シルク印刷
シルク印刷は、ステンシル状の版(スクリーン)を通してインキを基材へ転移させる厚膜型の印刷法である。スクリーンの開口部のみからインキが押し出されるため、紙・プラスチック・金属・ガラス・布・セラミックス・PCBなど多様な材料に適用でき、曲面や凹凸面にも対応する柔軟性をもつ。版構造とインキ粘度の設計次第で、ポスター等のビジュアル用途から、はんだマスクや電極形成、導電ペーストの配線形成といった工業用途まで幅広く実装される。
原理と特徴
シルク印刷の版は、メッシュ(織網)に感光性樹脂を塗布・露光して非画線部を被覆したもので、スキージでインキを加圧しつつ版と基材の間にわずかなオフコンタクト(隙間)を確保することで、版離れ時に転移境界がシャープになる。転移厚みが比較的厚く、隠ぺい性・盛り上がり・機能性膜(絶縁・導電・蛍光・耐薬品など)の形成に適する。ドライダウンが小さいため色再現の安定にも寄与する。
版と材料の構成
メッシュはポリエステルやステンレスが一般的で、線数(mesh/inch)と糸径が解像度・膜厚・インキ流動性を支配する。感光乳剤(エマルジョン)は耐溶剤性・膜強度・解像性のバランスで選定する。インキは溶剤型、UV硬化型、水性などがあり、目的に応じて顔料濃度、樹脂バインダ、添加剤(レベリング・消泡・増粘)を調整する。基材は前処理(脱脂、プラズマ、コロナ、フレーム処理)により表面エネルギーを上げ、密着性を確保する。
版の作製工程
- メッシュ張り(テンション管理、平面度の確保)
- 脱脂・乾燥(表面汚染の除去)
- 乳剤塗布(片面/両面、目止め厚の調整)
- 乾燥(粉塵管理と温湿度管理)
- 露光(解像力に見合う光源と露光量)
- 現像・乾燥・補修(ピンホール除去、エッジ補強)
印刷機の種類
卓上手刷り機は段取り自由度が高く小ロットに適する。セミオートは版・スキージ・テーブルの位置決め精度を高め、量産の再現性を高める。全自動機は供給から乾燥まで一貫搬送し、レジスト印刷や電子部品の生産で用いられる。平面式のほかシリンダ式やタンポ併用なども存在する。
インキのレオロジーと乾燥
高粘度のチキソトロピック特性が好ましく、スキージせん断で一時的に粘度が低下してメッシュ内を充填し、せん断停止で粘度回復してにじみを抑える。溶剤型は揮発乾燥、UV型は照射硬化で高速化でき、熱乾燥炉やIRでの補助乾燥も併用する。溶剤置換や希釈率は膜厚・エッジシャープ性・密着に影響するため、基材温度とラインタクトに合わせて管理する。
解像度と設計指針
- メッシュ選定:線幅の4–5倍以下の開口は埋まりやすく、目標線幅から逆算して線数と糸径を決める。
- 乳剤厚:厚いほど盛り上がりは得られるが、エッジが鈍る。機能膜はウェット膜厚の再現性を優先する。
- スキージ:硬度(ショアA)、角度(一般に60–75°)、先端磨耗の管理がキーファクタ。
- オフコンタクト:0.5–2.0 mm程度を目安に、版離れの瞬間を安定化。
- 版固定・見当:レジストや多層配線では、位置合わせピン・カメラ見当で±50 µm級を狙う。
メッシュ番号の目安
粗い80–120 meshは厚盛りや下地白引き、180–300 meshは汎用グラフィック、350 mesh超は微細パターンや機能膜に用いる。金属メッシュは寸法安定に優れる。
代表的な用途
- グラフィック:看板、パッケージ、テキスタイルへの高隠ぺい印刷。
- エレクトロニクス:導電ペースト配線、ダイレクト絶縁、厚膜抵抗、センサ電極。
- プリント基板:ソルダレジスト、レジストインキの形成、マーキング。
- 機能性コーティング:防曇、撥水、抗菌、蓄光、蛍光、耐薬品膜など。
品質管理と欠陥対策
ピンホールは粉塵・脱脂不足・乳剤欠陥が原因で、クリーン度と版補修で低減する。にじみ・ブリッジ切れは粘度過低やオフコンタクト不足が要因で、希釈率・版間隙・スキージ速度を調整する。膜厚ばらつきはスキージ磨耗やテンション不均一、乾燥条件の振れによるため、定期交換と点検記録が有効である。密着不良は前処理とインキ選定を再検討する。
スキージ材質の留意点
ウレタンは汎用でエッジ保持に優れる。溶剤負荷が高い場合は耐溶剤グレードを用い、金属スキージは微細パターンで寸法安定が期待できる。
安全・環境対応
溶剤型はVOC排出に留意し、局所排気・防爆対策・保護具を整える。UV型は低VOCで省エネ・高速硬化の利点があるが、光源の安全管理と未硬化成分の皮膚感作に注意する。洗浄液や廃液は法規に基づき分別・回収し、リユース可能な洗浄プロセスを設計する。
粘度と温湿度管理
粘度は温度上昇で低下するため、ライン停止時の皮張り防止や希釈の再現性確保が重要である。湿度管理は乾燥むらや帯電・埃付着を抑制する。
工程統合と自動化
前処理→印刷→乾燥/硬化→外観検査→機能検査の各工程をインライン化し、ビジョン検査や厚み測定(非接触光学、渦電流、触針)を組み合わせると歩留りが向上する。段取りでは版・スキージ・テーブルの再現可能な定義と、ロット間の材料トレーサビリティが重要である。
産業応用の拡張
シルク印刷は、厚膜かつ位置精度を両立できるため、フレキシブルエレクトロニクス、バイオセンサ、太陽電池の電極、触媒層、セラミックグリーンシート配線などへ応用が進む。ナノインクや機能性フィラーの分散制御、低温硬化樹脂の開発と合わせ、低熱耐性基材への適用範囲が拡大している。
UV硬化の利点
UVは瞬時硬化でタクト短縮、熱影響の抑制、エネルギー削減に寄与する。遮光・酸素阻害対策として窒素パージや後露光を併用すると硬化不良を防げる。
実務の勘所
- 版寿命:洗浄回数とテンション低下を記録し、解像力が劣化する前に更新する。
- 見当精度:段取り治具と環境温度の安定化で熱膨張の影響を抑える。
- 保全:スキージ先端の顕微鏡観察と定期研磨でエッジを維持する。
- 標準化:配合・希釈・乾燥条件をSOP化し、ロット間のばらつきを減ずる。
厚膜印刷と電極形成
導電インキ(Ag、Cu、Cなど)のパターンは、焼成・低温焼付・UV硬化など基材に合わせて選択する。接触抵抗は膜厚・焼結度・基材粗さの影響が大きく、後工程での圧着条件も電気特性を左右する。