ドイモイ|刷新と開放の改革

ドイモイ

ドイモイは、ベトナム社会が戦後の困難と供給不足を背景に、経済運営の枠組みを実務的に組み替えていった改革路線である。国家の基本理念を維持しつつ、生産と流通の停滞を解くために市場の機能を部分的に取り込み、対外開放と投資受入れを進めた点に特徴がある。改革は一挙の制度転換ではなく、政策と現場運用の調整を積み重ねながら進行し、その後の成長と社会変容を方向づけた。

概念と語源

ドイモイはベトナム語の「刷新」を意味する語として知られ、政策スローガンであると同時に、経済管理の実務を更新する総称として用いられる。ここでいう刷新は、理念の放棄ではなく、停滞を生む運用を改めるという含意が強い。改革の対象は、配給と価格の管理、企業経営の裁量、農業生産の組織、対外取引の仕組みなど広範に及び、単一政策では説明しきれない複合的な転換として理解される。

導入の歴史的背景

1975年の統一後、国家主導の資源配分が強まる一方で、生産性の低迷や物資不足が慢性化し、インフレと財政の不均衡が深刻化した。国際環境も、冷戦下の緊張と地域情勢の変動によって対外取引が制約され、外貨不足が経済運営を圧迫した。こうした状況のもと、統制の維持だけでは供給を回復できないという認識が広がり、計画経済の運用を現実に合わせて修正する必要が唱えられたのである。

政策の柱

ドイモイの柱は、農業・企業・価格と流通・対外開放にまたがる。特に農業の生産インセンティブを回復させる措置は、食料供給の安定に直結するため重要であった。また国営部門の再編と、民間的な取引の許容拡大が同時に進められ、市場経済の価格シグナルを部分的に活用する方向が明確になった。

  • 農業生産の契約・請負の拡大による生産意欲の回復
  • 国営企業の採算性重視と経営裁量の拡大
  • 価格統制の段階的整理と流通の円滑化
  • 対外貿易の拡大、投資受入れ、輸出産業の育成

経済運営の転換点

改革は、国家の統治原理としての社会主義を掲げたまま、経済管理の方法を変えるという形で進んだ。配給と行政的な割当を中心とする仕組みは、供給不足の局面で特に脆弱であり、現場では非公式取引が広がりやすかった。そこで制度の外にあった取引を一定程度制度内に取り込み、税制・許認可・金融を通じて管理する方向へと再編が図られた。こうした転換は、理論よりも実務上の必要に促され、段階的な調整として現れた点が重要である。

対外開放と国際統合

ドイモイは国内改革にとどまらず、国際市場との接続を強めることで外貨と技術を導入し、産業構造の転換を促した。地域協力の枠組みであるASEANへの参加は、貿易と投資環境の整備を後押しし、企業活動の国際化を現実の課題として突きつけた。さらに多国間貿易体制への関与を深めることで、関税・制度運用・知的財産などのルール整備が求められ、国内制度の近代化が進みやすい環境が形成された。こうした国際統合の流れは、輸出志向の製造業やサービス業の伸長と結びつき、成長の持続条件に影響を与えた。

政治体制との関係

ドイモイは政治的多元化を前提とする改革ではなく、統治の枠組みを維持したまま経済手段を更新する性格が強い。政策決定の中心は共産党に置かれ、改革の範囲と速度は社会安定や国家統合の観点から調整された。市場の要素を取り入れるほど、利害調整、監督、腐敗防止、法制度整備が重くのしかかるため、政治体制は経済の自由度を完全に委ねるのではなく、指導と規制を組み合わせる形で均衡を探ったのである。

社会への波及と課題

改革が進むにつれて、雇用の場は国営部門中心から多様化し、都市への人口移動や生活様式の変化が顕著になった。他方で、地域間・産業間の所得格差、土地利用をめぐる摩擦、環境負荷の増大など、新たな論点も生じた。制度が急速に複雑化する過程では、法の運用や行政裁量の透明性が課題となり、投資や企業活動の予見可能性が政策上の焦点になりやすい。多国間ルールへの適合を求める動きとしてWTOとの関係を含む制度整備が進むほど、国内の統治能力と監督の質が改革の成否に影響する構図が強まった。