デュアルマスフライホイール
デュアルマスフライホイール(DMF)は、内燃機関のねじり振動を二分割した慣性体とばね・摩擦要素で吸収し、駆動系の騒音・振動(NVH)とギヤラトルを低減する装置である。小排気量高過給化や低回転高トルク化で増大しやすい一次・二次トルク変動を、クラッチ側に伝える前に減衰させることで、乗り心地と変速機耐久性を両立させる。
概要と目的
デュアルマスフライホイールは、エンジン側の「一次マス」とトランスミッション側の「二次マス」をねじりばね(アークスプリング)と摩擦ダンパで結合する構造を採る。エンジン起因の回転むらを機械的フィルタで減衰させ、アイドリング静粛性、低速域の発進性、シフトフィールを改善することが主目的である。
構造
一次マスはクランクシャフトに固定され、二次マスはクラッチおよび入力軸側に結合される。両者の間に配置されたアークスプリング、摺動リング、ストッパ、グリース封入室、ラジアル・スラスト支持用の滑り軸受(あるいは針状軸受)が主要構成要素である。二次マス側にはクラッチカバーを直接取り付ける設計が一般的である。
動作原理
エンジンからの脈動トルクが一次マスに入力されると、ばね系にねじり変位が生じ、ばね力と摩擦力がエネルギを吸収・散逸する。ねじり共振を一次マス—二次マス間に移し、変速機に到達するトルク変動を所望の周波数帯で低減する。固有角速度は ωₙ=√(k/J_eq)(k:等価ねじりばね、J_eq:等価慣性)で近似され、ばね定数と有効慣性の設計でターゲット回転域に同調させる。
ばね段付き特性とヒステリシス
多段ばねと摩擦要素により低トルク域で柔らかく、高トルク域で硬くなる非線形特性をもたせる。これによりアイドル付近のギヤラトル抑制と加速時のトルクリップル低減を両立する。摩擦ヒステリシスは戻り振動の収束を早める役割を担う。
効果とメリット
- ギヤラトル・ボディ振動の顕著な低減
- 低回転高負荷でのドライバビリティ向上とノッキング様騒音の抑制
- 変速機・駆動系の疲労負荷低減、シンクロ保護
- アイドル回転数の最適化余地拡大による燃費・CO₂改善
課題と注意点
デュアルマスフライホイールは単体質量やコストが増す。長期使用でグリース熱劣化、ばね座屈・折損、摺動面摩耗、ベアリングガタが発生しうる。過度のスリップやミスファイア、急激なクラッチミートは熱負荷を増やし寿命を縮めるため、整備では熱変色、異音、回転むら、バックラッシュ増大の点検が重要である。
設計指標と選定
主な指標は等価ねじり剛性、最大許容トルク、ばね作動角、ヒステリシス面積、許容温度、慣性配分(J₁/J₂)、摩擦係数、グリース粘度指数である。エンジンの気筒配置と点火間隔から支配次数を見積もり、ターゲット共振域をアイドル~巡航の外へ逃がす。手動変速機の減速比、一次減速、最終減速も入力トルク脈動の周波数換算に影響する。
簡易同定式
目標固有回転 nₙ [rpm] は nₙ≈(60/2π)√(k/J_eq) で近似できる。ここで J_eq は二次側負荷慣性を含めた反映量とし、車両総合での実効値を使うと適合が安定する。
単一マスとの比較観点
シングルマスは単純・頑健で高温耐性に優れるが、低速ギヤラトルと騒音に弱い。デュアルマスフライホイールは振動低減に優れる一方、熱・コスト・整備性で配慮が要る。近年はアイドル低回転化とダウンサイジングの潮流により、MTやDCTでの採用が広がる傾向にある。
故障兆候と診断
アイドルでのカタカタ音、発進時のジャダー、加減速での金属打音、エンスト後の異常振動は代表的兆候である。クラッチ交換時にはDMFの回転遊び角、ラジアルガタ、ブルーイング、グリース漏れ、スプリング破片の有無を点検し、基準を超える場合は同時交換が推奨される。
関連部品との関係
クラッチカバー・ディスク、入力軸、シンクロ、ギヤ列、エンジンマウントと相互作用する。発進性はクラッチ摩擦材特性と協調が必要であり、エンジン制御の点火遅角やトルクスムージングとも協調設計される。
適用と運用の要点
- 市街地アイドル~低速域でのNVH目標を最優先に同調設計
- 耐熱設計:高温時のグリース粘度低下と摩擦特性変化を考慮
- 整備:クラッチ系統の適切な当たり出しとミート操作の教育
- 評価:実車でのトルクフルクトゥエーション計測と周波数応答解析
用語補足
ギヤラトルはギヤバックラッシュ部での衝突性雑音であり、入力トルクの低周波変動と関係が深い。アークスプリングは円弧状に並べた圧縮ばねで、大角度のねじり変位を許容する。
参考関連
駆動系理解にはボルトや締結・回転機械の基礎、クラッチや変速機、回転系の振動学の知識が有用である。歯車のかみあい剛性や支持剛性、潤滑状態はラトル発生に影響し、総合的なNVH設計が求められる。