フィルタ(電気)|周波数で選別しノイズ成分を低減

フィルタ

フィルタとは、信号や電力の周波数成分・雑音成分・波形特性を選択的に通過または除去する回路・アルゴリズムである。電気・電子ではアナログ回路(受動素子やオペアンプ)およびデジタル信号処理(FIR/IIR)として用いられ、電源ラインのノイズ低減、無線通信の帯域選択、音響のトーン制御、制御工学の応答整形、産業機器のセンシング平滑化などで広く利用される。基本仕様には通過帯域・阻止帯域、遮断周波数、減衰量、リップル、群遅延、位相線形性、挿入損失、インピーダンス整合などがある。

基本分類(LPF/HPF/BPF/BEF/All-Pass)

フィルタは周波数選択で分類できる。低域通過(LPF)は高周波ノイズ除去や平滑化に用いる。高域通過(HPF)は直流オフセットやドリフト除去に有効。帯域通過(BPF)は無線受信のチャネル選択や振動診断の狙い周波数抽出に使う。帯域阻止(BEF/Notch)は商用電源ハム(50/60Hz)や特定妨害波の除去に便利。All-Passは振幅を保ったまま位相だけを整える。

アナログ受動・能動フィルタ

受動型はR・L・Cのみで構成し、広帯域・高耐圧・低ノイズが特長。電源ラインのEMI/EMC対策ではLC/π型やコモンモードチョークと安全規格対応のX/Yコンデンサを組み合わせる。能動型はオペアンプを用い、低次から高次まで実装容易で、代表トポロジーにSallen-Key法、Multiple-Feedback法、状態変数法がある。設計ではQ(選択度)とダンピング、部品許容差、等価直列抵抗(ESR)、発振余裕、電源レール・ヘッドルームを確認する。

特性近似(Butterworth/Chebyshev/Elliptic/Bessel)

減衰特性の設計では近似法を選ぶ。Butterworthは通過帯域がフラットで扱いやすい。Chebyshev(I型)は通過帯域にリップルがあるが低域外の立上がりが急峻。Elliptic(Cauer)は通過帯域・阻止帯域の両側に零点を持ち、最も急峻だがリップルと群遅延の歪みが大きい。Besselは群遅延が平坦で過渡応答が良く、ステップ応答のリンギングを抑えたい計測・音響で有利である。

デジタルフィルタ(FIR/IIR)

FIRは線形位相が実現しやすく安定性が自明、ウィンドウ法やParks-McClellan法で係数設計を行う。一方IIRはIIR=Infinite Impulse Responseの略で、双一次変換(Bilinear)や周波数変換によりアナログ原型(Butterworth等)から係数化し、少次数で急峻特性を得やすい。実装では量子化誤差、固定小数点のスケーリング、演算遅延、オーバーフロー対策、サンプリング定理とアンチエイリアス(前段アナログLPF)を考慮する。

電源ラインとEMI対策

スイッチング電源やインバータでは、コモンモード・ディファレンシャルモード双方のノイズが問題となる。コモンモードはコモンモードチョーク+Yコンデンサ、差動成分はLC/π型で対処する。挿入損失と共振周波数、負荷側のインピーダンス依存性、コンデンサの自己共振、チョークの漏れインダクタンス・飽和電流を確認する。安全規格では耐圧・漏洩電流などの制限に従う。

通信・音響・制御への応用

通信では帯域割当・隣接チャネル抑圧にBPF・SAW・誘電体共振器が使われる。音響ではトーン回路、クロスオーバフィルタ、イコライザが基本。制御ではセンサノイズ抑制にLPFを使うが、遅れ(群遅延)が位相余裕を減らすため、カットオフ設定はノイズ低減と応答性のトレードオフで決める。カルマンフィルタのような確率的推定は、雑音下での状態推定に有効である。

設計手順と実装上の勘所

  1. 仕様定義:通過帯域/阻止帯域、減衰量、群遅延、許容波形歪、コスト・サイズ・発熱条件。
  2. 方式選択:アナログ(受動/能動)かDSP/MCU実装か、混在構成か。
  3. 近似法と次数:Butterworth等を選定し必要次数を見積もる。
  4. 部品選定:Cの誘電体、Lのコア材、オペアンプのGBW・スルーレート・ノイズ密度。
  5. レイアウト:リターン経路短縮、グラウンド分割、シールド、配線寄生成分の抑制。
  6. 検証:ボード線図、Sパラメータ、実機でベクトルアナライザ/オシロ評価。

産業機器での実例

インバータ駆動モータではスイッチング周波数成分の伝導・放射ノイズが生じるため、入力側にEMIフィルタ、出力側にdV/dt対策用のLCやサイン波フィルタを置く。センサ計測ではブリッジ回路後段にアンチエイリアスLPF、デジタル側でFIR移動平均や指数平滑を重ね、突発ノイズや周期性妨害にNotchを併用する。空間が限られる場合は集積フィルタICやSAW/BAWを検討する。

部品誤差・温度特性の影響

RLCの許容差・温度係数は遮断周波数やQに直結する。E96系列などの高精度抵抗、C0G/NP0等の温度安定なコンデンサを用いると特性変動が抑えられる。Lは直流重畳でインダクタンスが低下しうるため、飽和電流に十分な余裕を取る。

インピーダンス整合と安定性

ソース・ロードのインピーダンスにより実効伝達関数は変化する。アクティブフィルタではオペアンプのGBW不足や位相余裕低下で発振することがあり、利得帯域とスルーレート、負荷容量、出力段の位相補償を確認する。

実装チェックリスト

  • グラウンド・リターンの最短化と分離、シールドの適用
  • コモンモード/差動ノイズの経路可視化
  • 自己共振周波数(SRF)と寄生成分の見積り
  • 熱・耐圧・クリアランス/クリープ距離
  • 規格試験(伝導/放射、安規)に合わせたマージン設計

なお、締結要素の〈ボルト・ナット〉の選定や筐体の導通設計もEMI低減に関わる。詳細はボルトを参照されたい。以上のようにフィルタは仕様策定から回路方式、部品・レイアウト、規格適合に至るまで多面的な検討を要する要素であり、産業応用での信頼性・安全性・性能の基盤を支える。