ステッピングモータ
〈パルス=角度〉で動く位置制御用の電動機をステッピングモータという。入力パルスの数と周波数で回転角と速度を決めるため、減速機やエンコーダなしでも高い再現性で停止・保持できる。CNC、3Dプリンタ、計測機やバルブ駆動などで広く用いられ、開ループ制御でも実用精度を得やすいのが特長である。ステッピングモータは固定子(ステータ)コイルの励磁順を切り替え、歯をもつ回転子(ロータ)を磁気的に引き込むことで、所定のステップ角ずつ位置を進める。保持トルクが大きく、通電保持で外乱に抗する一方、共振や発熱への配慮が設計上の要点となる。
原理と構造
ステッピングモータは多相コイルをもつステータと、歯を刻んだロータ(可変リラクタンス型)または永久磁石を内蔵したロータ(PM型)、両者を組み合わせたハイブリッド型(HB型)で構成される。位相を順次励磁すると磁束分布が回転し、ロータ歯が安定位置へ引き込まれる。ステップ角θは概ねステータ相数mとロータ歯数Nrでθ=360/(m×Nr)と表され、代表値は1.8°(200step/rev)や0.9°である。非励磁時はディテントトルクのみで、保持力は限定的である。
駆動方式(フルステップ、ハーフステップ、マイクロステップ)
- フルステップ:各相を矩形通電で交互に励磁し最大トルク。振動が大きく共振しやすい。
- ハーフステップ:単相と両相を交互に用いてステップ角1/2。滑らかさとトルクを両立。
- マイクロステップ:電流を正弦・余弦で補間。低振動・低騒音だが静止トルクは小さめ。
方式の種類(VR/PM/HB)
- VR(可変リラクタンス)型:永久磁石なし。安価・高速だがトルクと精度は限定。
- PM(永久磁石)型:低速トルクと保持力に優れるがステップ角は大きめ。
- HB(ハイブリッド)型:1.8°を代表に高精度・高トルクで産業用途の主流。
電気的定格とドライバ
保持トルク、定格電流、相抵抗・インダクタンス、絶縁階級、許容温度上昇を確認する。駆動はチョッパ式の定電流ドライバが主流で、インダクタンスに打ち勝つため高めの電源電圧を併用する。極性切替で励磁するバイポーラ駆動が一般的で、4線が標準、6線/8線はユニポーラ/直列・並列構成を選べる。減衰モード(fast/slow/mixed)の選択は騒音・脱調耐性に影響する。
特性:トルク–速度と共振・脱調
ステッピングモータのトルクは回転数上昇とともに低下し、引き込み領域と引き外し領域がある。機械剛性とステップ励磁の固有振動により数十〜数百Hzで共振が生じる。対策はマイクロステップ化、加減速ランプ、粘性ダンパ、機械減速、供給電圧の最適化が有効である。速度・荷重余裕が小さいと脱調するため、必要トルクに対し1.5〜2倍の余裕が実務的である。
選定と設計の要点
- 分解能:ステップ角と伝達機構(リード・ベルト・減速機)から逆算する。
- トルク:静的保持と加速トルク(J×α)を合算し、外乱を加味して余裕をとる。
- 慣性比:ロータと負荷の慣性比を整え、応答と脱調耐性を確保。
- 熱設計:I^2Rと鉄損の温上を見積もり、ケースやヒートシンクで放熱。
- 騒音・振動:マイクロステップ、機械減衰、共振回避で低減。
- 制御:不足時はエンコーダ付のクローズドループドライバを用いる。
配線・実装と保守
配線は短く、ツイストペアとシールドでEMIを抑える。グラウンドは一点接地とし、ドライバ近傍に帰還させる。取付けは平面度を確保し、ボルトで確実に固定する。カップリングは偏心を許容するフレキシブル型を選び、軸方向荷重はベアリング定格内に収める。保守は端子の緩み、ケーブル疲労、発熱変化を定期点検する。
安全・規格への配慮
回転部の挟まれ事故、発熱部の火傷、誤配線による短絡や過電流に注意する。筐体は接地し、非常停止と過電流保護を備える。EMCやノイズ規格、RoHS等の規制に適合させ、産業機器では配線色や端子表示など社内規格に従う。
制御信号とインタフェース
代表的にはPUL/DIR(パルス/ディレクション)とENA(イネーブル)信号を用いる。パルス周波数が速度、パルス数が移動量を規定する。ドライバはオープンコレクタまたはラインドライバ入力を備え、ステッピングモータの長距離配線では差動伝送や光絶縁でノイズ耐性を確保する。PLCやマイコンからの出力はパルス幅・立上がり時間などのタイミング要件を満たすよう設定する。