パピルス
古代エジプトにおいて文字の記録や文書の作成に欠かせなかったのが、パピルスという植物を加工した書写材料である。ナイル川流域の湿地帯に自生するカヤツリグサ科の一種を原料とし、製造工程を工夫することで柔軟かつ軽量な紙状の素材を得ることができた。パピルスは石碑や粘土板とは異なり、折りたたみや携行が容易で、行政文書や宗教文書だけでなく、文学作品や会計記録など、あらゆる用途に広く活用された。その耐久性も非常に高く、乾燥したエジプトの気候下では千年以上にわたり鮮明な文字を保持する例が多く発見されている。
植物としての特徴
原材料となるパピルスは高さ数メートルにも達し、三角形の断面を持つ茎を持つ点が大きな特徴である。太陽の光を好むため、ナイル川の恵まれた日照条件と豊富な水資源が生育に適していた。茎の内側にある繊維層が紙の原料として利用され、切り出した繊維片を並べて圧着・乾燥させることで独特のシートが完成する。この生育のしやすさと加工の簡便さが、古代エジプト文明において大規模な生産を可能にした背景といわれる。
カルナク神殿の船着場。
往時には運河があって、パピルスなどの植物が植えられていたことが、壁画からわかるというのに、萌えます! pic.twitter.com/acZr3Td73q— ルクソールの空 ???????????????????????????? (@MeretsegerWaset) February 13, 2024
製造工程
パピルスの製造では、まず茎の外皮を取り除いた後、縦や横に切り分けた繊維を水に浸して柔らかくする。その後、縦・横それぞれの層を組み合わせて叩きながら圧迫し、木槌や重石で圧着する工程を経て薄いシート状に仕上げる。最後に日光で乾燥させれば、筆記に適した紙として使用可能になる。この一連の過程は手作業を主体としながらも、ある程度の大量生産が行われたことが考古学的発見から判明している。また、その工程を改良することで表面を滑らかに整え、より書きやすい品質を得る技術も存在した。
Egyptians invented papyrus paper at least 5,000 years ago, revolutionizing the written word. Today, just one village still makes the paper and this Business Insider video documents the art and the industry of this ancient craft [full video: pic.twitter.com/KNXwuu0C9y
— Massimo (@Rainmaker1973) October 21, 2022
使用用途
筆記表面が比較的長期間保存できるため、行政や宗教、商業取引など幅広い分野でパピルスの文書が活用された。特に重要な王令や外交文書は神殿や王宮で厳重に保管され、それらが後世の歴史研究に大きく寄与している。その他にも文学作品や医学文献、数学や天文学の研究記録も見つかっており、これらの豊富な資料は古代エジプトの高度な知的生活を示す証拠ともなっている。
どういう書かれ方をしているのかは、記事についてる動画をみると薄っすら理解出来る。思ったのは古代エジプトの「リンド数字パピルス」と良く似た書き方だなってことで、エジプト人も我々の知るのとは別の方法(小数ではなく分数を使う)で円周率の計算をしてた。 pic.twitter.com/3192GF5QGr
— 岡沢 秋(maat) (@Aki_Okazawa) August 27, 2017
交易と流通
強度と軽さ、そして加工の容易さを兼ね備えたパピルスは、エジプトの重要な輸出品でもあった。地中海世界へと広く流通し、ギリシアやローマでも書写材料として普及したことが、古代史料からうかがえる。エジプトが他地域と交流を深めるほど、文字や技術のみならず、この独自の書写材料も各地へ波及していった。やがてパーチメント(羊皮紙)など別の材料が登場してからも、パピルスは長らく愛用され続けたと推測される。
代表的な出土文書
- 数学パピルス:四則演算や測量技術の記述
- 医学パピルス:治療法や薬草に関する記録
- 文学パピルス:叙事詩や恋愛詩の断片
数学パピルス
ピラミッドを設計した天才数学者達の頭の中を記述するには、当時の言語・文字は非力すぎた。エジプトにはリンド数学パピルスという紀元前1650年前後の数学文書があるけど、ピラミッド建造から1000年後とは思えぬくらい簡単。 pic.twitter.com/0sAuJxXMb9
— m-take (@takeonomado) October 10, 2021
医学パピルス
未発表のパピルスから「古代の医学」に関する記述が発見される pic.twitter.com/cJo84tKUIK
— ナゾロジー@科学ニュースメディア (@NazologyInfo) August 21, 2018
文学パピルス
【一行書物史】c.2500 BC プリス・パピルス
現存最古のパピルス。
エジプト中王国の第12王朝期に書かれたと推定される。
『カゲムニの教訓』、『宰相プタハヘテプの教訓』などの、古代オリエントに見出される知恵文学に分類される道徳教訓書がプリス・パピルスから発見されている。 pic.twitter.com/9QXGTzIjNC— 読書猿 5/23 新刊『ゼロからの読書教室』 (@kurubushi_rm) October 29, 2016
後世への影響
- ギリシア・ローマ世界での広範な使用
- 書籍文化の発展に寄与
- 現代の「paper」という語源の一説
歴史的意義
古代エジプトの知的生産と行政管理を支えたパピルスは、文明の形成と発展に欠かせない要素であった。ナイル川を中心とする豊かな自然条件がもたらした資源を効率的に活用し、高度な筆記文化を築き上げた成果は、出土文書によって現代にも多くの知識を伝えている。エジプト文明が残した建築物や美術品と同じく、文字や記録の面からその卓越性を物語る点で、パピルスは歴史研究と文化継承において極めて重要な位置を占めている。
膨れた腹と垂れ下がった女性の胸を持つ男性の姿をしたハピは豊穣のシンボルである。このハピをエジプト人は何よりも先ずナイルの氾濫と同一視していた。そして上ナイルを象徴するパピルスと下ナイルを象徴するロータスの植物を身につけ、国土の統合を、それら植物のロープの「結び」で表した。 pic.twitter.com/f1ZoFyveAc
— TOMITA_Akio (@Prokoptas) August 12, 2023