ネットワークカメラ
ネットワークカメラは撮像した映像をデジタルデータとして圧縮し、IPネットワーク経由で配信・録画・遠隔監視を行うカメラである。従来の同軸方式CCTVと異なり、EthernetやWi-Fiに直接接続し、標準化されたプロトコル(RTSP/HTTP、ONVIFなど)を介してVMS/NVRやクラウドと連携する。電源はPoE(IEEE 802.3af/at/bt)で給電でき、配線の省力化と信頼性向上に寄与する。近年はエッジAIを内蔵し、人物・車両認識、人数カウント、侵入検知、プライバシーマスキングなどの高度な解析をカメラ単体で実行する事例が一般化している。工場の品質管理や安全監視、物流拠点のトレーサビリティ、店舗の動線分析、スマートホーム、防犯・防災まで用途は広い。
基本構成と信号処理
ネットワークカメラはレンズとCMOSイメージセンサ、ISP(Image Signal Processor)、ハードウェアエンコーダ(H.264/H.265)、ネットワークスタック(TCP/IP、UDP/RTP/RTSP)、ストレージ(microSD/NAS)で構成される。ISPはデモザイク、ノイズ低減、WDR、逆光補正、色再現などを行い、その後エンコーダがGOP構造(I/P/B)で圧縮し、RTPパケット化して配信する。夜間はIR照明や低照度強化によりS/Nを維持し、屋外モデルでは温度ドリフトや結露を抑制するためのヒータ・デフロスタを備える。
映像圧縮と帯域設計
配信設計では解像度(1080p/4K)、フレームレート、GOP長、ビットレート制御(CBR/VBR)を総合的に最適化する。H.265はH.264比で約30〜50%の帯域削減が期待できるが、デコード負荷や遅延、互換性も評価対象である。VBRは動きに応じて画質を確保し、CBRは予算化が容易でQoS設計に向く。ROI(Region Of Interest)や動体時FPSブースト、SVC等を用いると限られたスループットでも識別性能を維持しやすい。
- 概算式:総帯域 ≒ Σ(各カメラ平均ビットレート)+プロトコルオーバヘッド
- 例:H.265/1080p/15fps/中画質 ≒ 1.5〜3.0 Mbps/台、4Kならその2〜3倍を見込む
- NVR/LAN設計では突発トラフィックと録画同時再生の合算ピークを考慮する
電源・配線と無線接続
PoEはスイッチのEndspanまたはインジェクタMidspanで給電し、Cat5e/Cat6で最大100mが目安である。長距離はPoEエクステンダや光メディアコンバータで中継する。屋外配線ではサージ/雷保護、接地、ケーブル保護管の選定が重要で、金属筐体は接地点を一本化してループを避ける。Wi-Fi接続時は2.4/5GHzのチャネル計画、電波環境調査、再送制御、アンテナ設置位置の最適化が必須である。
屋外・特殊環境への適合
屋外用はIP66/67の防塵防水、IK10の耐衝撃、−30〜+60℃程度の動作温度を満たすモデルを選ぶ。塩害地域や化学プラントでは筐体や窓材の耐性を確認し、風荷重や振動を考慮してブラケット・ポールの強度計算を行う。熱設計では直射日光と放射冷却のバランスを取り、日射シールドや通風経路でセンサドリフトと熱ノイズを抑える。
プロトコルと相互運用性
RTSPは低遅延の常時配信に適し、HTTP(S)は設定やイベント連携に使われる。ONVIFはProfile S(ライブ)、G(録画)、T(H.265/WDR/解析)、M(メタデータ)の相互運用を規定し、VMS/NVR間の互換性確保に有効である。新興のWebRTCはブラウザ視聴の低遅延性に優れるが、実装差やNAT越えの要件整理が鍵となる。
録画方式とVMS/NVR
ネットワークカメラはエッジ録画(microSD)とNVR/VMSへの集中録画を併用できる。イベント(動体・ラインクロス・音検知)で記録をトリガし、スケジュールと保持期間(例:30/60/90日)をポリシ化する。NAS連携(SMB/NFS)やRAIDで冗長化し、カメラ側バッファで回線断時に録画を継続、復帰後に補完(各社のANR機能等)する設計が実運用で効く。再生はタイムライン、メタデータ検索、ブックマークで捜索効率を高める。
AI解析と代表ユースケース
物体検出・属性推定・トラッキングにより、侵入/滞留検知、人数カウント、混雑度推定、車両のナンバー認識、ヘルメット着用確認などを実現する。製造業では外観検査の前処理(欠陥候補抽出)や危険区域の検知、物流ではヤードの占有率管理、小売ではヒートマップと動線分析が典型である。プライバシー配慮として顔ぼかしや領域マスキング、データ最小化とアクセス監査をルール化する。
セキュリティとプライバシー保護
脅威は初期パスワード放置、古いファームウェア、不要ポート公開、弱い暗号化などである。対策として管理者資格情報の一意化、多要素認証、HTTPS/TLS・SRTPの有効化、UPnP無効化、VLAN/ACLでのセグメント分離、管理プレーンのVPN収容、Syslog/SNMPによる監査を実施する。IEEE 802.1XやMAC認証で端末接続を制御し、CVE情報を定期点検して計画的に更新する。個人情報の取扱いは法規・ガイドラインに適合させ、録画の目的明示、通知サイン、保管期間の最小化を徹底する。
トラブルシューティングの勘所
- 物理層:リンクLED、PoE電力予算、ケーブル長・結線、サージ保護の有無を確認
- ネットワーク:IP重複、ゲートウェイ/DNS、VLANタグ、MTU、QoS/DSCPの整合
- 配信:RTSP URL、コーデック設定、GOP長、CBR/VBR、NVR側デコード能力
- 無線:RSSI/干渉、チャネル設計、再送率、アンテナ指向性と設置高さ
- 保守:ログ取得、ファーム更新手順、設定バックアップ、ベンダサポート窓口