タイミングテンショナ
タイミングテンショナは、クランク軸とカム軸の同期を担うタイミング系(ベルトまたはチェーン)の張力を自動的に制御し、位相ずれやスリップ、騒音を抑える装置である。エンジン始動直後や負荷変動時に発生する張力の脈動を吸収し、弾性要素や油圧ダンピングによりチェーンのスラップやベルトのフラッタを抑制する。これによりバルブタイミング精度、耐久、NVH(Noise, Vibration, Harshness)を総合的に維持するのが目的である。
役割と作動原理
タイミングテンショナの基本機能は「所定張力の付与」と「張力変動の減衰」である。ベルト系ではアーム先端のアイドラプーリを押し出して周回張力を一定に保つ。チェーン系ではプランジャがガイドレール背面を押圧し、チェーンスパンの撓みを連続的に補正する。ばねにより初期張力を与え、油圧や摩擦機構で減衰を付加することで、過渡時のチェーン衝撃やベルト横振れを抑える。
種類(ベルト用・チェーン用)
- ばね式:コイルばねやトーションばねで初期張力を与える簡易型。構造が単純で軽量だが、単独では減衰が不足しやすい。
- 油圧式:エンジンオイル圧を利用してプランジャを押し出す。逆流防止弁とラチェット(逆止め)を備え、低速時の戻りを防ぐ。チェーン駆動で広く用いられる。
- 機械式(ラチェット内蔵):ばね推力に加え段階的に送り機構で位置を保持。オイル圧に依存しないが微小追従性は油圧式に劣る。
- 複合式:ばね+油圧ダンパを組み合わせ、広い回転域で安定した張力と減衰を両立。
- 電動式:小型アクチュエータで能動制御する新型。可変位相機構やアイドリングストップとの協調を狙うが、コストと制御設計の複雑さが課題。
設計パラメータと計算の要点
- 初期張力とばね定数:張力目標Tはばね変位Δxに対し T = k·Δx を基礎に設定。温度や経年でのばね特性低下を見込んでマージンを取る。
- 有効ストローク:チェーン伸びやベルトクリープ、製造公差を吸収できる移動量を確保。ストッパ干渉を避ける。
- 減衰特性:油路オリフィス径や摩擦パッドでダンピング係数cを調整し、過渡応答のオーバーシュートを抑制。
- 応答性:始動時低油圧や急加速時の張力落ち込みに対する追従性。チェックバルブの保持圧が鍵となる。
- 耐久・NVH:ガイド面圧、プーリ軸受寿命、シール摩耗、鳴き発生限界(周波数領域)を評価。
構造と材料
タイミングテンショナ本体はアルミ合金ハウジングにスチール製プランジャを収め、表面処理(浸炭・窒化・硬質皮膜)で耐摩耗を確保する。シール材はNBRやFKMを用途温度で選択し、ばねはピアノ線系や耐熱ステンレスを用いる。ベルト用のアイドラプーリは高剛性鋼板またはアルミに転がり軸受を圧入し、グリース封入で長寿命化を図る。チェーン用ガイドはポリアミド系樹脂ライナーで摩擦と騒音を低減する。
故障モードと症状
- 油圧低下・オイル漏れ:始動直後にシャラシャラ音、暖機で収束。プランジャ戻りやチェックバルブ不良で再発。
- ラチェット摩耗:逆止めが効かず、張力が維持できない。チェーンスラップや位相ずれの原因。
- ばねへたり:高温長期使用で初期張力が不足。ベルト偏摩耗や鳴きが顕在化。
- プーリ軸受不良:うなり音や発熱。偏心でベルト蛇行が進む。
- 取付不良:ボルト締付不足・アライメント不良により早期摩耗。エンジン振動と連成して異音を誘発。
点検・交換の要点
- 始動直後とアイドリングの異音確認。暖機後に消えるか、回転上昇で悪化するかを切り分ける。
- チェーン系はカム/クランク位相の診断値を確認し、規定範囲外ならテンショナとガイド・チェーン一式で整備する。
- ベルト系は外観(ひび、端面の毛羽立ち、光沢化)とプーリ軸のガタを点検。規定走行距離・年数で予防交換。
- 脱着時はエア抜き手順やロックピン位置決め、オイル穴向き、締付トルクを整備書規定に従う。
関連部品との関係
タイミングテンショナはチェーンやベルト単体の品質だけでなく、ガイドレール、アイドラプーリ、スプロケット歯形、クランクダンパの減衰特性と一体で機能する。カム位相可変(VVT)搭載機では油圧系統の圧力安定が重要で、オイル粘度や通路清浄度も張力安定に直結する。エンジン設計では張力・減衰・質量の整合を取り、広回転域で過不足のない制御を成立させる。
ベルト駆動とチェーン駆動の違い
ベルト駆動は軽量・低騒音であり、自動調整式テンショナにより保守性が高い。一方、チェーン駆動は耐久性と高温信頼性に優れるが、油圧式テンショナとガイドの設計自由度が性能を左右する。高出力化や長寿命要求が強い場合はチェーン+油圧式が主流である。
設計・評価の実務ポイント
- 台上評価:温度サイクルと回転変動を重ねた耐久、張力波形の周波数解析で鳴き域を抽出。
- 車両評価:急加速/減速、登坂、アイドリングストップ再始動時の張力ドロップと騒音を確認。
- 品質管理:シール漏れ量、ラチェット歯摩耗、ばね荷重劣化のロット管理とトレーサビリティ。
まとめて把握しておきたい要旨
タイミングテンショナは、初期張力・追従性・減衰・耐久という相反要件の最適化問題である。油圧・機械・複合の特性を理解し、ストロークとダンピングのバランスを取り、関連部品とシステムで設計することが、位相精度と静粛性、寿命の三立に直結する。