フェルミウム(Fm)
フェルミウム(Fm)は原子番号100のアクチノイド元素であり、自然界には存在せず人工的に合成される超ウラン元素である。1952年の水素爆弾実験「Ivy Mike」の爆発残渣から発見され、イタリア生まれの物理学者Enrico Fermiにちなみ命名された。既知同位体はすべて放射性で、最長寿命はおおむねFm-257(約100日)である。水溶液化学では3価が最安定で、強い還元条件下で2価も安定化可能とされる。極微量でのみ得られるためバルク物性の直接測定は限られ、主に分離分析化学・核化学・アクチニド化学の基礎研究に用いられるにとどまる。
発見と命名
フェルミウム(Fm)はAlbert Ghiorsoらによる核実験残渣の化学分離・αスペクトル解析から同定された。発見は1952年であるが、軍事機密のため公表は数年遅れた経緯を持つ。命名は原子炉物理・中性子誘起反応の先駆者であるEnrico Fermiに敬意を表したもので、アクチノイド系列における里程標として位置付けられる。
歴史的背景
熱核爆発場では強い中性子束によりUやPuが多重中性子捕獲を繰り返し、β–崩壊系列を経て超ウラン元素が生成する。フェルミウム(Fm)の初出が核実験由来であった事実は、r過程的中性子フラックスが超重核生成に有効であることを示す象徴的事例である。
核種と半減期
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Fm-257:最長寿命核種で、おおむね100日規模。主としてα崩壊と自発核分裂を示す。
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Fm-255:半減期は約20時間で、化学実験・分離条件最適化の実働核種として扱われることが多い。
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Fm-253:半減期は約数日。合成・分離の検証用として報告例がある。
崩壊モードの概観
いずれの核種もα崩壊と自発核分裂の競合が見られる。核分裂片の自己照射は結晶格子欠陥を増やし、バルク試料の安定保存と物性測定を困難にする要因となる。
生成法とターゲット設計
フェルミウム(Fm)は高フラックス炉での多重中性子捕獲により、UやPu、Cm、Bk、Cfといった重アクチノイドからβ–崩壊系列を経て生成される。工学的にはターゲット核種の選択、照射フラックスと照射時間の最適化、ならびに冷却期間中の核変換計算が重要である。加えて、照射後化学処理(溶解→酸化状態制御→クロマト分離)までを一体設計することが歩留まり向上の鍵となる。
電子配置と酸化状態
原子の基底電子配置は一般に[Rn] 5f12 7s2と表される。溶液中では3価(Fm3+)が最安定で、硬い配位子場で8〜9配位をとると理解される。強い還元剤存在下では2価(Fm2+)も生成し得るが、酸化還元電位は近接アクチノイドと同程度であり、反応系のpH・錯形成平衡・溶媒抽出条件に強く依存する。
溶液化学・錯形成
Fm3+は酸性域で水和錯体をなし、pH上昇に伴い加水分解・加水分解重合が進行する。DTPAやEDTA、HDEHP等の配位子・抽出剤は配位化学的選択性を与え、隣接元素(例えばEsやCf)との分離係数を調整できる。イオン半径はアクチニド収縮の文脈で理解され、同族間の溶媒抽出挙動やイオン交換保持時間の系統性に寄与する。
分離・分析法
実験量は通常フェムト〜ピコモル水準であり、担体無添加条件(carrier-free)での操作が一般的である。代表的手法は、酸化状態制御下の陰・陽イオン交換クロマトグラフィー、抽出クロマトグラフィー、並びに電着後のαスペクトロメトリーである。核種同定には崩壊系列・α線エネルギーの一致確認に加え、必要に応じてTIMSやICP-MS等の質量分析で同位体比を補足する。
固体・物性の推定
マクロ量の金属や化合物は得難く、格子型・融点・熱物性の直接測定は乏しい。理論的には後期アクチノイドに共通する5f電子の局在化が示唆され、2価金属様挙動の現れやすさが論じられるが、自己照射欠陥と短寿命が物性評価の制約となっている。
安全衛生と取扱い
フェルミウム(Fm)は強いα線源であり、外部被曝よりも内部被曝リスク(摂取・吸入・創傷)が支配的である。遮蔽・密閉系(グローブボックス)、負圧排気、非拡散的な湿式操作、表面汚染の厳格管理が必須である。廃棄物は自発核分裂由来の線量率上昇にも配慮し、臨界安全と作業者線量の両面から保管設計を行う。
応用と研究意義
産業用途はなく、研究的価値が中心である。具体的には、(1) 後期アクチノイドの酸化還元化学・錯形成の系統性検証、(2) 核分裂断面積・壊変データ整備、(3) 超重元素合成実験の前駆核種としての挙動理解、が主要テーマである。これらは核燃料サイクルの基礎物性や高放射化廃棄物分離の化学指針にも間接的な示唆を与える。
関連事項
同系列のアクチノイド(例えばカリホルニウム、アインスタイニウム、メンデレビウム、ノーベリウム)は化学的に近縁であり、分離係数や錯形成挙動の差異が設計パラメータとなる。元素100という位置付けは、5f電子の局在化が顕在化する境界領域として理論・実験の双方で注目される。