シール(工学)|流体漏れを防ぐ接触・非接触機構

シール

工学におけるシールは、流体の漏えいを抑制し、圧力・潤滑・清浄度を保持するための封止要素である。静止部同士を閉じるガスケット類と、相対運動部を封じる動的シールに大別され、用途は油圧・空圧・水処理・化学装置・回転機械など多岐に及ぶ。対象流体、温度・圧力、運動様式、許容漏れ量、耐久要求によって構造と材質が選択される。英語圏では“seal”と“gasket”が区別されるが、日本語のシールは広義に両者を含む場合がある。

機能と目的

シールの第一の機能は漏れ経路の遮断であり、第二に外部異物の侵入防止、第三に潤滑剤の保持である。静的封止では面圧により微細な表面粗さ谷を埋め、動的封止では接触圧と流体膜の制御で許容漏れ内に収める。装置の効率、安全、環境負荷、製品品質に直結するため、シール設計は信頼性工学の要素を強く持つ。

分類

  • 静的:平面ガスケット、Oリング、メタルガスケット
  • 動的(往復):パッキン、Oリング、Uパッキン
  • 動的(回転):オイルシール、メカニカルシール、ラビリンス
  • 非接触:ラビリンス、渦巻き、迷路+パージ
  • 接触:リップ、フェイス、グランド
  • 媒体別:油、水、ガス、真空、スラリー、食品

主要構造要素

Oリングは弾性体断面の弾性回復で面圧を生む単純なシールである。リップシールはシャフトに接触する薄肉リップとコイルばねで初期締付を与える。メカニカルシールは回転・固定の平滑面を軸方向ばねで押し付け、流体薄膜でフェイスを潤滑しながら漏れを極小化する。メタルガスケットはクリープや塑性で面粗さを埋める。

材料の選定

エラストマーはNBR、FKM、EPDM、HNBR、VMQ、FFKMなどが汎用であり、耐油、耐熱、耐薬品性で使い分ける。低摩擦と耐薬品に優れるPTFE系は充填材で機械特性を調整する。ガスケットにはSUS、銅、膨張黒鉛、繊維強化材が用いられる。食品・医薬では抽出物や可塑剤規制に適合した材を選ぶ。材料はシール寿命と安全を支配するため、化学適合表と実機条件の両面から評価する。

設計パラメータ

静的Oリングは溝寸法と押し込み率(一般に10〜30%)で初期面圧を確保する。動的用途では摩擦・摩耗を抑えるため予圧を抑制し、潤滑膜を維持する。回転接触型はPV値(圧力P×周速V)の許容内で運用し、発熱を散逸させる。面圧、表面粗さ、形状公差、芯振れ、偏心、熱膨張差はシールの安定性に直結する。

表面性状と取付

接触面の粗さは一般にRa0.2〜0.8 μm程度が目安で、過粗は漏れ、過平滑は油膜維持不良を招く。シャフト硬度はHRC55以上が望ましい。エッジは面取りし、バリや傷を排除する。組付時は異物混入を避け、潤滑剤を適切に塗布する。PTFE系シールはドライでも組付可能だが、初期馴染みを考慮する。

メカニカルシール

メカニカルシールはフェイス材にSiC、WC、カーボン等を組み合わせ、相手材・流体に適合させる。バランス設計により面圧と摩擦熱を最適化し、フラッシング・クエンチ・バリア液で冷却・清浄化する。シングル、ダブル、タンデムなどの構成を選び、API計装で漏れ管理を行う。

典型的な故障と対策

押し出しは背当てリングで防ぐ。ねじれは面取りと潤滑で抑制する。摩耗・スコーリングは表面硬度と潤滑改善で低減する。熱劣化・硬化は材質の温度余裕を確保する。化学膨潤は材質置換で対処する。ドライランは接触型シールの重大故障要因であり、起動手順と監視が重要である。

試験と規格

OリングはJIS B 2401やISO 3601の寸法系列が広く用いられる。漏れ試験は圧力保持、ヘリウムリーク、質量流量(例:sccm)等で評価する。ガスケットは締付ボルトの軸力管理が支配的で、トルク係数や座面状態を規定する。回転シールは耐久・摩耗・発熱の試験で寿命推定を行う。

用語の多義性

一般語としてのシールは粘着ラベルや封緘を指す。工業分野では封止要素を指す用法が主であり、物流・表示文脈の“seal”は封印・ラベルの意味である。技術文書では文脈に応じてgasket、mechanical seal、sealant等の区別を明示すると誤解を避けられる。

選定フロー

  1. 流体と清浄度→温度・圧力→運動様式→許容漏れ→材質候補→規格・寸法→ハウジング設計→試作・試験→量産管理の順にシールを選定する。

環境・安全・保全

VOC対策や臭気管理、食品・医薬の衛生要件(例:FDA相当)への適合は不可欠である。漏れは環境放出だけでなく発火・爆発の誘因となるため、二重シールやパージでリスク低減を図る。保全では状態監視、交換周期の根拠化、再現性ある締結管理が信頼性を高める。