バケット浚渫船
バケット浚渫船は、無限軌道状に連結した多数のバケット(容器)を備えたラダー(傾斜フレーム)を水底に降ろし、バケットを連続的に回転させて掘削・揚土する浚渫船である。バケットは下端のタンブラーを回って切削・採取し、上端で反転して土砂をホッパや搬送装置へ吐出する。クレーン式グラブやバックホウに比べて切削が連続であり、硬質土や旧護岸の基礎砕石、瓦礫混じりの底質などにも対応しやすい。都市港湾や狭隘水域での高い線形精度、一定断面の成形、高含水比土砂の安定的な回収に強みを持つ一方、騒音・振動、可動部の摩耗、係留・錨装置の取り回しなど運用上の配慮点も多い。
構造と主要装置
基本構成は船体、バケットラダー、上・下タンブラー、バケットチェーン、ガントリー、スパッド(またはサイドアンカー)、ウインチ系、動力(通常はディーゼルエンジン+油圧または電動)である。掘削土砂は上部で落下し、シュートやコンベヤで運搬船(プッシャーバージやホッパバージ)へ積み替える。バケット容量はおおむね50〜1,000 L、チェーン速度は0.5〜1.5 m/s程度が用いられ、耐摩耗鋼のライナや交換式刃先で寿命を延ばす。ラダー角は土質・深度・所要断面に応じて調整し、位置決めはスパッドやサイドアンカーの張り替えで行う。
作業原理とサイクル
- ラダーを所定角で降下させ、下タンブラー付近でバケットが底質に噛み込むようチェーン速度を設定する。
- バケットの切削・充填を連続させ、上端で反転吐出してホッパ・コンベヤに受け渡す。
- サイドアンカーのワイヤを交互に巻き替え、船体をピボットさせながら所定の幅を「掘り掃く」。
- 所定断面を達成後、ラダーを段階的に降下または横送りし、次のパスへ移行する。
適用土質と精度
砂〜砂礫、硬めのシルト、転石混じり、コンクリート瓦礫等の混在地盤に適する。切削は機械的で、カッターやウォータージェットを併用しなくても貫入性が得られる場合が多い。掘削線形はラダーの幾何に支配され、縦断・横断の断面管理がしやすい。設計マージン(オーバーデプス)は一般に小さくでき、港湾の基礎地盤整形や護岸前面の基礎掘削で寸法管理に優位である。
能力計算と生産性
理論生産量は、バケット容量qb[m3]、1分間当たりのバケット通過数n[min−1]、充填率・稼働率を含む総合効率ηで、Q = qb × n × 60 × η[m3/h] と見積もる。実務ではバケットの実充填率(0.6〜0.9)や吐出時のこぼれ、潮流・波浪による停止時間、アンカー張り替えのロスを加味する。代表的な現場能力は100〜500 m3/h程度で、硬質で切削抵抗が大きいほどチェーン速度を落としてトルクを優先する設定が有利である。
施工計画と段取り
- 測量・出来形管理:DGPSやトータルステーション、マルチビーム測深で前後断面を可視化し、ラダー角・深度を補正する。
- 係留・位置決め:スパッドまたはサイドアンカー配置を事前に設計し、張り替え回数と掘削パス幅を最適化する。
- 土運計画:近傍にホッパバージを寄せ、満載ローテーションを組む。ダンプサイトの受入制約(濁度・含水比)に合わせて仮置きや脱水を検討する。
- 保全計画:チェーン・バケットの日常点検、軸受・タンブラーの給脂、摩耗限度の閾値管理を整備計画に組み込む。
環境影響と抑制策
主たる影響は懸濁による濁度上昇、騒音・振動、底生生物への攪乱である。抑制策として、チェーン速度の最適化、吐出点の囲い(シュート延長や受け樋)、防濁膜の設置、作業窓の時間帯制限、監視用の濁度計・騒音計の常時ロギングを実施する。特に細粒分の多い底質では、ラダー近傍の洗掘を避けるためのラダー角制御と、段切り施工での落ち込み防止が効果的である。
他方式との比較と選定指針
グラブ浚渫船は機動・段取りの自由度が高いが、断面の均一性は連続式の本船に及ばない場合がある。カッターサクションは大量・遠距離送泥に強いが、硬質瓦礫混じりでは目詰まり・摩耗が課題となる。バックホウはピンポイントの撤去・厚層掘削に適するが、狭水路での往復効率が低下しうる。以上より、狭隘域で線形精度が要求され、混在地盤・硬質成分を含む場合はバケット浚渫船が選好されることが多い。
設計・選定パラメータ
- バケット容量・数、チェーン速度、ラダー長・角度、動力(kW)と伝達方式。
- 許容切削抵抗、目標生産量、オーバーデプス許容量、出来形精度。
- アンカー配置・スパッド仕様、波浪・潮流限界、作業水深(代表値20〜40 m)。
- 摩耗部材(刃先・側板・ライナ)の交換周期と予備品体制。
安全とリスク管理
チェーン破断・リンク脱落、ラダー過荷重、アンカーの滑走、搬送時の落土が主リスクである。荷重監視(トルク・電流値)、リンク伸びの定期測定、非常停止系の2重化、落下防止養生、狭水域の航行警戒体制を整える。保全時はロックアウト・タグアウトを徹底し、タンブラー周りの挟まれ事故を防止する。気象・海象の急変時は即時のラダー揚収と避泊計画を発動できる体制が望ましい。