ヒートシールド
ヒートシールドは、エンジンや排気系、電動車の高電圧機器などから発生する熱を遮蔽し、周辺部品や車室内への熱影響を抑えるための防熱部材である。放射・対流・伝導という三つの伝熱経路に対して、反射性の高い表面、断熱層、空気層(エアギャップ)を組み合わせて熱流束を低減する。車両では排気マニホールドやターボ、床下触媒、バッテリーパックやインバータ周辺に用いられ、樹脂部品、ワイヤハーネス、遮音材、塗装面、乗員快適性の保護に寄与する。
役割と機能
基本機能は熱源からの輻射熱を反射し、エアギャップや断熱層で温度勾配を確保することである。高放射率面を熱源側に向けない設計とし、表面は低放射率化(鏡面アルミなど)で輻射熱吸収を抑える。固定部からの熱橋は伝導経路となるため、フローティング支持やスロット孔で接触面積と拘束を最小化する。結果として背後の部材温度を目標値(例:樹脂軟化点や内装快適温度)以下に維持する。
材料と構造
量産車では成形しやすく耐食性に優れるアルミ合金薄板やアルミ箔ラミネートが主流である。高温域ではステンレス薄板とエアギャップの二重構造、あるいはセラミックファイバーやガラスクロスをサンドする多層材を用いる。ディンプルやビーズによるプレス成形は、曲げ剛性とエアギャップ確保に有効である。腐食環境には陽極酸化や防錆皮膜を併用し、端部はヘム処理やクリンプで層間剥離とフィラメント露出を防ぐ。
設計要点
- 熱クリアランス:熱源との距離を確保し、輻射と対流の双方を抑制する。
- 表面特性:低放射率仕上げを採用し、汚れ付着による放射率上昇を想定した余裕度を持たせる。
- 固定方法:スロット+スプリングやフローティングブラケットで熱膨張を吸収し、鳴きや共振を回避する。
- NVH:板厚、ビーズピッチ、ダンパ材で叩き音・ビビり音を抑える。
- 耐久・耐食:水はね、融雪剤、石跳ねへの対策と排水経路を設ける。
- サービス性:脱着回数と工具アクセスを考慮し、締結点数を最小化する(例:スピードナットやボルトの共通化)。
搭載箇所の例
エンジンルームでは排気マニホールドやターボチャージャ周囲、バルクヘッド前後、樹脂インテークや電装品近傍に配置する。床下では触媒、フロントパイプ、センタートンネル上、燃料・ブレーキ配管付近に設ける。電動車ではバッテリーパック上面や側面、インバータ・モータ外周に遮熱パネルを配し、熱害と熱浸入の双方を管理する。
製造と締結
量産ではプレス成形+トリムで外形とビーズを付与し、スタッド溶接ボスやクリップ座を一体化する。多層材はアルミ箔とガラスクロスをラミネートし、周縁を折返しで機械かしめする。締結はスタッドナット、クリップ、リベット、スピードナットを用途で使い分ける。高温部はスポット溶接や耐熱ファスナを採用し、脱落防止の二重留めを原則とする。
性能評価と検証
設計段階では1D伝熱計算や3D熱流体解析でΔT目標と熱流束を見積もる。試作段階では熱電対や赤外線カメラで熱源側・遮蔽側の温度マップを取得し、アイドル、高負荷、登坂、渋滞など代表条件で評価する。耐久では熱サイクル、振動、飛び石、泥水散布を組み合わせ、汚れ付着後の性能劣化も確認する。基準は部品許容温度、内装接触温度、ワイヤ被覆の連続使用温度などである。
故障モードと対策
代表的な不具合は、締結部の緩みによる接触・共振音、板の熱疲労亀裂、層間剥離、腐食による孔食と脱落、断熱材の吸水や汚れによる放射率上昇である。対策として、締結冗長化、ビーズ形状最適化、材料選定の見直し、排水孔追加、撥水・防汚コーティングの適用、熱膨張差を許容する支持設計を行う。
環境・安全と規制への配慮
熱害による樹脂軟化や燃料気化、配線被覆の劣化は安全に直結するため、法規や社内基準で温度限界を定め、車室内表面温度や排気系周辺の可燃物距離を管理する。軽量化の観点では薄板化と高反射材の併用で性能を維持しつつ質量低減を図る。リサイクルでは単一材化や容易分解構造が望ましく、混在材のラミネートは端部機械かしめなどで分別性を確保する。
設計フローの要点
- 熱源条件の定義(発熱、表面温度、走行条件)、目標背面温度の設定。
- 材料・構造の初期選定とパッケージ検討、熱橋の最小化。
- 試作・計測でΔTと音振の実測を取得し、ビーズ・固定・表面処理を最適化。
- 耐久・汚れ試験で劣化影響を評価し、量産要件(コスト・工法・分解性)に落とし込む。
表面処理と保守
高温域では酸化皮膜の成長で放射率が上がるため、腐食環境や汚れ条件を織り込んだ安全余裕を設定する。定期点検では締結部の緩み、板厚の孔食、断熱材の吸水や剥離、他部品との干渉痕を確認し、必要に応じて洗浄や交換を行う。