フォージングハンマー
フォージングハンマーは、上部ラムと下部アンビル間で金属素材に繰り返し打撃を与え、塑性変形を促して所定形状と鍛流線を形成する鍛造機である。自由鍛造から型鍛造まで幅広く用いられ、衝撃的に付与される打撃エネルギーにより高い成形性と内部欠陥の閉鎖を実現する。プレスが静的荷重を連続的にかけるのに対し、フォージングハンマーは瞬間的な衝撃と高応力勾配で材料を流動させるため、バリ生成や金型寿命、素材加熱条件など工程設計上の勘所が異なる。代表的には空気式、蒸気式、重力落下式、カウンターブロー式などがあり、打撃エネルギーの制御性、打撃数、据え付け基礎の規模が選定の要点となる。
原理と構造
フォージングハンマーは、フレーム、ラム、アンビル(基礎塊を含む)、上下一対のダイ(金型)、駆動・制御系から構成される。ラムに運動エネルギー(落下エネルギー+駆動エネルギー)を与えて被加工材に衝突させ、接触瞬間の高圧力で材料を塑性流動させる。アンビル質量は衝撃吸収と反発抑制のためにラムより十分に大きく設計され、基礎コンクリートや防振装置によって周辺への振動伝播を低減する。近年はバルブ制御や電空サーボで打撃エネルギーを細かく調整し、成形精度と金型寿命の両立を図る。
種類
- 空気ハンマー:圧縮空気でラムを往復させる。応答性に優れ、打撃エネルギーの調整が容易である。
- スチームハンマー:蒸気で駆動する古典的方式。大容量機で歴史的に普及したが、省エネと制御性の点で置換が進む。
- ドロップハンマー:重力落下(時にばね・エア補助)で打撃する。型鍛造に多く、順次の予成形から仕上げ打ちを行う。
- カウンターブローハンマー:上下ラムが互いに向かい合って同時に衝突する。基礎負荷を抑えつつ高い相対速度を得る。
主要仕様と能力指標
- 打撃エネルギー:E(kJ)。ラム質量m(kg)と有効落下高さh(m)から概算E≈m・g・hで見積もる。
- ラム質量・ストローク:成形可能断面と深さに影響。長尺物や肉厚成形では長ストロークが有利である。
- 打撃数:BPM(打撃/分)。生産性と温度降下のバランスに関与する。
- アンビル質量比:アンビル/ラムを十分大きく取り、反力と振動を抑制する。
- ダイ寸法・締結:型寿命、位置決め精度、熱伝達に直結する。
工程設計とダイ設計の要点
- 体積配分:素形材体積は最終製品+フラッシュ(型鍛造)を過不足なく設計し、充填不足と過大バリを防ぐ。
- 予成形→仕上げ:段取り打ちの各パスで材料流動方向(鍛流線)を制御し、折れ・ラップを回避する。
- ドラフト角・抜き勾配:型離型性を確保し、側面擦れ・欠肉を抑える。
- 合わせ面・バリ溝:フラッシュで内部圧力を高めつつ、必要最小限の幅・深さに保つ。
- 潤滑:黒鉛系やホウ酸塩系などを温度域と材質に合わせて選択し、焼付き・型カジリを低減する。
材料と加熱管理
炭素鋼・合金鋼は再結晶温度以上で加熱し、鍛造温度域(例:中炭素鋼で約900–1,200℃)を維持する。アルミニウム合金は450–520℃程度、チタン合金はβ変態点近傍に留意する。過熱は結晶粒粗大化と酸化スケール増加を招き、低温は割れや鍛造不足の原因となる。フォージングハンマーでは打撃間の温度降下が速いので、BPMと素材予熱、作業者段取りの最適化が重要である。
品質と欠陥、対策
- ラップ・折れ込み:予成形不足や材料流動の逆流で発生。パス設計とバリ溝設計を見直す。
- 割れ:低温打撃や応力集中が原因。端部R付与、温度管理、潤滑改善で抑制する。
- 繊維流れ(鍛流線):荷重経路に沿って整えることで疲労強度・靱性が向上する。
- 寸法精度:打撃エネルギーばらつきと弾性戻りに起因。エネルギー制御と仕上げ型の逃げ量設定で補正する。
- 熱処理連携:焼ならし・焼入れ焼戻しで組織を均質化し、要求特性を満たす。
設備基礎と防振・安全
フォージングハンマーは衝撃騒音・振動が大きいため、基礎ブロックと防振材で固有振動数の分離を図る。防音囲い、局所排気、耐熱保護具、つかみ具の確実な保持、金型飛散防止の養生は必須である。潤滑・冷却系の管理、ボルトの定期増し締め、クラック探傷など予防保全で突発停止を防ぐ。
適用例
自動車のクランクシャフトやコンロッド、足回り部品、建設機械のリンク、工具類(レンチ、ハンマー頭部)、航空機用高強度部材などに用いられる。自由鍛造では大型軸物やリング材の下打ちに活躍し、型鍛造では量産部品の高能率成形を担う。近年はデジタル化で打撃波形の見える化とトレーサビリティを実現し、熟練依存を低減している。
計算の目安
打撃エネルギーは概算でE≈m・g・h(kJ)と表せる。例えばラム質量m=2,000kg、h=0.5mならE≈2,000×9.8×0.5≒9.8kJとなる。必要エネルギーは投影面積、材料強度、摩擦状態に依存し、仕上げ打ちでは過大エネルギーを避けて寸法ばらつきを抑える。BPMは過度に上げると温度降下を補える一方、騒音・振動・型摩耗が増すため、製品と職場環境を両立する設定が望ましい。