ナチズム
ナチズムは、ドイツ国家社会主義ドイツ労働者党の支配を支えた政治思想と運動の総称であり、指導者への絶対的服従、排外的な民族共同体観、反自由主義・反共産主義、国家による社会の全面的統合を特徴とする。ヒトラーの権力掌握以後、国家機構と党組織が一体化し、宣伝と暴力装置を通じて社会を動員し、対外膨張と戦争へと進んだ。
成立の背景
第一次大戦後の敗戦と賠償、政治的不安定は、ワイマール共和国の統治基盤を弱めた。ヴェルサイユ条約による領土・軍備制限への反発、失業や生活不安、急進勢力の台頭が重なり、秩序回復と国威再興を掲げる運動が支持を拡大した。こうした危機意識の中で、敵を設定して社会を結束させる言説が有効に働いた。
思想と世界観
ナチズムは、普遍的な人権や議会主義を弱者の思想として退け、民族を生物学的な単位として捉える傾向を強めた。国家は個人に優先し、個人は民族共同体に奉仕すべき存在とされた。また、対立の中心に反ユダヤ主義を置き、社会不安の原因を特定集団へ転嫁することで支持を固めた。
指導者原理
政治の正統性は制度ではなく指導者の意思に求められ、異論は共同体の分裂として排除された。党内外の意思決定は上意下達で統一され、法の支配よりも政治目的が優先された点に特色がある。
政治体制と支配の仕組み
権力掌握後、反対党派や労働運動は抑圧され、一党支配が確立した。官僚制は党の監督下に置かれ、警察権力と秘密警察が社会統制を担った。恐怖と監視を担うゲシュタポ、党の武装組織であるSSなどが動員され、言論・結社の自由は急速に縮小した。これらは広義の全体主義の典型として語られる。
宣伝と大衆動員
ナチズムは宣伝を統治の中核に据え、儀礼、集会、映画やラジオを通じて共同体意識を演出した。宣伝行政はゲッベルスの下で整備され、敵の可視化と成功物語の反復により、体制への同調を日常へ浸透させた。教育や青少年組織も再編され、忠誠心の形成が体系化された。
経済政策と動員
経済面では失業対策と軍備拡張が結びつき、公共事業や生産の拡大が推進された。自給自足を志向する政策も語られたが、資源制約を根本的に解決するには外部拡張が必要とされ、経済動員は戦争準備と不可分となった。労働現場では組合の解体後、国家主導の統制が進み、生活の安定は忠誠の対価として位置づけられた。
対外政策と戦争
ナチズムの対外政策は、民族の生存圏拡大を掲げる膨張主義に傾斜した。再軍備と既存秩序への挑戦は周辺国との緊張を高め、最終的に第二次世界大戦へ連なった。外交と軍事行動は国内統合にも利用され、勝利の期待が体制支持の維持装置として機能した。
人種政策と迫害
人種的序列化の発想は法制度と暴力によって具体化され、ユダヤ人を中心とする排除・隔離が推進された。戦時下には強制移送と大量殺害が組織化され、ホロコーストとして知られる破局に至った。迫害は突発的な逸脱ではなく、理念・官僚制・動員が結びつくことで持続的に実行された点に重さがある。
戦後の評価と概念としての用法
戦後、ナチズムは人類史上の重大な加害と結びついた概念として位置づけられ、象徴や組織の禁止、犯罪の追及、記憶の継承が課題となった。同時に、言葉としては排外主義や暴力的独裁を指す比喩に流用されることもあるが、本来の歴史的条件と制度的特徴を踏まえて理解することが重要である。