フィルタ設計|周波数設計でノイズ低減と形状制御

フィルタ設計

信号処理や制御、通信、計測において、不要成分を抑圧し所望の帯域のみを通過させる仕組みを設計する行為をフィルタ設計という。アナログ回路では受動素子や能動素子の定数から伝達関数を構成し、デジタル領域では差分方程式や有限長インパルス応答(FIR)・無限長インパルス応答(IIR)で特性を与える。設計の中心は「仕様→近似法の選択→定数決定→実装→検証」の流れであり、理想特性(ブリックウォール)は実現不可能であるため、リップルや遷移域、群遅延、量子化誤差、数値安定性などの現実的妥協を扱うことになる。

仕様定義と性能指標

フィルタ設計はまず周波数仕様(通過域端周波数、阻止域端周波数、遷移帯域幅)、振幅仕様(通過域リップル、阻止域減衰量)、位相仕様(線形位相・群遅延の許容)、実装制約(次数、演算量、消費電力、固定小数点ビット幅)を定める。サンプリング周波数やアンチエイリアス対策、遅延許容、リアルタイム性も併せて規定することが肝要である。

アナログフィルタの基礎

アナログ領域ではラプラス領域の伝達関数H(s)を所望特性に近似する。代表的近似はButterworth(平坦通過域)、Chebyshev I(通過域等リップル)、Chebyshev II(阻止域等リップル)、Elliptic(両域等リップルで最小次数)、Bessel(良好な群遅延)である。これらの正規化低域プロトタイプを周波数変換して高域・帯域通過・帯域阻止を得る。実現はSallen–Key、MFB、GM-C、アクティブRCなどが用いられる。

デジタルFIRとIIR

離散時間ではFIRは線形位相が容易で安定性が自明だが次数が大きくなりがちである。IIRは双一次変換(BLT)やインパルス不変法でアナログプロトタイプから導出し、少次数で鋭い遷移が得られる一方、位相非線形や安定性・固定小数点感度への配慮が必要となる。用途に応じてFIR/IIRを選択し、ハイブリッド構成も検討する。

FIRの設計法(窓関数・最小最大)

窓関数法は理想インパルス応答を有限長で切り出し、HammingやBlackmanなどでサイドローブを制御する単純堅牢な方法である。高性能を要する場合はRemez交換法(Parks–McClellan)によりChebyshev意味で近似誤差を等波形化し、与えた重みで通過域・阻止域の誤差を配分する。線形位相要件は係数の対称性で実現する。

IIRの設計法(プロトタイプ近似)

IIRはButterworthやElliptic等のアナログプロトタイプを選び、双一次変換で離散化する。周波数ワープを考慮して前置ワーピングを行い、双一次変換後に規定のディジタル境界周波数となるよう補正する。数値実装では直列・並列分解や二次セクション(SOS)によるスケーリングで感度を低減する。

設計手順(実務フロー)

  1. 利用目的を明確化(雑音抑制、帯域制限、復調、整形)し、許容遅延と計算資源を見積もる。
  2. 仕様値を数値化(通過域・阻止域・リップル・減衰量・群遅延)。
  3. 方式選定(FIR/窓 or Remez、IIR/Butterworth等)。
  4. 次数見積もりと係数設計、量子化ビット幅設計。
  5. 固定小数点化、スケーリング、オーバーフロー対策。
  6. 評価(振幅・位相・群遅延・時間応答・数値安定性)。
  7. 実機検証(SNR、THD、リアルタイム性、温度・電源変動耐性)。

位相特性と群遅延

フィルタ設計では振幅特性だけでなく位相線形性が重要である。音響・計測・通信の一部では群遅延の歪みが致命的となるため、FIR線形位相やBessel/IIR位相補償を用いる。位相補償は全域通過フィルタや整形FIRで実現する。

数値実装と固定小数点

実装では量子化により零・極の移動や丸めノイズが生じる。IIRは係数感度が高く、直列二次セクション化と適切なスケーリングでオーバーフローを避ける。FIRは畳み込みの畳み込み長に比例して演算量が増えるため、対称性利用やpolyphase、FFT畳み込み(オーバーラップ保存/加算)で高速化する。

マルチレートとローパワー設計

サンプリング変更を伴う系では補間・間引きのための半帯域FIRやCICを用いる。マルチレートは演算量を大きく削減し、低電力化に寄与する。カスケードでCIC→補償FIRを構成し、遷移域と阻止域減衰を所望に整える。

アクティブアナログ実装上の要点

オペアンプのGBW、スルーレート、ノイズ、入力バイアス、電源電圧範囲は実現帯域とダイナミックレンジを制約する。受動部品の許容差・温度係数も特性に影響するため、トリミングや広帯域デバイス選定、シミュレーションとモンテカルロ解析で頑健性を担保する。

検証・評価

評価では振幅・位相・群遅延特性、インパルス・ステップ応答、雑音・歪み、固定小数点誤差、過負荷時の安定性を確認する。実機ではスペクトラムアナライザやオシロスコープ、BERT等で要件合致を検証し、必要に応じて仕様をリバランスする。

設計トレードオフの整理

フィルタ設計は「遷移帯域の狭さ⇔次数・演算量」「阻止域減衰⇔リップル」「線形位相⇔遅延・次数」「IIRの効率⇔位相非線形・安定性」などの対立関係を扱う。目標機能に直結する指標を優先度付けし、必要最小の複雑度で堅牢な実装に落とし込む姿勢が重要である。