セシウム(Cs)|原子時計を支えるアルカリ金属

セシウム(Cs)

セシウム(Cs)は周期表第1族に属するアルカリ金属で、原子番号55、常温近傍で液体に近い低融点をもつ極めて反応性の高い金属である。柔らかく金色味を帯びた銀白色で、空気中や水と激しく反応するため厳格な不活性雰囲気下での取扱いが必要となる。主たる鉱物資源はペグマタイト中のポルサイトで、精製により金属や各種塩が得られる。低い電離エネルギーと仕事関数を活かし、原子時計、光電デバイス、掘削用ブライン、シンチレータ、特殊ガラスなどに利用される一方、放射性核種Cs-137は環境・健康影響の観点で重要である。

基礎データ

セシウムの代表的性質を要点整理する。アルカリ金属中でも最も電気陽性かつ原子半径が大きい部類であり、常温で体心立方格子をとる。融点は約28.5℃、沸点は約671℃、密度は約1.93 g/cm3である。電気陰性度は0.79(Pauling)、標準電極電位E°(Cs+/Cs)はおよそ-2.92 Vと強い還元性を示す。電子配置は[Xe]6s1で、外殻1電子に由来する特性が化学挙動を支配する。

  • 原子番号: 55
  • 原子量: 約132.9
  • 結晶構造: 体心立方
  • 融点/沸点: 約28.5℃/約671℃
  • 密度: 約1.93 g/cm3(20℃)
  • 電子配置: [Xe]6s1

原子構造と物性

外殻に1つの6s電子を持つため結合が弱く、低融点・低硬度・延性の高さが現れる。金属光沢はわずかに金色味を帯びることが多い。仕事関数が低く、熱電子放出や光電子放出が起こりやすい。低温では体心立方格子であるが、圧力や温度の変化により相転移を示すことが知られている。熱伝導・電気伝導はいずれも金属として良好で、イオン化が容易なため化学的には強塩基・強還元性の化合物を作る。

化学的性質

セシウムは空気中で速やかに酸化され、表面に酸化物や過酸化物を生じる。水とは激しく反応して水酸化セシウムCsOHと水素を発生し、発熱により着火に至ることがある。ハロゲンとはCsClなどのイオン性塩を与え、アンモニア液中では溶 solvated electron により深青色溶液を作る。フッ化物CsFは強塩基・強フッ素化剤として有機合成に応用される。

  1. 酸素との反応: 2Cs + 1/2O2 → Cs2O、さらに過酸化物Cs2O2を生成
  2. 水との反応: 2Cs + 2H2O → 2CsOH + H2↑(発熱・危険)
  3. ハロゲンとの反応: Cs + Cl2 → 2CsCl(典型的イオン結晶)

資源・製造

資源は主としてポルサイト(CsAlSi2O6·H2O)に含有し、リチウムやルビジウムを伴うペグマタイト脈から採掘される。工業的には鉱石を酸処理してアルミノケイ酸塩骨格を分解し、Cs塩として溶出・分離する。炭酸塩や蟻酸塩などの形で高純度化したのち、金属は塩化物や水酸化物の熱還元(Ca等)または蒸留精製により得る。高反応性であるため全工程で水分・酸素の排除と耐食設備が必須である。

用途

セシウムは物理定数の基準から実用材料まで広範に使われる。特にCs-133の超微細遷移周波数9,192,631,770 Hzに基づき「秒」が定義され、原子時計で基準振動子として中核を担う。高密度の蟻酸セシウムブラインは油井掘削で加重流体として用いられ、装置の腐食・スケール抑制にも配慮した処方が組まれる。CsI:Tlシンチレータは高い発光効率と停止能を持ち、放射線検出や医用画像で重要である。光電陰極や真空管のゲッター、触媒助剤、低融点ガラス・光学ガラスの改質にも利用される。

  • 計測標準: 原子時計(Cs-133基準)
  • 資源開発: 蟻酸セシウムブライン
  • 検出器: CsI(Tl)シンチレータ
  • 電子デバイス: 光電陰極・ゲッター
  • 材料: 特殊ガラス・触媒助剤

安全性・取扱い

金属セシウムは水や湿気と接触すると発火・爆発的反応を起こすため、アルゴン雰囲気や真空封入、乾燥鉱油下などで保管する。皮膚・眼・呼吸器を強く刺激し、CsOHは強塩基で腐食性が高い。消火は乾燥砂・金属火災用消火剤を用い、水系消火剤は厳禁である。廃棄は不活性溶媒中で段階的に無害化し、規制に従って処理する。環境面では放射性核種Cs-137が粘土鉱物に固定されやすく、生物はK+と誤認して取り込むため挙動把握が必要である。

同位体と放射性

天然安定同位体はCs-133のみである。核分裂生成物として生じるCs-137(半減期約30年)は高エネルギーγ線を放出し、線源・校正・産業照射に用いられる一方、環境污染源として重要である。Cs-134(半減期約2年)は中性子捕獲で生成する。医療ではCs-131(半減期約9.7日)が小線源治療に応用されることがある。放射性同位体の管理は遮蔽・汚染防止・追跡性の確保が要である。

分析・測定

元素分析にはAASやICP-MSが用いられ、環境試料中のトレース量定量に適する。放射性核種はγ線スペクトロメトリで核種同定・定量を行う。炎色反応は青紫色系を呈し、光学測定ではCsIやCsBr等の結晶が検出器や赤外光学素子として機能する。原子時計分野ではマイクロ波分光によりCs-133の超微細遷移を極高精度で観測し、周波数標準の長期安定度を担保する。

材料・腐食上の留意点

設備材は水分遮断と耐アルカリ・耐還元性を満たす必要がある。高温のCs蒸気は多くの金属・ガラスに対し反応性を示すため、真空装置ではモリブデン等の高融点金属や特定セラミックスが選ばれる。配管・容器は気密性と脱水管理が最優先で、運転前にベーキング・パージで不活性化する。反応系ではCs塩の強塩基性による腐食や有機物の分解を考慮した材料選定・シール設計が求められる。

以上のようにセシウムは極端な反応性と優れた物理特性を併せ持ち、基礎科学から産業応用まで幅広い分野で不可欠な役割を果たす。その反面、化学的危険性と放射性同位体の環境影響に対する慎重な管理が不可欠である。