トポロジカル量子ビット
「トポロジカル量子ビット」は、位相幾何学的な保護を利用して量子情報を保持・操作する量子ビットである。環境雑音に敏感な局所自由度ではなく、系の位相的性質に情報を符号化するため、局所的な摂動に対して頑健で、長いコヒーレンスを期待できる。代表例は非可換任意子やマヨラナ零モードを用いる方式で、交換(ブレイディング)によってゲートを実装するのが特徴である。
原理と背景
背後にある概念はトポロジカル秩序であり、ギャップと位相不変量(Chern数など)で定まる縮退基底に情報を分散して持たせる。非可換任意子の系では、粒子の世界線の結び目だけが演算を決め、経路の微細な違いには依らないため、微小ノイズや欠陥に頑健である。
物理実装の候補
- 実装候補は複数ある。①半導体–超伝導ナノワイヤで端点にマヨラナ零モードを局在させる方式。②トポロジカル絶縁体と超伝導体の接合で境界にトポロジカル超伝導を作る方式。③分数量子ホール(特にν=5/2)の任意子を使う方式。いずれも低温・高純度・精密加工を要する。
ブレイディングと演算
ブレイディングとは任意子やマヨラナモードを交換する操作であり、対応するユニタリ演算が量子ゲートとなる。非可換統計では交換の順序がユニタリ行列の積の順序に対応する。測定と組み合わせ、初期化・読み出し・位相ゲートなどを実装する。
利点と課題
- 利点は位相的保護による低い実効エラー率と設計上の許容度である。他方式がQECで外側から守るのに対し、物理層がロバストである。一方、十分大きいギャップと長いワイヤ長・面積を確保しつつ量産で再現すること、有限温度の準粒子ポイズニング抑制が課題である。 さらに、デバイス歩留まりのばらつきと統計的再現性の確保、計測系の系統誤差の排除も難題である。
マヨラナ零モード
マヨラナ零モードは、フェルミ粒子の粒子・反粒子が一致した実数的な準粒子解であり、端点や渦芯に局在する。2つのモードで1量子ビット相当の非局所自由度を構成し、個々の端点への局所操作だけでは情報に完全にはアクセスできないため、自然な「符号化」になっている。位相差の制御やジョセフソン効果を用いた干渉計測で存在を推定する実験手法が用いられる。
トポロジカル保護と誤り
トポロジカル保護は万能ではない。有限サイズによるモード重なりはゼロでなく、温度上昇や電磁雑音は励起を生む。ブレイディングが十分にゆっくりでないと漏れが起こる。残差誤りを抑えるため、surface code などのQEC併用が現実的である。
他方式との比較
他方式との比較では、超伝導トランスモンは高速ゲートと成熟した製造、イオントラップは高忠実度読み出しと長寿命、スピン量子ビットはCMOS互換と高密度集積に強みがある。トポロジカル量子ビットは物理エラー源を根本から抑えうるが、実証度とスケールで追いつく必要がある。
設計・計測の要点
設計では、材料成長と界面の散乱低減、ゲートでの化学ポテンシャル均一化、配線のクロストーク低減が鍵である。測定系では、低雑音増幅、フィルタの熱漏れ対策、熱化のためのアッテネータ配置など、マイクロ波工学の最適化が重要となる。 制御回路は低温動作のcryo-CMOSや光学リンクの検討が進み、室温との配線本数を抑える工夫が求められる。
スケーリングと標準化
ブレイディングだけで普遍ゲート集合にならない候補系もあり、測定誘起や補助ゲートを組み合わせる命題が重要である。スケーリングには配線・冷却・チップ間接続のボトルネックがあり、3D集積やチップレット、誤り耐性アーキテクチャとの共同設計が進む。マクロ製品のねじやボルトの標準化になぞらえ、量子インターフェースの標準化も肝要である。
用語「ブレイディング」
ブレイディングの幾何は結び目理論と群表現に結びつく。世界線の交差はブレイド群の生成元に対応し、そのユニタリ表現がゲートとなる。実験では電気的ゲートで端点を移動し、T字結合で交換を合成する。
設計指標
< p class="paragraph">評価指標は、ギャップΔ、長さLに対する重なりe^(−L/ξ)、パリティ寿命T_p、ブレイディング時間τ_b、読み出しコントラスト、誤りチャネル(熱励起・ポイズニング・位相揺らぎ)の分解である。雑音スペクトルを同定し、装置設計を反復する。ベンチマークは反復測定で信頼区間を評価する等。ドリフト補正も重要である。