ハードフェライト|セラミック磁石として安価かつ安定した性能を持つ

ハードフェライト

ハードフェライトとは、バリウムやストロンチウムなどの金属酸化物と酸化鉄を主成分としたセラミック系の永久磁石であり、比較的低コストかつ耐食性や耐熱性に優れる特徴を持つ。高い保磁力を有することから家庭用スピーカーや自動車部品など広範な分野で利用され、アルニコやネオジムといった他の磁石に比べても独自の市場価値が確立されている。

フェライトの定義と種類

ハードフェライトを理解するためには、まずフェライトそのものの定義と種類を把握する必要がある。フェライトは一般的に鉄(Fe)を含む酸化物系セラミックスを指し、化学的にはスピネル型の結晶構造を持つものが多い。マグネタイト(Fe3O4)を代表例とし、亜鉛やニッケルなどで置換されたソフトフェライトと、バリウムやストロンチウムを加えたハードフェライトに大別される。ソフトフェライトは透磁率が高く高周波特性に優れる一方、保磁力は低い。これに対し、ハードフェライトは半永久的に磁化を保つ性質があるため、多様なデバイスに実用されている。

材料組成と焼結工程

通常、ハードフェライトの組成にはFe2O3が主体的に使われ、そこにBaO(バリウム酸化物)またはSrO(ストロンチウム酸化物)などを混合する。粉末状にした原材料を混練・成形し、高温下(約1,000〜1,300℃)で焼結させることで、酸化鉄とアルカリ土類金属酸化物の間に強固なスピネル型あるいは六方晶系の結晶構造が形成される。焼結温度や酸素分圧、成形時の磁場印加条件などにより磁気特性が大きく左右されるため、工業生産では高度なプロセス管理が行われている。

磁気特性

ハードフェライトの最大の特徴は保磁力が高く、一度磁化すると容易には磁極の状態が変化しにくい点である。保磁力はおよそ2,000〜4,000Oe程度に達し、磁束密度もそこそこの値を得ることができる。ただしネオジム磁石と比較すると磁束密度は劣るが、加熱や腐食に対しては強い耐性を示し、比較的安価に大量生産が可能となっている。こうした性質は機器の小型軽量化こそ期待しにくいが、安定した磁界を長期にわたって維持したい用途には適している。

代表的な用途

一般消費財から産業機器まで、ハードフェライトは幅広い用途に応用されている。代表例としては、テレビやオーディオなどのスピーカー磁石、家庭用のモーターやポンプの駆動部、各種センサーなどが挙げられる。高い耐腐食性と耐久性を持つため、屋外や湿度の高い環境にも設置可能であり、コストパフォーマンスを重視する製品には最適とされる。自動車部品の中にもフェライト磁石が組み込まれるケースが多く、特に電動アシスト機能やパワーウィンドウなどのモーター系統で実用されている。

メリットとデメリット

ハードフェライトのメリットは、まず素材コストが比較的安価で安定供給が容易な点である。また、強力な酸化物結合が形成されるため、化学的に安定であり腐食のリスクが小さい。一方のデメリットとしては、ネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石などのレアアース系磁石に比べると磁力が劣り、同じ磁束密度を得るには大きな体積が必要になることである。加えて強度そのものはセラミックス特有の脆さを持つため、衝撃への耐性が低い点にも留意が必要となっている。

他の磁石との比較

ハードフェライトはアルニコ磁石よりも保磁力が高く、価格も抑えやすいが、磁束密度の点ではネオジム磁石に軍配が上がる。逆に、ネオジム磁石は希土類元素を原料とするためコストや市場供給リスクが存在し、高温環境では磁力低下を起こしやすい。これに対し、ハードフェライトは多少の高温下でも磁力の安定性が保ちやすく、耐候性も高い。それぞれの磁石は得意分野が異なるため、製品の目的やコスト要件に応じて使い分けられている。

産業的役割

低コストながら十分な磁力を確保できるハードフェライトは、大量生産が行われる家電や自動車産業にとって欠かせない材料である。世界各国で生産される磁石の中でも供給量が大きく、汎用磁石としての位置づけが揺るぎない。環境規制が厳しくなる中でも腐食防止や廃棄の安全性が高く、リサイクルも比較的容易であるため、持続可能な社会を支える素材としての役割は今後も拡大していくと考えられている。