トラッククレーン
トラッククレーンは、公道走行が可能なトラック車台に旋回体と伸縮式ブームを搭載した移動式クレーンである。現場まで自走で移動し、アウトリガを張出して設置することで揚重作業を行う。旋回体は旋回輪で車台に結合され、油圧ポンプと制御弁によりブームの伸縮・起伏・旋回、ウインチの巻上げを精密に制御する。機動性と設置性のバランスが良く、都市土木、建築資材の荷上げ、工場設備の更新、屋上機器の据付など短時間・分散的な作業で威力を発揮する。
構成要素
トラッククレーンは大別して「車台(キャリア)」と「上部旋回体」から成る。車台はエンジン、トランスミッション、駆動軸、サスペンション、ステアリング、ブレーキを備え、公道走行に適合する。PTOや補機駆動により油圧ポンプへ動力を供給する。上部旋回体は旋回ベアリング、油圧伸縮式ブーム、起伏シリンダ、ウインチ、フックブロック、ワイヤロープ、カウンタウエイト、運転席(上部操作室)で構成される。設置時にはアウトリガを四方に張出し、接地盤と敷板で地耐力を確保する。
作動原理
エンジン出力は油圧ポンプにより油圧に変換され、方向切換弁と比例制御弁で各アクチュエータへ分配される。ブームの「伸縮(telescoping)」「起伏(luffing)」「旋回(slewing)」、ウインチの「巻上げ・巻下げ」を協調させて荷の位置と姿勢を制御する。過負荷防止装置(LMI: load moment indicator)はブーム長、作業半径、起伏角、アウトリガ設定などから許容モーメントを算出し、定格超過や二重巻上げ(anti two-block)を検知して警報・動作停止を行う。
安定性とアウトリガ
トラッククレーンの転倒は「荷重×半径」で生じる転倒モーメントが、車体とアウトリガが生む復元モーメントを上回ったときに発生する。したがってアウトリガの張出幅と地盤支持力が最重要である。敷板の選定では地耐力kN/m²と接地圧の整合を取り、沈下や片当たりを避ける。アウトリガを短張出や片側のみとした場合は荷重曲線が厳しくデレートされる。強風時は側圧が増えるため、メーカー指定の許容風速を下回っていてもガストや荷の投影面積を考慮し保守的に判断する。
性能指標
- 最大定格荷重(t)
- ブーム長(m)と最大地上揚程(m)
- 作業半径(m)ごとの定格荷重(荷重曲線)
- 旋回速度(deg/s)、巻上げ速度(m/min)
- アウトリガ張出条件別能力(全張出/中間/短張出)
- 自重・軸重配分、走行速度、最小回転半径
荷重曲線の要点
荷重曲線は「強度制限域」と「安定度制限域」に分かれる。小半径・短ブームでは構造強度が支配的となり、長ブーム・大半径では安定度が支配的となる。玉掛け具の重量、フックブロック、補助ジブ(fly jib)などの自重は全て作業荷重に算入する必要がある。
運用と法規(日本)
労働安全衛生法に基づき、つり上げ荷重5t以上は「移動式クレーン運転士」の免許が必要であり、5t未満でも所定の技能講習が求められる。また玉掛け作業には「玉掛け技能講習」修了者を配置する。年次自主検査・月例点検の実施、フックやワイヤロープの使用限度、巻上げドラムの有効巻数の遵守が必要である。公道走行に関しては道路運送車両法の保安基準や軸重・幅・高さの制限に留意し、必要に応じて通行許可を取得する。
選定と適用範囲
トラッククレーンは、分散現場を短時間で巡回する作業、都市部の資材荷上げ、設備更新のスポット対応に適する。現場条件の評価では、進入路幅と軸重、設置スペース、上空障害、地耐力、風環境、近接帯電設備や高圧線の離隔を総合判断する。荷はできる限りブーム短・半径小で扱う計画とし、必要時は補助ジブやスペーサ、スプレッダバーを用いてバランスと吊り点間距離を確保する。
事前計画のチェックリスト
- 荷重・重心・吊り点位置の把握(図面・実測)
- 作業半径とブーム長の整合、干渉・離隔の確認
- 地耐力と敷板計画、雨後や埋設物の影響評価
- アウトリガ配置と設置手順、非常時退避経路
- 風速閾値、夜間照明、誘導員・無線連絡体制
保守・点検と典型故障
ワイヤロープの素線切れ・腐食・径減少、シーブ溝の摩耗、フック開きや安全装置の作動確認、油圧系の漏れ・圧力低下、シリンダのクリープ、旋回・起伏軸受の異音・ガタを定期点検する。電子制御ではセンサのドリフトや配線断線、LMIの較正不良が稼働停止の原因となりやすい。グリースアップや油脂類の交換周期を管理し、記録簿で部品寿命を見える化することが保全効率を高める。
安全上の留意事項
地盤沈下や片軸荷重は潜在的な転倒リスクであるため、アウトリガ下の敷板サイズと剛性を余裕で選定する。人荷混在禁止、吊荷の真下立入禁止、合図の統一、吊荷の横引き禁止、風による振れの抑制、二点吊り時の荷重配分管理を徹底する。夜間・狭隘地では誘導員を配置し、照度・合図・無線の冗長性を確保する。最後に、作業終了時はフックの地切り停止、ブーム格納、アウトリガ収納、周辺確認という定型手順で締めくくる。