サーミスタ温度センサ
サーミスタ温度センサは、半導体酸化物の抵抗値が温度によって大きく変化する性質を利用した温度検出素子である。一般に低コスト・小型で応答が速く、-40~125℃程度の範囲での監視や制御に広く用いられる。主流は温度上昇で抵抗が減少するNTC型で、電源機器やバッテリ、家電、HVACなどに実装される。特性は強い非線形性を持つため、回路側での分圧設計と直線化(ソフト/ハード)が実用精度を左右する。測定誤差は自己発熱、素子ばらつき、熱結合条件の影響を強く受けるため、駆動電流と実装熱設計が肝要である。
原理と材料
NTCサーミスタはMn、Ni、Co、Cuなどの酸化物を焼結したセラミックで構成され、熱励起キャリアの増加により温度上昇で抵抗が急減する。PTCサーミスタはバリスタ様やBaTiO3系などで相転移付近に急峻な抵抗上昇を示し、過電流保護やヒータ用途に使われることが多い。温度Tにおける抵抗Rは近似的にR=R0·exp{B(1/T−1/T0)}で表され、R0は基準温度T0(多くは25℃)の抵抗、Bは材料定数である。NTCはセンサ、PTCは保護・スイッチングに適し、温度センサとしてはNTCが一般的である。
主要パラメータ
- R25:25℃での公称抵抗。代表値は1kΩ、10kΩ、100kΩなど。
- B定数:材料の温度感度(K)。大きいほど感度が高いが非線形も強い。
- 許容差:R25のばらつき(±1~±5%など)とBの誤差。
- 使用温度範囲:一般用途で-40~125℃、ガラス封止で高温側が拡張。
- 熱時定数τ:熱応答の速さ。ビード型は数百ms~数sと小さい。
- 熱散逸定数δ:自己発熱の指標(mW/℃)。大きいほど自己温度上昇が小さい。
- 最大定格:許容電力、電圧、はんだ・リード応力などの信頼性条件。
回路構成と測定法
最も簡便なのはサーミスタと精密抵抗の分圧をADCで読む方式である。目標温度帯でのダイナミックレンジと直線性を最適化するため、分圧の固定抵抗値はサーミスタの動作点近傍の実効抵抗に合わせるとよい。ノイズ対策としてローパスRCを併設し、ADCの基準電圧安定度を確保する。精度要求が高い場合は定電流駆動やホイートストンブリッジを用い、微小変化を高感度で検出する。長配線では2線式で十分な場合が多いが、リード抵抗が無視できない高抵抗品では配線影響の評価が必要である。
直線化と演算
温度換算は対数近似式やSteinhart–Hart式(1/T=A+B·lnR+C·(lnR)^3)が広く用いられる。ファームウェアでは以下の手順が実務的である。1) 工場データシートのR–T表をLUT化、2) 補間(線形またはスプライン)で温度化、3) オフセット/ゲイン校正を係数化、4) 平滑化(移動平均/αフィルタ)でノイズ低減。ハードウェア直線化では並列抵抗を追加し狙い温度帯でのdR/dTを緩和する方法があるが、レンジ端では誤差が増えるため用途限定となる。
誤差要因と対策
- 自己発熱:測定電流によるJoule発熱で指示が高めに出る。駆動電流を最小化し、δの大きいパッケージや十分な熱拡散を確保する。
- 素子ばらつき:R25、Bのロット差。個体校正または等級選別で抑える。
- 熱結合:対象物との熱抵抗・熱容量により遅れと誤差が生じる。グリースや樹脂で密着、シースやプローブで機械的固定を高める。
- 環境要因:風速、放射、湿度。遮蔽や断熱、放射率の統一で影響を低減。
- 経年変化:高温・湿熱で抵抗がドリフト。ガラス封止や保護コーティングを選ぶ。
パッケージと実装
ビード型は最小の熱容量で応答が速く、空気温度のトラッキングに有利である。エポキシ樹脂モールドは汎用で低コスト、ガラス封止は高温・高湿での安定性に優れる。SMD(例:0603、0805)は量産実装に適し、プリント基板のサーマルビアや銅箔面積で熱時定数が変わる。プローブ型やシース入りは耐環境性と取り付け性が高く、筐体壁面や配管に固定して熱結合を確保できる。
はんだ付け・取り付けの注意
はんだ熱は一時的な抵抗変化を招くため、規定プロファイルと余熱管理を守る。リード引張りや曲げ応力は素子破損や抵抗シフトを誘発するため、ストレインリリーフを設ける。接着・充填材は熱伝導率と絶縁性を両立させ、揮発成分や硬化収縮による劣化を避ける。
選定指針
まず測定範囲と目標精度を定め、R25とB定数を選ぶ。レンジ中央での感度と分圧比、ADC分解能(有効ビット)を見積もり、必要な直線化方法を決める。応答速度が重要ならビードや小型SMD、耐環境性が重要ならガラス封止やシースを優先する。電流は自己発熱が無視できる値に抑え、温度勾配が大きい箇所では熱的ショートを避けるため取り付け金具やグリースの使い方を最適化する。信頼性はAEC-Q200や各社試験(温度サイクル、湿熱、はんだ耐熱)で評価された品を選ぶとよい。
応用例
- バッテリ:充放電時の温度監視、過熱保護、セルバランス最適化。
- 電源/インバータ:ヒートシンク・MOSFET・ダイオードの温度検出と制御。
- 家電/HVAC:室温・風温・配管温度の検出、デフロスト制御。
- モータ:巻線・ベアリング部の温度モニタリング。
- 3Dプリンタ/産機:ヒータブロック・ノズル・ベッドの閉ループ制御。
- 医療・民生:非侵襲領域の表面温度測定(適切な絶縁・安全規格順守)。
校正と品質保証
量産では2点または3点校正が現実的で、治具の等温性・撹拌・放射条件を管理する。基準温度計(クラスA/BのRTDなど)でトレーサビリティを確保し、LUT係数を個体もしくはロット単位で更新する。工程内ではR25とBのサンプル検査、完成品では温度レンジ内の機能検証と異常検出(断線・短絡)アルゴリズムを含めて検証する。