ドアラッチ|施錠と保持でドア安全性を高める

ドアラッチ

ドアラッチは、扉や車両ドアの閉鎖状態を保持し、必要時にのみ解放する機構である。ラッチ本体はラチェットとパウル(爪)、スプリング、ハウジングから構成され、相手側のストライカーを確実に把持する。手動操作(ノブ・レバー・ハンドル)や電動アクチュエータの入力を受け、係合・解放を切り替える。建築分野では開閉頻度や防犯性、車両分野では衝突時保持やNVH(騒音・振動・ハーシュネス)低減、軽量化、耐久性が要求される。用途に応じてメカニカル式、電動補助式、ソフトクローズ式などが用いられ、近年は「E-latch」と呼ばれる電子制御化も進む。

構造と原理

ドアラッチの基本原理は、ストライカーがラチェットの開口部に進入するとスプリング力により自動的に一次係合(セカンダリロック)、続いて完全係合(プライマリロック)に移行し、パウルがラチェット歯を保持して外れを防ぐ点にある。解放時は内外ハンドルやアクチュエータがパウルを押し上げ、ラチェットの保持を解除する。フェイルセーフとして二段係合、二重バネ、過荷重時の逃がし形状が設けられる。

  • ラチェット:ストライカーを段付きで保持する回転部品
  • パウル:ラチェットを保持・解放する爪
  • ストライカー:車体側/枠側に固定される軸状部品
  • スプリング:自動係合と復帰を担う弾性要素
  • ハウジング:板金プレスやダイカストの外装・案内部

自動車用ドアラッチの特徴

自動車用では衝突時にドアが不用意に開放されない保持力と、通常操作での軽い解放力の両立が重要である。チャイルドロック、センターロック、アンチスラム(勢いよく閉めても損傷しにくい)などの機能が統合される。ソフトクローズは微小開きからモータで吸い込み、密閉性と静粛性を高める。

  • 電装連携:ドアラッチはCAN/LINでBCMと通信し、キーレスや衝突検知と連動
  • 耐環境:水密・防塵、塩水噴霧、耐泥砂、−30〜+80℃の動作
  • 安全:二段係合、誤操作防止、座屈しにくいストライカー配置

建築用ドアラッチの種類

建築用ではプライバシーや防犯、防火区画、バリアフリーの観点が重視される。開閉頻度や扉質量に応じて、ラッチボルト式、デッドロック併用式、パニックラッチ(非常解錠)などを選定する。公共施設ではハンズフリー性と耐久性、病院では細菌汚染を抑える意匠が求められる。

  • スプリングラッチ:日常開閉に適した汎用型
  • デッドラッチ:バックセットと連動しこじ開けに強い
  • パニックラッチ:避難時に押すだけで解錠
  • 自閉装置連動:ドアクローザと同期し確実に係合

材料と表面処理

ドアラッチのハウジングはSPCC等の冷間圧延鋼板やSUS系、ラチェット・パウルは浸炭焼入れしたSCM/SC材が一般的である。ストライカーは中炭素鋼の焼入れ・ショットピーニングで耐摩耗・疲労を確保する。表面処理は亜鉛めっき、Zn-Ni、リン酸塩皮膜、樹脂コーティングなどを用途・塩害環境で使い分ける。樹脂部はPOM、PA、PBTを多用する。

耐久・安全規格

自動車ではFMVSS 206、ECE R11、JIS規格に適合する保持力・解放力・耐衝撃が求められる。開閉耐久は数万〜十数万サイクルを評価し、−40℃凍結や泥水浸漬後の作動確認を行う。建築用では火災時の温度上昇下でも係合が維持されること、避難時の片手操作性が要求され、ドアラッチ単体ではなくドアクローザ・ヒンジと系で審査される。

故障モードと対策

代表的な不具合は、摩耗による係合浅化、氷結・錆での固着、異物噛み込み、ばね折損、誤調整によるバックラッシュ増加である。設計では潤滑剤の保持溝、自己清掃形状、異物逃がし、氷結対策のウォーターアウト構造を組み込む。電動化ではモータ/ギヤの過負荷保護、手動冗長経路を確保し、フェイルセーフを担保する。

  • 摩耗対策:高硬度材・表面処理、接触線形の最適化
  • 氷結対策:水切り、ヒータ併用、低温潤滑
  • 異音対策:クリアランス設計、制振材、低μ潤滑剤

設計ポイント

ドアラッチの設計では、ストライカー中心とラチェット回転中心の幾何学、ドアシール圧との力学バランス、解放力と行程の最適化が肝要である。解放系のケーブル/ロッドは摩擦と伸びを抑え、ソフトクローズは吸い込み力とピンチ防止を両立する。量産性を考慮し、組立ばらつきに鈍感な公差配分と検査基準を用意する。

公差とはめあい

ラチェット軸受はガタを許容しつつも振れを抑えるため、すべり軸受の隙間、リベットかしめ量、ブラケットの板厚公差を総合管理する。ストライカーとボディ側の取付はホール位置公差と楕円穴で調整幅を持たせ、製造ばらつきでも確実に係合できるようにする。

NVHと操作感

係合時の「カチッ」という音質はユーザー印象を左右する。ラチェット歯形、衝突速度、減衰材の配置で高周波成分を制御し、開閉力は季節温度やシール硬度変化を含めて最適化する。室内側機構のスプリング定数とリンク比は、誤操作を避けつつ軽快さを与える設定とする。

製造と組立

主要部品はプレス加工、精密打抜き、曲げ、タップ、スポット溶接、リベットで構成する。ラチェット・パウルは打抜き後に歯面仕上げと熱処理を行い、ラッピングで初期なじみを確保する。組立ではグリースの塗布量・位置が機能を大きく左右するため、ディスペンサ管理と目視検査を併用する。電動タイプではモジュール化し、アクチュエータとセンサを一体で評価する。

関連部品との連携

ドアラッチはドアヒンジ、ドアシール、ストライカー、ドアラッチを駆動する電動アクチュエータ、内外ハンドル、ドアクローザ(建築)などとシステムで最適化される。車両ではボディ剛性・歪み、ドア重量配分、シール圧が係合性に影響するため、車体開発段階から共同設計を行い、気密・水密・操作感・安全の総合指標で評価する。