ノーマルモード|評価・設計の標準運転条件

ノーマルモード

ノーマルモードは、信号線や電源線の往復経路において、行きと戻りで電流が互いに反対方向へ流れる差動成分を指す。EMI/EMC設計では、コモンモードと対をなす概念であり、主に回路内のスイッチングや負荷変動によって生じる差動ノイズとして扱う。伝導ノイズ試験における主要因の一つで、ループ面積、配線インピーダンス、素子のスイッチング速度が寄与する。設計者は、源(スイッチング素子)、経路(配線・基板)、受け手(他の回路・外部機器)の三点から抑制策を講じる必要がある。

定義と位置づけ

ノーマルモードは差動ノイズとも呼ばれ、2本の導体間(例:L–N、信号–リターン)を循環する電流成分である。これに対しコモンモードは導体が同相で大地へ戻る成分である。前者は主にスイッチング電圧dv/dtや電流di/dtが配線インダクタンス・抵抗と相互作用して生じ、周波数スペクトルは基本スイッチング周波数とその高調波に広がる。測定ではLISNを介して線間の伝導成分として評価される。

発生メカニズム

  • スイッチング素子(MOSFET/IGBT)の高速オン・オフでdi/dtが急増し、配線インダクタンスLによりv=L·di/dtが発生する。
  • 整流・チョッパ動作に伴うリップル電流が電解コンデンサや配線抵抗で電圧化し、線間ノイズとなる。
  • 整流ブリッジやパワーステージの非理想性(逆回復、寄生容量)により高周波成分が励起される。

主な結合経路

差動ループの面積が大きいほど磁界結合が増し、近傍配線への誘導が起きやすい。基板では電源–GNDのリターン経路が遠回りになるとループ面積が拡大し、放射も増加する。さらに線間インピーダンスが周波数とともに上昇すると、同じ電流でもより大きなノイズ電圧が観測される。

測定とモデル化

伝導ノイズ測定ではLISNにより規定インピーダンスで受け、スペクトラムアナライザで線間成分を観測する。等価回路では、スイッチング源を電圧源/電流源とし、配線R–L、負荷、デカップリングC(Xコンデンサ含む)を組み合わせて伝達関数を求める。ピークはループの固有共振(L–C)で現れ、寄生要素の見積りが重要である。

抑制部品と使い分け

  1. Xコンデンサ:線間に挿入し、高周波差動成分を短絡して源インピーダンスを下げる。
  2. 差動インダクタ/シリーズビーズ:線路直列に挿入し、周波数依存のインピーダンスで高周波電流を阻止する。
  3. RCスナバ:スイッチング素子やトランス一次側に付与し、過度応答とリンギングを減衰させる。
  4. レイアウト最適化:往復経路の近接配置でループ面積を最小化し、グラウンドプレーンでリターンを短縮する。

レイアウト設計の要点

高di/dtループ(スイッチ、整流、一次巻線、デカップリング)を特定し、最短・最小面積で閉じる。帰還配線はパワーループから離し、センシング点は電流経路の外で一点接続する。スロットや分断のあるGNDプレーンは避け、リターンの連続性を確保する。

スイッチング条件の最適化

ゲート抵抗の調整でスルーレートを制御し、リンギングとオーバーシュートを低減する。スイッチング周波数はフィルタ小型化に有利だが、ノイズ帯域は拡大するため、部品の自己共振周波数や効率と併せ最適点を探る。デッドタイムは短すぎると貫通電流でdi/dtを悪化させ、長すぎると整流モードの遷移で波形歪みが増える。

フィルタ設計の基礎

対象帯域のインピーダンスプロットを作り、源インピーダンスと負荷インピーダンスの整合を崩す構成を選ぶ。一次のノッチが不足する場合はXコンデンサと直列インダクタでπ型に拡張する。部品の等価直列抵抗ESRは減衰に寄与するが、過度に小さいとピーキングを招くため、実データで評価する。

部品選定時の実務指針

  • コンデンサ:パルス電流定格と温度特性、自己共振周波数を確認する。
  • ビーズ/インダクタ:インピーダンス曲線と直流重畳特性を重視する。
  • スナバ抵抗:過渡エネルギの消費を見積もり、発熱マージンを確保する。
  • 配線:厚みよりも経路と帰路の近接配置が効果的である。

規格適合と評価

CISPRベースの伝導エミッション限度に対し、プリコンでボトルネック周波数を特定し、等価回路で対策仮説を立てて検証する。差動成分はフィルタで低減しやすい反面、レイアウト起因の再発が多い。設計初期からノーマルモード経路を明確化し、反復評価で収束させることが効率的である。

注意事項(安全・信頼性)

Xコンデンサは安全規格適合品を用い、定格電圧・サージ耐量を遵守する。スナバの熱は筐体温度上昇に直結するため、放熱パスとクリアランスを確保する。対策後は効率、温度、過渡応答(突入・負荷過渡)への副作用を必ず再評価する。