パワステポンプ
パワステポンプは油圧式パワーステアリング系に圧力油を供給するポンプである。エンジン回転または電動モータで駆動され、所定の流量と圧力を発生させてステアリングギヤ(例:ラックアンドピニオン)へ油圧を送り、操舵力を大幅に低減する。一般にベーンポンプが採用され、流量制御バルブとリリーフバルブを内蔵する。なお、パワステポンプは油圧式の前提であり、電動パワーステアリング(EPS)はポンプを用いないが、電動油圧式(EHPS)は電動でパワステポンプを回す点が特徴である。
役割と作動原理
パワステポンプはリザーバから吸入したフルードを加圧し、ステアリングギヤのアシスト室へ供給する。ベーンポンプでは偏心したカムリング内でロータとベーンが回転し、容積変化で吸入・吐出を行う。負荷が上がると圧力が上昇し、流量制御バルブが一部をバイパスして余剰流量を戻す。過大圧力時はリリーフバルブが開き系を保護する。
方式の種類
- ベーンポンプ:静粛性と効率のバランスが良く、自動車用パワステポンプとして主流である。
- ギヤポンプ:構造が簡素で耐久性に優れるが、騒音面で不利な場合がある。
- 可変容量型:エンジン負荷低減のため低要求時に吐出を抑える設計。燃費寄与がある。
- EHPS:電動モータでパワステポンプを駆動し、アイドル時も安定供給。EPS(モータ直結型)とは異なり油圧系を残す。
主要構成部品
- ハウジング/カムリング:アルミ合金等。容積変化室を形成し、熱変形・摩耗対策が要点。
- ロータ/ベーン:摺動耐久が肝要。表面処理で焼付きと摩耗を抑える。
- シャフト&プーリ:ベルトで駆動(エンジン直結型)。芯出しと張力管理が重要。固定はボルトで行う。
- 流量制御バルブ:回転数に応じた過大流量をリターンへ逃がす。
- リリーフバルブ:過圧時の保護。設定圧はおおむね8~12MPa程度が目安である。
- リザーバ/ストレーナ:吸入気泡と異物を抑え、キャビテーションを防止する。
性能指標と設計計算
パワステポンプの基本は流量Q[L/min]と圧力p[Pa]である。必要ポンプ動力は理論的にP=p×Q/ηt(ηt:全効率)で表され、過大な定常流量は燃費悪化や発熱の要因となる。車両の目標舵角速度や操舵トルク、ギヤ比(例:ラックアンドピニオンのピニオンモジュール等)から所要Qを逆算し、アイドルから高速域までの供給安定性を検討する。
制御・安全機構
流量制御バルブは回転上昇時の余剰油をバイパスし操舵感の過敏化を抑える。リリーフは油温上昇や据え切り継続時の過圧を逃がす。最近はソレノイド連携で車速や横加速度に応じた可変アシストを実現するEHPSもある。
材料・製造とNVH
ハウジングは高圧に耐える剛性と冷却性を両立する鋳造アルミが一般的である。内部クリアランスはμmオーダで管理し、ロータとベーンの面粗さ・硬度が体感騒音を左右する。脈動低減溝や吸入配管レイアウト最適化で唸り音を抑える。
故障モードと診断
- 異音(うなり・キーン音):ベルト張力不足、キャビテーション、ベーン摩耗が要因。
- 重ステ感:吐出低下、リリーフ固着、フルード劣化や漏れ。
- フルード泡立ち:吸入側エア吸い。ホースクランプやOリング点検。
- 発熱・焼付き:連続据え切りや過負荷運転。冷却とリリーフ作動の確認が必要。
保守とフルード管理
指定PSFまたはATFを用い、定期交換・エア抜きを実施する。異種混用はシール膨潤や弁作動不良の原因となる。ホースの劣化・滲みは早期交換し、締結は規定トルクでボルト管理する。
車両側との関係
パワステポンプの能力はステアリング機構全体の摩擦・ギヤ比・タイヤ接地条件に依存する。関連要素としてタイロッド、ステアリングコラム、ギヤのバックラッシュ、サスペンションのスクラブ半径などがあり、系として最適化することで操舵感と省燃費を両立できる。
取り付け・配管のポイント
プーリ芯出し、ベルトの適正張力、吸入側の曲率半径・配管長の最小化、リザーバ位置のヘッド確保が重要である。戻り側は発泡を避けるため液面下へ導く。振動伝達を抑えるブラケット設計もNVHに効く。
電動化との住み分け
小型・中型車ではEPSが主流化し、ポンプ非搭載で待機損失を低減する。一方で重量車や油圧作動を活かす車種ではEHPSを含むパワステポンプ系が根強い。冗長性や熱マージン、コストと整備性を踏まえた使い分けが進む。
キャビテーション対策
吸入圧力を確保し、ストレーナ清浄度と油温管理を徹底する。配管の気密性・クランプ締結も効果的である。
関連機構への連携
ギヤ形式(ラックアンドピニオン等)やリンク機構(タイロッド)の摩擦、コラム側のジョイント角度がアシスト要求に波及するため、車両全体での整合が欠かせない。