティを変調し、需要に応じて吐出量を制御する。リターンレス方式ではポンプ側で吐出を最適化し、燃料レールのレギュレータやフィードバックで目標圧を保持する。GDI高圧側は吐出弁/スピル弁でレール圧を精密に制御する。
設計・選定の要点
- 必要流量の算出:BSFCと出力から燃料質量流量を求め、密度で体積流量に換算する。例えば100 kW、BSFC 280 g/kWh、密度0.74 kg/Lなら約38 L/hとなり、余裕係数を掛けて選定する。
- 必要圧の見積り:噴射方式、配管損失、レギュレータ特性を含めて最悪条件で満足させる。
- 配線・熱設計:電圧降下と発熱を抑える配線径とコネクタ選定が必須である。
- 材料適合:E10/E85対応のシール・樹脂・金属を選ぶ。
- 周辺機器整合:ストレーナ/フィルタ、レギュレータ、リレーと整合させ、サービス性も確保する。
故障モードと診断
代表的症状は始動不能、息つき、加速不良、異音、燃圧低下である。診断は燃圧計での圧確認、流量試験、電流波形、配線抵抗の測定が有効である。OBDではP0087(Fuel Rail/System Pressure Too Low)等が記録されることがある。ストレーナ詰まりやフィルタ交換不良、ハーネス腐食、タンク内残量低下による吸込み不良も疑うべきポイントである。
安全・法規・試験
防爆性・耐圧性・耐漏れは重要であり、車両規制やISO/SAEの試験に準拠して評価される。タンク内蔵式では燃料蒸気の揮発抑制やEVAP制御との一体設計が求められる。締結部は適切なボルト・ナット管理とシール設計で漏れを防止する。
関連要素とシステム全体
フューエルシステムはポンプ、フィルタ、レール、インジェクタ、レギュレータ、ECU、配管から成る統合系である。過給エンジンではターボチャージャーのブーストに応じて燃料需要が増大し、ポンプ容量の余裕が重要となる。基礎概念として圧力・流量・粘度の影響を理解し、一般機械要素としてのポンプ知識、動力源としてのガソリンエンジンやディーゼルエンジンの要求特性と合致させることが重要である。
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