バッテリーマネジメントシステム
バッテリーマネジメントシステムは、二次電池の安全・性能・寿命を最大化するために、電圧・電流・温度などを計測し、充放電を制御し、状態推定や保護を行う中枢である。電気自動車や産業用蓄電、ロボット、UPSまで適用範囲は広く、セルのばらつきや経年劣化、熱暴走リスク、使用環境の変動といった課題に対して、ハードウェアとソフトウェアを統合して対処する。
役割と基本機能
主な役割は「監視」「推定」「制御」「保護」の4点である。監視ではセル電圧・パック電圧・電流・温度を高精度に取得する。推定は残容量(SOC)、劣化度(SOH)、出力可能度(SOP)の計算を行い、制御は充放電許容を決めてリレーやFETを駆動する。保護は過充電・過放電・過電流・短絡・過温・低温などの異常を検出し、フェイルセーフを実行する。
システム構成要素
- センス回路:高分解能ADC、シャント/ホール電流計測、温度センサ(NTC/RTD)
- アクチュエータ:コンタクタ、FET、プリチャージ回路
- 制御計算:MCU/SoC、実時間OS、NVMログ
- 通信:CAN/LIN/CAN FD/Ethernet、診断UDS(ISO 14229)
- 電源・絶縁:アイソレータ、DC-DC、EMC/ESD対策
状態推定アルゴリズム
SOCはクーロン積分とOCVテーブルのハイブリッドで推定し、温度補正とヒステリシス補償を加える。動的応答やノイズに強い推定にはカルマンフィルタや拡張/無香料カルマン、等価回路(RC/ザ・ブナン)モデルや電気化学モデルの同定を用いる。SOHは内部抵抗上昇、容量低下、開回路電圧のズレなどの指標を統合して算出し、SOPは電圧・温度・電流制約下での瞬時出力許容を評価する。
セルバランシング
セル間ばらつきを抑えるため、受動(抵抗放電)または能動(チャージ再配分/インダクティブ)バランスを実行する。受動方式は実装容易で低コストだが放熱が増え、能動方式は効率に優れるが回路が複雑になる。バランスの起動条件はSOC差・温度・充電状態・安全マージンを考慮する。
安全機能と規格
- 保護閾値:過充電/過放電/過電流/短絡/過温・低温、故障安全の段階的遮断
- 熱暴走対策:早期兆候検知、サーマルフェンス、排気経路設計
- 機能安全:ISO 26262(ASIL割り当て)、FMEA/FMEDA、診断カバレッジ
- 蓄電池安全:IEC 62619、UN 38.3、UNECE R100 などの適合
- サイバーセキュリティ:ISO/SAE 21434、セキュアブート/更新
アーキテクチャ形態
集中型は1基板で全セルを監視し、配線は長いがコストに優れる。分散型は各モジュールに監視ICを置き絶縁通信で集約し、信頼性・スケーラビリティに優れる。モジュラー型はパック拡張性を確保し、サービス性と冗長設計を両立する。
熱マネジメント連携
温度は性能と安全の律速要因であり、BMSは冷却(空冷/液冷)やヒータ制御と連携する。温度勾配を抑えるためにセンサ配置を最適化し、SOP計算や充電制限に温度依存のデレーティングを織り込む。
充放電制御と外部機器
DCDC、インバータ、オンボードチャージャ(OBC)、急速充電器と協調し、BMSが許容電流・電圧を指示する。CHAdeMO/CCS/GB/Tなどの規格では、ハンドシェイク・アイソレーション監視・絶縁抵抗測定・プリチャージの手順が定義され、BMSは状態遷移を管理する。
計測精度と校正
SOC誤差を抑えるにはμV級のセル電圧分解能と低ドリフトが必要で、温度係数補償や周期校正を実施する。電流センサはゼロ点安定性と帯域/位相遅れが重要で、充電終了判定や劣化推定へ直接影響する。
信頼性設計とEMC
- 冗長:二重化センサ、クロスチェック、投票ロジック
- 耐ノイズ:レイアウト最適化、ガードリング、コモンモード抑制
- EMC:CISPR 25等を満たすフィルタ/シールド、ESD/サージ保護
- 診断:DTC、フラッシュログ、故障注入試験
データ活用と寿命最適化
使用履歴(温度・SOCレンジ・Cレート)をログ化し、カレンダー劣化/サイクル劣化モデルに反映する。フリート解析で充電プロファイルやバランス閾値を最適化し、寿命延伸と可用性向上を図る。予兆保全では異常兆候を早期検知して保守計画に繋げる。
実装の勘所
- 安全余裕:測定誤差とセルばらつきを前提に閾値を設定
- 熱設計:受動バランス時の発熱、プリチャージ抵抗の放熱
- 製造ばらつき:OCVテーブル/内部抵抗の個体差管理
- ソフト品質:要求追跡、モデルベース開発、HIL試験
- 保全性:セル交換・モジュール交換の手順化とトレーサビリティ
関連用語(補足)
OCV:開回路電圧。SOC:残容量。SOH:健全度。SOP:出力可能度。OBC:車載充電器。UDS:診断通信。プリチャージ:大容量コンデンサの突入電流を抑えるための事前充電。等価回路モデル:RC網でセルの動特性を近似する手法。