ファイヤーセーフ設計|火災時でも封止・機能を確実に維持

ファイヤーセーフ設計

ファイヤーセーフ設計とは、火災時に人命を守り、被害拡大を抑え、重要機能の維持・安全停止を可能にする工学的アプローチである。機器単体から建築・プラント・インフラまでを対象に、火源の発生抑制、燃焼の継続阻止、区画化による延焼防止、検知・抑制・避難の統合までを体系化する点に特徴がある。しばしばファイヤーセーフ設計は「fail-safe」と混同されるが、前者は火災現象と煙・熱・有毒ガスへの備えを主眼とし、後者は故障時に安全側へ移行させる制御哲学であり、両者を重ね合わせることで総合安全度が高まる。

原則と目的

ファイヤーセーフ設計の根幹は「予防」「遅延」「隔離」「検知」「抑制」「避難」「復旧」の連鎖である。火源の確率を下げ、発生時は熱・煙の拡大を遅らせ、区画で封じ、早期に検知し、適切に消火し、合目的な動線で退避し、最後に機能を段階的に復旧させる。各段階は独立して冗長性を持たせつつ、相互作用(例:防火戸の自動閉鎖と加圧防煙の連携)を確実にする。

リスク評価と設計プロセス

  • ハザード同定:着火源(電気火花、過熱、摩擦、静電気)、可燃物(溶剤、樹脂、粉じん)、酸素供給源を洗い出す。
  • 分析・評価:FMEA、HAZOP、FTA、LOPA、QRAで発生確率・結果の重大度を定量化し、許容リスク基準に合わせて対策層を設計する。
  • 性能設計:熱発生率(HRR)、煙生成、臨界放射熱流、ASET/RSETを用い、区画・排煙・避難の成立性を検証する。

材料選定と難燃化

ファイヤーセーフ設計では不燃・難燃材料の採用が基盤である。樹脂部品は UL 94 V-0、LOI向上、低発煙・低毒性を選定する。配線・ケーブルは LSZH 被覆を用い、ケーブルダクトには延焼抑制のための分岐長制限と防火区画貫通部の止水・止煙処理を徹底する。鋼部材は耐火被覆や膨張性耐火塗料で断熱し、アルミ・銅など高熱伝導材は熱橋による延焼経路にならないよう絶縁層を介在させる。

区画・構造設計

火炎・煙の移動を物理的に止めるには、耐火性能を持つ区画と貫通部処理が要である。壁・床・天井は要求耐火時間(例:1h、2h)を満たし、扉は自己閉鎖・遮煙等級を満たす。貫通部はケーブル、配管、ボルトなどの金属貫通体周囲に認定品の防火シール材を用いて隙間をなくし、熱膨張時の追従性も確認する。機器間の離隔は可燃物・放熱・保守性に基づき設定する。

検知・抑制・排煙の統合

  • 検知:光電式・熱式・吸引式などの自動火災検知を用途別に配置し、冗長系で誤報と未感知のバランスを取る。
  • 抑制:スプリンクラー、水ミスト、粉末、CO₂、清浄消火剤(例:HFC-227ea)の選定基準を可燃物と設備特性から定める。
  • 排煙:自然排煙・機械排煙を区画・天井高さ・HRRに適合させ、加圧防煙と防火戸制御の連動を確実化する。

電気・制御の安全機能

電装は火災時の安全停止と避難性を担保する。非常遮断(ESD)ロジックは安全側停止を基本とし、電源の選択遮断、火災感知連動のファン停止・防火ダンパ閉止、エレベータ帰還などを定義する。ケーブルは耐火・耐熱・耐煙仕様を要所に適用し、冗長配線は区画を分離して共倒れを避ける。必要に応じて IEC 61508/61511 に基づく SIL 水準を割り当てる。

可燃物・バッテリ・粉じんへの配慮

リチウムイオン電池は熱暴走の抑制が重要である。BMS による過充電防止、セル間熱絶縁、ベント経路、気体検知(H₂、CO)を組み合わせる。可燃性液体は二重堰と漏洩検知を設け、可燃性粉じんは集塵・アース・温度監視で着火を防ぐ。可燃ガス設備はリーク検知と換気量設計を行い、着火源管理(スパークレス工具、静電気対策)を徹底する。

規格・試験とコンプライアンス

ファイヤーセーフ設計は各種コードへの適合で検証する。代表例として NFPA 群、ISO 834(耐火試験)、ISO 9705(ルームコーナー)、ISO 5660(コーンカロリメータ)、UL 94(樹脂燃焼性)などがある。建築・設備は所管法令・告示・指針に照らし、性能設計時はシナリオ妥当性、境界条件、検証計算のトレーサビリティを確保する。

設計検証と訓練

  • 解析:CFD による煙性状、熱貫流解析、避難シミュレーションでボトルネックを洗い出す。
  • 試験:区画の気密・耐火、貫通部の止煙、システム連動(検知→警報→防火戸→排煙)を統合試験で確認する。
  • 訓練:初期消火、避難誘導、指令系統を定期演習で定着させ、教訓を設計へリードバックする。

製造・据付・保守の要点

製造段階では可燃残渣・切粉・油分の清掃、配線被覆の傷防止、圧着品質、端末処理、防火シールの施工品質が重要である。引渡し時は図面・ケーブル表・区画図・連動表を整備し、保守では検知器の感度点検、消火設備の機能試験、非常電源の自家用発電・蓄電の点検、経年劣化による止煙材の再施工などを計画的に実施する。

よくある設計不備(再発防止の観点)

  1. 貫通部止煙の未施工や増設配線の放置で区画性能が低下する。
  2. 機器更新時に防火戸・排煙の連動が切断され、検知からの自動動作が成立しない。
  3. ケーブル束の過密で局所的な HRR が上昇し、避難時間の余裕が失われる。
  4. 清浄消火剤の適用外(深層火災・再燃)への誤用で抑制効果が限定的となる。
  5. 保守点検記録の欠落により、是正・予防措置の実効性が担保されない。

ファイヤーセーフ設計は単一の装置や素材で完結するものではなく、材料・構造・電装・運用・保守を横断する「層状防護」の実践で成立する。想定外を減らすには、設計初期からリスク評価と性能検証を反復し、要件・論拠・試験結果を一貫したドキュメントで結び付けることが肝要である。