ヒーターホース
ヒーターホースは、エンジンの冷却水(クーラント)を車室内のヒーターコアへ循環させ、暖房用の熱源を供給するゴムホースである。一般に耐熱・耐寒性と耐薬品性に優れたEPDMゴムを主体とし、繊維補強層を内蔵する。成形方法は直管押出と三次元形状のモールド成形があり、車体パッケージに合わせて曲げ半径や取り回しが最適化される。近年は内燃機関だけでなく、ハイブリッド車やEVでも電動ヒータや熱マネジメント回路の一部として類似用途のホースが用いられる。
役割と作動の概要
冷却回路の高温側(主にシリンダヘッド出口付近)からヒーターコア入口へクーラントを導き、コアを通過した冷却水を戻り側ホースでウォーターポンプ吸込みやサーモスタット付近へ戻す。ヒーターバルブの開閉またはブレンドドア制御により流量・吹出温度が調整される。これにより、走行中でも安定した暖房とデフロスト性能が確保される。
構造と材質
一般的な構造は、内層(クーラント耐性)、補強層(ポリエステルやアラミドの編組/スパイラル)、外層(耐候・耐オゾン)から成る。母材はEPDMが主流で、必要に応じてフッ素系ライニングやバリア層を付与し透過や薬品侵入を低減する。常用温度範囲はおおむね-40〜125℃(ピーク150℃級)を想定し、冷却回路の圧力変動に耐える。
寸法と取り回し設計
内径は車種・系統により約8〜25mmが多い。設計では許容曲げ半径を守り、ねじれ・屈曲疲労・干渉摩耗を避けるルーティングが重要である。固定点にはホースバンドやホルダ、スナップ形クリップを併用し、熱源やエッジ部から距離・保護を確保する。過大な引張予荷重や長手方向の圧縮座屈は早期劣化の原因となる。
接続方式とクランプ
接続はビード付きパイプ+ホースバンドが基本で、スプリングクランプ(定圧タイプ)、スクリューバンド(トルク管理)、樹脂製クイックコネクタなどを用いる。再使用時はシール面の錆・傷・付着物を除去し、規定トルクや嵌合深さを厳守する。クイックコネクタはOリング損傷や砂噛みを避けるため清浄度管理が要点である。
関連規格と要求特性
自動車用冷却系ホースではSAE J20やISO 4081などが参照され、耐熱老化、耐冷却液、耐オゾン、屈曲疲労、内圧バースト、引張特性、透過性などが評価対象となる。車両メーカー規格では温度サイクルや熱衝撃、冷却液種別(OAT/HOAT等)適合性、にじみ・滲み(スウェット)の限度値が定義される。
劣化モードと症状
- 表面ひび割れ・硬化:熱とオゾンにより弾性低下、微小漏れの前兆となる。
- 膨潤・軟化:冷却液や油分の影響で径増・粘着化し、クランプ部からの抜けやすさが増す。
- ブリスター・ピンホール:内部層のダメージや電気化学的劣化で発生。
- 漏れ跡・白色結晶:乾いた冷却液残渣が接続部周辺に付着。
- 暖房不良・曇り取れ遅れ:流量不足やエア噛みに起因。
点検と予防保全
定期点検では、冷間時の手触り(極端な硬化・軟化)、異常ふくらみ、擦れ跡、漏れ痕、クランプの緩みを確認する。加圧テストやカシメ部の滲み検査を併用すると良い。予防交換は走行距離・年数・熱負荷に応じて計画し、同時にクランプやOリングも更新する。交換後は冷却系のエア抜きを確実に行い、暖機後に再点検する。
選定の要点(補修・設計)
- 温度・圧力定格:最大温度とサージ圧に十分なマージンを取る。
- 内径・肉厚・曲げ半径:実配索での流量確保と屈曲耐性を両立。
- 媒体適合性:クーラント種別、添加剤、有機酸技術(OAT)への適合。
- 透過・臭気:低透過グレードやバリア層でにじみ低減。
- 端末インタフェース:ビード形状、クイックコネクタ規格、組付け性。
製造と品質管理
直管は押出後に編組・スパイラルで補強し、加硫により物性を付与する。成形ホースはマンドレルや金型で三次元曲げを形成する。ロットごとに硬さ、引張、伸び、バースト圧、熱老化、冷却液浸漬、外観を管理し、トレーサビリティを確保する。樹脂コネクタ一体品では加熱寸法安定とシール相性を検証する。
EV・ハイブリッド車での位置づけ
内燃機関非搭載車でも、キャビン暖房、バッテリー/インバータ熱マネジメント、ヒートポンプ回路で液循環ラインが存在する。これらは樹脂配管とゴムホースを組み合わせ、振動吸収や取り回し部にヒーターホース相当の役物を用いる。導電冷却液の採用時は電気絶縁・電食対策も考慮する。
安全・環境面の配慮
クーラント(エチレングリコール等)は有害であるため、漏れ時は速やかに処理する。保守作業では保護具を着用し、飛散・誤飲を防止する。廃ホースは産業廃棄物として適切に分別し、可能な範囲で材料リサイクルや熱回収を行う。
関連用語
ヒーターコア(小型熱交換器)、ヒーターバルブ(流量制御)、サージタンク/リザーバタンク(膨張・補給)、デフロスタ(除霜機能)などがヒーターホースと密接に関わる要素である。系全体を一体として設計・点検することで、暖房性能と信頼性が担保される。