ドアヒンジ|扉の開閉を滑らかにする回転軸

ドアヒンジ

ドアヒンジは、扉の回転運動を支える機械要素であり、固定側(枠)と可動側(扉)を軸で連結して所定の回転中心を与える部品である。住宅・建築用から産業機械、車両に至るまで広く用いられ、耐荷重、開閉角度、寿命、静音性、メンテナンス性などの要求に応じて形状・材質・表面処理が選定される。丁番(ちょうばん)とも呼ばれ、葉(リーフ)、軸(ピン)、巻き(ナックル)の基本構成をもつ。取り付け寸法、ビス穴配列、開閉トルクなどの要素は設計や施工品質に直結するため、選定と据え付けの双方で合理的な判断が求められる。

構造と動作原理

ドアヒンジは、2枚のリーフがピンを介して回転結合される。回転中心はナックルの幾何学中心に一致し、扉端面のクリアランス(見切り)や見込み(段差)を考慮して位置決めする。摩擦は主にピンとナックル内面の摺動で発生し、金属同士の接触、ブッシュ(樹脂・青銅・含油材)介在、潤滑剤塗布の有無で特性が変わる。扉質量と重心位置によってヒンジ軸に曲げモーメントが生じ、上側ヒンジに大きな荷重が集中しやすい。従って、ヒンジ本数、上下間隔、ピン径、素材強度の組合せで安全率を確保するのが基本である。

種類

  • 平蝶番(丁番):最も一般的。リーフを掘り込む切り欠き(モルタイズ)の有無で外観と強度が変わる。建具全般に広く用いられる。
  • ピアノヒンジ:長尺連続ナックルで、扉全長にわたり荷重分散と面内剛性を高める。薄板扉や筐体に適する。
  • スライドヒンジ(欧式隠しヒンジ):カップ穴で扉裏に埋め込むタイプ。3方向調整機構を備え、家具や機器カバーでの意匠性に優れる。
  • オートモーティブヒンジ:車体ピラーとドアを結ぶ高強度型。大開角、衝突時の保持性能、量産ばらつき吸収を重視する。
  • トルクヒンジ:内蔵摩擦機構で任意角度保持を可能にする。各種点検扉、ノートPC、医療機器のカバーに採用。
  • ダンパーヒンジ:粘性体や機構で減衰を与え、静かで安全な閉止を実現する。ソフトクローズ用途向け。
  • スプリングヒンジ:ばね力で自閉させる。通路の防煙・衛生対策などで自動閉扉を簡便に実現できる。

材料と表面処理

ドアヒンジの主要材料は、一般構造用鋼、ステンレス鋼、黄銅、アルミ合金である。屋外や高湿環境では耐食性に優れるSUS(例:SUS304)や黄銅が選ばれやすい。表面処理は溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、ニッケル、黒染め、クロメート、粉体塗装などを用いて耐食性と外観を両立させる。異種金属接触による電食を避ける設計配慮や、ブッシュ材の選定による摺動摩耗の低減が重要である。取り付けにはボルトや木ねじを用い、座面陥没や座屈を防ぐため座金や座堀りの処理を行う。

設計指針(荷重・寿命)

扉重量Wと重心のヒンジ中心からの水平距離eが与える曲げモーメントM=W×eは、上ヒンジに大きく作用する。2丁使いと3丁使いでの負担配分は等分ではなく、最上段>中段>下段の順に大きくなるのが一般的である。ヒンジピンせん断、ナックル座屈、リーフ曲げを耐力で満足させ、開閉サイクル(例:10万回など)の耐久要求を満たすよう選定する。潤滑条件、ダスト侵入、温度など使用環境は疲労寿命に影響するため、余裕をみた強度と必要最小限の摩擦を両立させる設計が望ましい。

取り付けと調整

建具用の平蝶番では、彫り込み深さと位置精度が扉の建付け(チリ)と直角度を左右する。スライドヒンジは左右・上下・前後の3方向独立調整ねじで隙間と面合せを微調整でき、扉枚数が多い収納でも直線性を保ちやすい。金属扉や筐体では下地補強板を併用し、薄板の座屈やねじ穴座面の塑性変形を防ぐ。緩み対策にはばね座金、ねじゆるみ止め剤、二面幅管理が有効である。開扉角と躯体干渉、モールやパッキンの圧縮量も事前検証しておく。

故障モードと対策

代表的な不具合は、扉の垂れ下がり(サグ)、きしみ音、ガタ、開閉重さ、腐食である。サグは上ヒンジのピン・ナックル摩耗や取り付け部の座屈が原因で、ピン径見直し、長尺ヒンジへの変更、補強板追加で改善する。きしみは潤滑不足や面粗さ不良に起因し、適切なグリースや自己潤滑ブッシュで抑制できる。屋外ではシール性と排水性を両立させ、腐食環境ではSUSや表面処理の選択を優先する。定期点検で緩み締め直しと摩耗進行の監視を行う。

自動車用の特性

車両のドアヒンジは、走行振動、車体撓み、衝突荷重、温度・塩害など過酷条件への適合が必要である。開扉角を広く取りつつ、ドアチェック(保持機構)やストラップは通常ヒンジと別体で設計される。高張力鋼や熱間鍛造品、厚肉ナックルで高強度化し、電着塗装で耐食性を確保する。製造ばらつきに対しては長孔やシムで調整余裕を持たせ、NVH観点でガタ・鳴きの抑制が図られる。救助時の脱着性やサービス性も評価項目となる。

静音・保持・安全機能

ソフトクローズ性を要求する建具や医療・計測機器では、ダンパーヒンジやトルクヒンジが有効である。これらは角度依存トルクや減衰特性で扉の急閉を抑え、指挟みリスクや騒音を低減する。摩擦材は温度で粘性が変化するため、寒冷・高温環境でのトルク安定性を評価し、必要に応じて材料変更やグリース選定を行う。安全面では開閉速度、保持角の設定、扉自重に対する十分な安全率を確保し、使用者属性(子ども・高齢者)に応じた操作力を目標値とする。

選定フローの要点

  1. 使用環境:屋外/屋内、温湿度、粉塵、薬品、塩害を確認し、材料と表面処理を決める。
  2. 扉仕様:質量、重心、板厚、開扉角、必要寿命(サイクル数)からヒンジ本数とピン径を見積もる。
  3. 意匠・調整:露出/隠し、クリアランス調整機構の有無、静音・保持機能の要否を選択する。
  4. 据付方法:ねじ種別、座金、補強板、溶接やリベットの可否、保全性(脱着容易性)を検討する。
  5. 検証:干渉、ガタ、開閉トルク、騒音、耐食の試験で妥当性を確認する。

関連事項

建具・筐体設計では、ドアヒンジ単体だけでなく、扉のロック機構、ガスケット、ドアチェック、ストッパ、取手、留め具、さらには取付用ボルトとの組合せで総合的に性能を最適化する。部品点数、保全性、コスト、外観品質のバランスをとり、標準部品の活用で調達性と互換性を確保することが、堅実な設計である。