セル監視ユニット
セル監視ユニットは電動車や定置用蓄電システムのバッテリーパックにおいて、各セルの電圧・温度・バランス状態を高精度に測定し、異常を早期検出するための電子モジュールである。多段直列セルの大きなコモンモード電圧下でミリボルト級の差動電圧を扱うため、精密A/Dと高耐圧アナログフロントエンド、絶縁通信、自己診断機能を統合する。測定結果はBMS(Battery Management System)へ集約され、SoC/SoH推定、保護制御、寿命予測の基礎データとして用いられる。量産車では複数基のセル監視ユニットを直列段ごとに配置し、デイジーチェーンで接続する構成が一般的である。
役割と機能
- セル電圧測定:mV分解能で過充電・過放電の閾値監視を行う。
- 温度監視:セル近傍のサーミスタを読み取り、熱暴走を予防する。
- バランシング制御:セル間の容量ばらつきを抑え、充放電の利用可能容量を最大化する。
- 自己診断:基準電圧、ADC、MUX、センサ断線などの定期セルフテストを実行する。
- イベント記録:過電圧・過温度・通信エラー等をログ化し、解析に供する。
構成と測定原理
セル監視ユニットは高耐圧差動入力を持つAFE、逐次比較型やΔΣ型のADC、低温度係数の基準電圧、アナログMUX、絶縁電源、絶縁通信IFから成る。セルタブにケルビン配線で接続し、サンプル&ホールドによりスイッチングノイズの影響を低減する。温度はNTCの電圧分割をADCで取り込み、直線化テーブルで変換する。直列接続段ごとのセル監視ユニットは、基板上のリファレンス配線長や寄生抵抗差による誤差を抑えるため、レイアウト対称性とガードリングを採用する。
通信方式と同期
上位BMSとの通信はデイジーチェーン型の差動リンク(例:isoSPI相当)や絶縁SPI/UARTブリッジ、車載CAN、一部でLINが用いられる。CRCによるエラーチェック、シーケンス番号、ウォッチドッグで信頼性を担保する。複数セル監視ユニットの同時サンプリングを行うため、同期パルス配信または時刻同期プロトコルを実装し、セル間比較時の位相ずれを抑える。
セルバランシング(受動・能動)
受動方式は各セルに並列の放電抵抗を接続し、過充電近傍で余剰電荷を熱として放出する。回路が簡潔で安価だが、効率は低い。能動方式はインダクタやキャパシタを介して高電位セルから低電位セルへエネルギー移送するため、大容量パックで有効利用率を高められる。スケジューリングはセル温度・電圧・充電電流を考慮し、熱集中を避けるよう分散制御する。
安全・規格適合
セル監視ユニットはISO 26262に基づくASIL設計、AEC-Q100に準拠したデバイス選定、 creepage/clearanceの確保、二重故障基準への配慮が必要である。過充電・過放電・過温度・急速温度上昇・配線断線・短絡の診断を実装し、異常時はコンタクタ開放や充電停止などフェイルセーフを実行する。HVIL(高電圧インターロック)や絶縁監視と連携し、保護層を多重化する。
代表的な診断項目
- 開短検知:センスラインの断線・短絡、サーミスタ断線。
- クロストーク検出:隣接チャネルの測定値相関の過大。
- リファレンス監視:基準電圧のドリフト、ADCゲイン/オフセット逸脱。
- 通信健全性:CRCエラー頻発、タイムアウト、順序不整合。
精度・校正と誤差要因
測定精度はADC分解能、基準電圧のTC、MUXリーク、配線抵抗、スイッチングノイズ、温度勾配に支配される。量産時に多点校正を行い、運用時は自己診断で経時変化を補償する。等価直列抵抗の発熱に伴うセル端子温度差は電圧測定に影響するため、サンプリングタイミングを充放電波形と同期させる。誤差予算を明示し、システムのSoC・SoH推定に与える影響を解析する。
耐環境性とノイズ対策
セル監視ユニットは広温度・振動・湿度環境で動作する必要がある。EMC対策として差動配線のツイストペア化、帰還経路の最短化、アナログとデジタルのグラウンド分離、コモンモードチョークの適用、シールドの適切な一点接地を行う。ESD/サージ保護デバイス、コーティングやポッティングにより耐久性を高め、コネクタはフレッティング腐食に配慮した表面処理を選定する。
劣化推定とデータ活用
電圧・温度・電流の時系列から、OCV曲線と内部抵抗に基づくSoC/SoH推定、カレンダー劣化・サイクル劣化の分離、セルばらつきの統計評価を行う。バランシング量や温度履歴はセル健全性の指標となり、予防保全や保証設計に活用できる。ログはフラッシュに保持し、必要に応じてゲートウェイ経由でクラウドにアップロードして解析する。
冗長化と機能安全アーキテクチャ
セル監視ユニットはアナログループバック、二経路計測、クロスチェック用の独立基準、ウォッチドッグの相互監視を備える。重要閾値はハードウェア比較器で監視し、ソフトウェア故障時にも保護を確実化する。電源は冗長化し、異常時の安全停止状態(セーフステート)へ確実に遷移する設計とする。
設計上の留意点
- センス配線:ケルビン取り出しと配線対称性でオフセットを抑制する。
- 熱設計:バランス抵抗の発熱拡散、サーミスタ配置の最適化。
- FMEA/FTA:単一点故障が重大ハザードに至らない構成。
- 試験計画:HILによる故障注入、温度チャンバーでの総合評価。
- 製造ばらつき:校正・トレーサビリティと出荷時エンドオブライン試験。
関連コンポーネント
セル監視ユニットはBMU(Battery Monitoring Unit)、パックコントローラ、コンタクタ、プリチャージ回路、絶縁監視装置、冷却系、充電器(OBC)と連携して総合的な安全・性能を実現する。システム全体としての整合を前提に、計測・制御・保護の責務分担を明確化することが重要である。