ファイバ
ファイバは細長い線状の材料を指し、直径がミクロン〜サブミリの範囲で長さ方向に極端なアスペクト比をもつ。素材は高分子、ガラス、炭素、金属、セラミックスなど多岐にわたり、テキスタイルから複合材料、断熱・吸音、光通信、フィルタリング、センシングまで幅広い用途に使われる。機械・材料工学では、単繊維そのものの物性と、樹脂や金属と組み合わせた複合体の補強要素としての機能の両面からファイバを捉える。
定義・幾何学とスケール
ファイバは直径d、長さLで表され、L/dが概ね100以上のものを指すことが多い。直径は光学顕微鏡やレーザ散乱、画像解析で評価し、表面粗さや欠陥は引張強度のばらつきに直結する。集合体としての織物、編物、不織布は同じファイバでも配列・結合様式で機能が大きく変化する。
分類:有機・無機・金属
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高分子ファイバ:ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、アラミドなど。比強度が高く耐食性に優れる。
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無機ファイバ:ガラスファイバ(E-glass等)、炭素ファイバ、セラミックファイバ(SiC、アルミナ等)。高弾性・耐熱に優れる。
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金属ファイバ:ステンレス、銅など。導電・導熱やシールド用途に用いる。
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天然ファイバ:綿、麻、羊毛など。環境負荷低減や吸湿特性に着目される。
補足:繊度と線密度
テキスタイル分野ではデニール(g/9000 m)やtex(g/1000 m)でファイバの線密度を表す。線密度は比表面積や含浸性、ろ過性能に影響する。
力学特性と寸法効果
ファイバの引張強度・弾性率は結晶配向や欠陥サイズ分布に依存する。細径化により臨界欠陥が小さくなり強度が向上する「寸法効果」が働く一方、表面傷は強度低下の主要因である。単繊維試験はゲージ長やつかみ方式の影響が大きく、ワイブル統計でばらつきを評価することが一般的である。
補足:クリープと疲労
高分子ファイバは温度・湿度の影響を受けやすく、クリープや応力緩和に配慮が必要である。炭素ファイバは高疲労耐性だが、圧縮強度は引張に比べ低下しやすい。
複合材料における役割
樹脂(マトリックス)中にファイバを分散・配向させると、荷重は界面を介して伝達される。臨界長さℓc≈σf·d/(2τi)(σf:繊維強度、d:径、τi:界面せん断強度)を超える長繊維は効率的に補強し、短繊維は等方的だが補強効果は限定的である。体積分率Vfと配向係数が複合体の弾性率・強度を支配し、ルール・オブ・ミクスチャやハルピン-ツァイ式で一次近似できる。
補足:界面とサイジング
ガラスファイバにはシラン系サイジング、炭素ファイバには酸化処理と樹脂親和性の高いサイジングを施す。界面が弱いと引抜き破壊が支配的となり、強すぎると脆性的破壊が進むため最適設計が要る。
製造プロセスの要点
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溶融・乾湿紡糸:高分子ファイバを溶融または溶媒中で紡出し延伸で配向を高める。
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ガラスファイバ:バッチ溶融→ブッシングから連続引出→サイジング→巻取。
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炭素ファイバ:PAN系で安定化→炭素化→黒鉛化、ピッチ系では液晶ピッチの紡糸・熱処理で高弾性化。
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セラミックファイバ:プレカーサ紡糸後に焼成、もしくはCVDで生成。
光ファイバの基礎
光通信に用いるファイバはコアとクラッドの屈折率差により全反射で光を導波する。単一モード(SMF)はコア径が小さく分散・帯域で有利、多モード(MMF)は接続性に優れる。重要指標は数値開口(NA)、群速度分散、減衰(dB/km)で、散乱・吸収・曲げによる損失管理が要点である。被覆やコーティングは機械的保護とマイクロベンド抑制に寄与する。
補足:センサ応用
FBG(Fiber Bragg Grating)や散乱ベースの分布型センサは、温度・ひずみを長距離で計測でき、構造ヘルスモニタリングに広く応用される。
加工・成形と設計
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成形:プリプレグ積層→オートクレーブ、RTM、フィラメントワインディング、射出成形(短ファイバ)。
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設計:配向(UD/織物/チョップド)、Vf、層構成、リブ・ビードで座屈・衝撃に備える。
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欠陥管理:ボイド、レジンリッチ、繊維波打ち(ワービング)は強度低下要因である。
評価試験と規格の概観
ファイバ単体の引張試験、曲げ・圧縮を想定した束試験、界面せん断(微小引抜き)などで特性を測る。複合材では層間せん断強度、モードI/IIはく離靭性、疲労、落錘衝撃などが重要である。品質管理では直径・欠陥の画像検査、含浸・ボイド率の評価、含有灰分や結晶化度測定を併用する。
環境・安全とリサイクル
粉じん吸入防止、皮膚刺激対策、アスベスト代替の遵守は前提である。熱硬化樹脂系CFRPのマテリアルリサイクルは難易度が高く、熱分解・ソルボリシスによるファイバ回収、熱可塑樹脂マトリックスの採用、設計段階での分別容易化が進む。ガラスファイバは短繊維化して二次用途展開も行われる。
代表的な用途と選定指針
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構造:CFRP/GFRPで軽量・高剛性化。疲労・座屈と接合設計が鍵。
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機能:断熱・吸音・ろ過に微細ファイバ、導電・遮蔽に金属ファイバ。
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通信・センシング:光ファイバで長距離・低損失伝送と分布計測。
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防護:アラミドファイバの耐切創・耐弾性、炭素ファイバの耐熱部材。
設計上の留意事項
ファイバは単体性能だけでなく、界面、配向、体積分率、残留応力、使用環境(温湿度、紫外、薬品)を総合設計する。成形プロセスの再現性、非破壊検査(超音波、CT)、トレーサビリティの整備が、目標性能のばらつきを抑える最短経路である。