シートベルトリトラクタ
シートベルトリトラクタは、乗員拘束用ウェビングを自動的に巻き取って適正なたるみを保ち、減速や衝突時には瞬時にロックしてベルトを固定する装置である。内部にスプール(巻取り軸)とスパイラルスプリング、車両感知型またはウェビング感知型のロック機構、さらに近年は火工式プリテンショナーやロードリミッターを内蔵し、日常の快適性と緊急時の拘束力を両立するよう設計されている。
構造と主要部品
シートベルトリトラクタは、鋼製ハウジング内に配置されたスプールにウェビングを巻き付け、スパイラルスプリングの復元力で常時軽く引き戻す。ロック機構はスプール側の遠心クラッチやラチェット&ポール、またはハウジング側のGセンサ(ペンデュラム式・ボールインカップ式)が担い、角度や加速度が閾値を超えると噛み合って巻出しを停止する。プリテンショナーはガスジェネレータとギヤ・ケーブル・ラック機構でスプールを瞬時に回し、余分なたるみを除去する。
- スプール/ウェビング:巻取り・繰り出しの中心要素
- スパイラルスプリング:一定の引張予荷重を付与
- ロック機構:車両感知型(Gセンサ)とウェビング感知型(回転加速度検知)
- プリテンショナー:火工式ガス圧で瞬時に巻取り
- ロードリミッター:衝突時に荷重を制限して胸部負荷を低減
ロック作動の原理
車両感知型は車体の急減速や一定以上の傾きでGセンサが作動し、クラッチを介してラチェットに係合する。ウェビング感知型はスプールの角速度・角加速度が閾値を超えると遠心式ウェイトが張り出し、爪が噛み合って回転を止める。多くの量産車は両方式を併用するELR(Emergency Locking Retractor)で、通常は自由に体を動かせ、緊急時のみ確実に固定する。
プリテンショナーの役割
衝突初期は乗員とシートの間にわずかなクリアランスが生じる。プリテンショナーはエアバッグECUの信号でミリ秒単位に作動し、スプールを強制回転させてベルトのたるみを素早く除去する。これにより乗員の前方移動量を抑え、エアバッグとの同期や拘束タイミングを最適化できる。駆動は火工式が主流だが、モータ式のマイクロリトラクタを併用して予防的に張力を制御する方式もある。
ロードリミッターの統合
高い拘束力は胸部に過大な荷重を与えうるため、ロードリミッターで荷重を段階的に逃がす。トルションバーの弾性ねじりや機械式段付ギヤにより、所定荷重を超えるとスプールの回転を許容してエネルギーを吸収する。プリテンショナーとの協調で、初期は強く拘束しつつピーク荷重を抑える曲線を狙うのが設計の要点である。
種類(ELR/ALR/S-ELR)
ELRは緊急時のみロックする一般的な形式、ALR(Automatic Locking Retractor)は一定量引き出すと自動固定し、ベビーシート固定に適する。S−ELRは切替機構でELRとALRを兼用する。後席やチャイルドシート適合性、地域法規に応じて車両ごとに採用が分かれる。
設計要件と評価
巻取り力は装着快適性と取り外し易さを左右するため、バネ定数と摩擦制御で最適化する。ロック閾値は車体姿勢、路面入力、加速度ノイズに対し誤動作を抑えつつ、衝突初期には確実に介入する必要がある。評価では耐久巻取りサイクル、−40〜+85℃の温度・氷結、粉塵・腐食、塩水噴霧、NVH、ウェビング摩耗、ロバストネス(公差・経年劣化)を網羅する。
法規・規格
国際的にはECER16、米国ではFMVSS209(ベルト)、FMVSS210(取付)などが適用され、日本では道路運送車両の保安基準に準拠する。取付強度、ロック作動、引張荷重、耐久性、表示・警告、チャイルドシート適合性などが検証対象で、車両側の座席構造やアンカレッジ強度との整合も重要である。
電装コネクタと診断
プリテンショナー付リトラクタはエアバッグ系統の黄色コネクタで接続され、ショートバーブリッジで静電破壊や誤点火を防ぐ。ECUはスクイブ抵抗を常時監視し、断線・短絡はDTCとして記録される。整備時はバッテリ端子を外し、静電気に注意しながら規定トルクで装着することが求められる。
取付方向と車体適合
シートベルトリトラクタは重力方向や傾斜角に依存するGセンサを内蔵するため、指定姿勢での取付が前提である。ブラケット形状や車体ピラーの剛性、座席スライド量、Bピラートリムとの干渉、巻取り径とフード内クリアランス、ウェビング出口角度(Dリング位置)を含めた幾何拘束の最適化が欠かせない。
故障モードと対策
代表的な不具合は①巻取り不良(バネ疲労・汚れ・摩擦上昇)、②誤ロック(センサ感度過多・角度逸脱)、③未ロック(閾値設定・摩耗)、④作動後の再使用(プリテンショナー展開後の交換未実施)である。対策としては防塵・防錆設計、潤滑点の最小化と安定化、組立公差の統計管理、ECU診断の冗長化が有効である。
ユーザビリティと人間工学
快適な装着感には、低い巻取り張力とスムーズな繰出し、戻り終端のソフトストップ、衣服の挟み込み防止、耳元での作動音低減が効く。さらに、座席調整範囲や体格差に対してDリング高さを調整できると、ベルトの首当たりや鎖骨位置が適正化され、拘束性能のばらつきが減少する。
関連機能とのシステム連携
シートベルトリトラクタはエアバッグ、乗員分類センサ、ブレーキプリチャージ、ポストクラッシュ機能(自動通報・ドアアンロック)と連携し、予防安全から衝突・二次被害抑制まで一貫した安全戦略を構成する。将来的には走行環境予測と連動したプリテンショナーの予防作動や、個人差に応じたアクティブテンション制御の高度化が想定される。