ハッシウム(Hs)|第7周期・第8族の人工超重元素

ハッシウム(Hs)

ハッシウム(Hs)は、原子番号108の人工元素であり、7周期・第8族に属する遷移金属である。加速器での重イオン核融合反応によってわずかな原子が生成され、自然界には存在しない。化学的にはオスミウムの重い同族体として振る舞うと予測され、最高酸化数+8の揮発性四酸化物を形成することが知られている。既知の同位体はすべて放射性であり、半減期は秒〜分オーダーである。

発見と命名

1984年、ドイツのGSI(重イオン研究所)において、208Pbを標的に58Feビームを照射する反応(208Pb(58Fe,n)265Hs)により新元素が同定された。名称は研究所が位置するヘッセン州のラテン名“Hassia”に由来し、IUPACにより正式名が承認された。以降、248Cm+26Mg、244Pu+34Sなど多様な組合せで同位体が合成され、壊変系列の系統的測定が進んだ。

周期表での位置と電子配置

ハッシウム(Hs)はFe、Ru、Osに続く第8族の最重元素であり、理論計算では基底状態の電子配置は[Rn]5f14 6d6 7s2と予測される。6d軌道や7s軌道には相対論効果(質量増加に伴うs軌道の収縮とd軌道の安定化)が強く働き、周期の軽い同族元素からの単純な外挿には注意が必要である。これにより結合長、イオン化エネルギー、金属結合の強さなどに微妙な差異が生じると考えられている。

物理的性質(理論予測)

バルク金属の試料は得られていないため直接測定値は存在しないが、第一原理計算や相対論的DFTに基づく推定では、結晶構造はhcpが最安定となり、非常に高い密度と融点を持つ可能性が高い。金属結合の強さはOsと同程度かそれ以上と見積もられ、表面拡散の遅さや硬さの増大が示唆される。

化学的性質と代表化合物

ハッシウム(Hs)の高酸化数化学は同族のOsと相似であり、気相クロマトグラフィー実験により四酸化物HsO4の生成と揮発性が確認されている。HsO4は酸化的条件で生成し、弱い配位子存在下で加水分解や還元によって低酸化数種へと変換する。溶液化学では+8、+6、+4、+2の酸化状態が想定され、酸化還元電位は溶媒・配位子場に敏感である。

  • 揮発性オキソ酸化物:HsO4(OsO4に相当)
  • ハロゲン化物:HxHsCl6、フッ化物など高配位種の形成が予測
  • カルボニル錯体:Hs(CO)6など18電子則に適合する群6d錯体が理論的に安定

同位体と壊変様式

既知の同位体は質量数が概ねA=263〜277に分布し、主としてα壊変と自発核分裂を示す。中でも中性子数N=162に近い核(例:270Hs)は「変形殻閉じ」による安定化が働き、同族の近傍核より相対的に長寿命となる。壊変系列はSg、Rf、No、Fmなどアクチノイド領域へ連なり、連鎖の終端で自発核分裂に至る。半減期は合成反応の励起エネルギーや蒸発中性子数に依存し、大きく変動する。

実験手法と検出

単原子レベルの化学は、オンライン分離・輸送と気相熱クロマトグラフィーを組み合わせた手法で行う。生成核は不活性ガス流で迅速に搬送され、温度勾配面への吸着を解析して吸着エンタルピーを見積もる。α壊変の相関解析により元素同定と同位体決定を行い、並行して化学形の生成・分解を追跡する。装置のデッドタイム短縮とバックグラウンド低減が、秒スケール核の化学研究の鍵である。

相対論効果と周期律のずれ

6d系列ではスピン–軌道相互作用が強く、価電子準位の再配置により、酸化数の安定性や配位数、揮発性が同族の単純則からわずかに外れる可能性がある。四酸化物の揮発性や表面吸着の強さの差は、その現れである。

安全性と取扱い

生成量は原子数個〜数十個に限られ、短寿命であるため公衆の被ばくリスクは実質的にゼロである。研究施設では密閉系、遠隔操作、多重遮蔽、オンライン検出器によって取り扱い、二次汚染や長寿命娘核の残留を防ぐ。化学試薬として流通することはなく、応用は基礎科学に限定される。

学術的意義

ハッシウム(Hs)の研究は、原子核の殻構造と相対論的量子化学の両領域を同時に検証できる試験台である。核側ではN=162付近の安定化機構を手がかりに、超重元素域の「安定の島」へ接続する理論を絞り込む。化学側では、6d金属の化学結合、吸着、配位場分裂、18電子則の妥当性を原子レベルで点検できる。