タングステン(W)|超高融点・耐熱高強度の重金属素材

タングステン(W)

タングステン(W)は原子番号74の遷移金属で、常温で体心立方(bcc)構造をとり、金属中で最高クラスの融点(約3422℃)を示す高融点金属である。密度は約19.3 g/cm³と大きく、ヤング率は約400 GPaに達するため剛性が高い。一方で室温付近では脆性が強く、延性は高温域で回復する。熱膨張係数が低く、熱伝導率は良好、電気抵抗率は低い部類で、真空・高温・高放射線環境で安定に機能する特性をもつ。鉱石は灰重石(CaWO4)や鉄マンガン重石((Fe,Mn)WO4)が主要で、粉末冶金を核とする製造プロセスが発達している。

基本データ

  • 元素記号:W(名称語源:独語Wolfram)/原子番号:74/原子量:約183.84
  • 結晶構造:bcc(α-W)/薄膜でβ-W(A15相)が現れることがある
  • 密度:約19.3 g/cm³/融点:約3422℃/沸点:約5555℃
  • ヤング率:約400 GPa/ポアソン比:約0.28/硬度:高い(焼結体でHV数千)
  • 熱膨張係数:約4.5×10^-6 /K(20–100℃)/熱伝導率:約170 W/m·K(室温)
  • 電気抵抗率:約5.3 µΩ·cm(室温)/仕事関数:およそ4.5–4.6 eV

結晶構造と相

バルクのタングステンはbccのα相が安定相である。薄膜堆積条件(スパッタ等)では、準安定のβ-W(A15型)相が形成されることがあり、β相はα相に比べて電気抵抗率が高くスピンホール角が大きいと報告される。機械特性においては粒径微細化や不純物含有の影響が大きく、Kドープ(非たるみ線)やRe添加などでクリープ抵抗や延性を制御する設計が行われる。

機械的性質

  • 高剛性:ヤング率約400 GPaで、たわみが生じにくい構造材設計に有利である。
  • 脆性—延性遷移:室温では脆く、300–400℃以上で延性が現れ加工性が改善する。
  • 高温強度・クリープ:高温での弾塑性安定性に優れるが、粒界脆化対策としてドープや焼結条件の最適化が重要である。
  • 加工:塑性加工は高温域で実施し、ワイヤは熱間鍛造・伸線、バルクは粉末冶金と熱間静水圧等の組合せが一般的である。

熱・電気的性質

  • 高融点・低蒸気圧:灯体・ヒーター・熱フィールドで蒸発しにくく、長寿命化に寄与する。
  • 低熱膨張:4.5×10^-6 /K程度で、熱歪みの抑制が必要な光学・真空機器に適する。
  • 良好な熱伝導:熱拡散部材や放熱複合材(W-Cu等)の骨材として活用される。
  • 低抵抗・高仕事関数:電子放出制御や電極材料で有用で、アーク安定性にも寄与する。

化学的性質と耐酸化性

常温の酸・塩基には比較的安定であるが、濃硝酸+フッ化物系やアルカリ溶融ではタングステン酸塩に溶解する。空気中では約400℃を超えると酸化が進みWO3を生じ、高温では揮発性が増すため保護雰囲気やハロゲン循環機構(ハロゲンランプ)が有効である。炭素と反応してW2CやWCを生成し、非常に高い硬度と耐摩耗性を示す。

合金・複合材料

Ni-FeあるいはNi-Cuを結合相とするタングステン重合金(W含有90 wt%前後)は高比重(>17 g/cm³)と靱性を両立し、カウンタウエイトや放射線遮蔽に用いられる。W-Reは高温延性改善や熱電対(例:W-5%Re/W-26%Re)に用いられ、W-Cuは疑似合金として電気・熱のバランスと熱疲労耐性が高い。Ni基超合金への固溶強化元素としての添加も行われる。

主な用途

  • 発熱体・灯体:ハロゲンランプのフィラメント、真空炉ヒーター、電子管カソード支持等。
  • 電極・溶接:TIG溶接電極(トリア・ランタン・セリウム等酸化物ドープ品)、放電加工電極。
  • 工具材料:WC-Co系超硬工具、耐摩耗部材、ノズル・シール。
  • 半導体・電子:CVD-Wビアプラグ、ゲート・ワードライン、X線ターゲット(W-Re)。
  • 高比重部材:慣性質量、振動子、放射線遮蔽(医療・加速器)やバランサ。

製造プロセス

鉱石からの湿式精錬では、タングステンを溶出しパラタングステン酸アンモニウム(APT)を結晶化・焼成してWO3を得る。WO3は水素還元により金属W粉となり、焼結・鍛造・HIP・伸線といった粉末冶金プロセスで最終形状へ導く。線材はKドープにより高温での座屈・クリープに強い「非たるみ線」とし、灯体や電子デバイス用に微細径まで加工される。

資源・供給とリサイクル

主産地はアジアを中心に偏在傾向があり、需給は鉱山操業・規制・再資源化動向に左右されやすい。超硬スクラップからのリサイクル(亜鉛法、化学回収)は成熟しており、一次資源の変動リスクを平準化する有力手段である。コンフリクト鉱物対応(3TG)としてのトレーサビリティ管理や責任ある調達も産業界の重要課題である。

安全衛生

金属タングステン自体の生体毒性は低いとされるが、粉じんは呼吸器曝露を避けるべきである。超硬(WC-Co)粉じんは「ハードメタル肺」など健康影響が報告され、適切な集じん・保護具が必須である。トリア添加電極は微弱放射性を伴うため取扱い・研磨時の管理が求められる。廃材・スクラップは法規に従い分別・回収することが望ましい。

β相タングステン(薄膜)

スパッタ条件や下地層に依存してβ-Wが形成されると高抵抗かつ大きなスピンホール効果を示す。配線抵抗増大は不利となり得るが、スピントロニクス素子では利点となる。熱処理でα相へ相変態しうるため、デバイス工程温度との両立設計が重要である。

タングステンカーバイド(WC)

WCはビッカース硬度がきわめて高く、Co等を結合相とした焼結体(超硬合金)として切削・成形工具に広く用いられる。高温強度・耐摩耗性・寸法安定性に優れ、PVD/CVDコーティングとの複合化で寿命と信頼性が向上する。一方で靱性設計や熱衝撃対策、欠陥管理が性能発現の鍵となる。

半導体プロセスのCVD-W

化学気相成長によるW充填は、SiO2中のビア・コンタクトを低抵抗で安定に埋める目的で用いられる。WF6やSiH4等を用いるプロセスは段差被覆性とギャップフィル性能に優れ、バリア/シードとの整合、ボイド抑制、プラグ抵抗の最小化が設計上の焦点である。微細化に伴う応力・結晶相制御、CuやRuとの住み分けが進んでいる。