トランスミッションECU|滑らかな加速と燃費向上

トランスミッションECU

トランスミッションECUは自動変速機の頭脳であり、走行状態・運転者要求・車両環境を統合して変速段選択、クラッチ圧制御、油圧回路切替、トルク調整、保護制御をリアルタイムに行う制御ユニットである。AT・DCT・CVT・AMTなど方式差を吸収しつつ、燃費、応答性、快適性、耐久性、排出ガスの最適化を同時に達成することが使命である。近年はエンジンECUやモータ制御と高頻度通信し、協調制御によりシフト質と効率を高めている。

基本構成とセンサ・アクチュエータ

トランスミッションECUはマイコン、電源・ドライバ、入出力回路、通信IF、ソフトウェアから成る。主なセンサは入力軸回転、出力軸回転、油圧、油温、クラッチストローク、選択レバー位置、ブレーキ信号、スロットル開度、車輪速である。アクチュエータはシフトソレノイド、ライン圧制御ソレノイド、クラッチ用比例弁、レンジ切替モータ等である。

変速スケジューリングとトルク協調

トランスミッションECUは車速・負荷から最適段を決定し、シフト開始から完了までの位相を細分化して制御する。エンジンECUとトルクリクエストを共有し、点火遅角やスロットル制御によりトルク穴やショックを抑制する。DCTでは2系統クラッチのトルク配分を滑らかに遷移させ、CVTではプーリ比とライン圧を協調させてチェーンの滑りと効率を管理する。

方式別の制御要点(AT・DCT・CVT・AMT)

  • AT:油圧変速要素とロックアップ制御が中核で、ライン圧マップとフィードバック補正で個体差と温度を吸収する。
  • DCT:奇数・偶数段クラッチのトルク重ね合わせが鍵で、発進・クリープ・渋滞時の熱管理が重要である。
  • CVT:比変化速度、プーリ押付力、ベルト保護の最適化により効率と応答の折り合いを付ける。
  • AMT:シフト/クラッチアクチュエータを電子制御し、エンジントルクの抜き差しタイミングを厳密に同期させる。

通信とシステム統合

トランスミッションECUはCANやLIN、必要に応じて高速ネットワークで車両全域と接続される。エンジンECU、ブレーキ制御、スタビリティ制御、ハイブリッド用インバータと協調し、発進制御、坂道発進、回生協調、クルーズ、発停制御を一体運用する。シフトレバーやパドルからの意図も優先順位付きで解釈する。

診断・フェイルセーフ

トランスミッションECUは自己診断によりDTCを記録し、故障時は代替段保持、油圧固定、クラッチ保護などのリンプモードへ移行する。センサ異常時は推定値に切替え、アクチュエータ異常時は安全側に寄せる。OBD対応により故障の再現性、発生条件、停止履歴を保存し、サービス性を高める。

熱・潤滑・耐久の考慮

油温上昇は変速応答と摩耗に直結するため、トランスミッションECUは冷却制御やライン圧制御で発熱を抑える。高温時はトルク制限やギヤ選択抑制を行い、低温時は粘度上昇を見越して学習量を補正する。焼付き、ジャダー、滑りの予兆を監視し、保護ロジックを段階適用する。

学習・キャリブレーション

製造ばらつきや経時変化に対応するため、クラッチ充填時間、ストローク、油圧ゲインの学習が実装される。キャリブレーションは実路・台上で行い、ドライバビリティ、燃費、NVH、熱、耐久を同時最適化する。モデルベース開発により、プラントモデルとHILで検証を加速する。

ソフトウェア基盤と機能安全

トランスミッションECUはAUTOSARを基盤にタスク優先度や時間決定性を確保する。機能安全はISO 26262に準拠し、ASILに応じた冗長化、監視、診断カバレッジを担保する。ブートローダはセキュアに更新し、ロールバックと整合性検証を備える。

電動化パワートレインへの拡張

HEV/PHEVではエンジン停止中でも走行が可能なため、トランスミッションECUはモータトルク、回生、クラッチ開閉を綿密に協調する。e-AXLEやe-CVTでは減速段選択や回生限界、バッテリ温度を反映した最適化を行い、始動・停止時の衝撃を抑える。

サイバーセキュリティとOTA

トランスミッションECUはISO/SAE 21434に沿った脅威分析、鍵管理、メッセージ認証、診断アクセス制御を実装する。OTA更新では安全側停止条件、更新中電源保持、失敗時リカバリを必須とする。

代表的な制御機能の例

  • クリープ・坂道保持の滑らかさ向上
  • スポーツ/エコ/スノーといったドライブモード別マップ
  • 下り坂でのエンジンブレーキ優先ロジック
  • けん引時の熱保護と段保持

設計・検証フローの要点

要求定義、アーキ設計、モデル設計、コード生成、単体/結合/実機/車両試験、量産監視まで一貫したトレーサビリティを確保する。障害木解析とFMEAでリスクを前倒しで摘み取る。

品質・保守と将来展望

量産後はフィールドデータを解析し、学習量のドリフトや使用環境差を把握する。ソフト改善でシフト質と効率を継続的に引き上げ、部品共通化と電動化対応でコストと性能の両立を図る。結果としてトランスミッションECUは車両価値の中核として進化し続ける。