コリオリ流量計|振動位相差で質量流量を直接測定

コリオリ流量計

コリオリ流量計は、振動する計測管に生じるコリオリ力を検出して質量流量を直接計測する装置である。U字・Ω字・ストレートなどの計測管を励振し、入口側と出口側に現れる微小な位相差を電気信号として取り出す。体積流量ではなく質量流量を一次的に得られ、同時に密度推定や温度測定も可能である。直管長がほぼ不要で配管の制約に強く、多成分・高粘度・スラリーなどの難条件に適用できる点が特徴である。

測定原理(コリオリ力と位相差)

計測管を固有周波数付近で左右対称に振動させると、内部を流れる流体の質量流により管の入口側と出口側で慣性が不均衡となる。このとき生じる見かけの力(コリオリ力)により、管の両端で振動位相にわずかなねじれが発生する。位相差Δtまたは歪み量が質量流量に比例するため、検出信号から質量流量を算出する。振動周波数そのものは系の等価質量に依存するため密度推定にも用いられる。

構成要素と信号処理

  • 励振部:電磁式などで計測管を定振幅・定周波で駆動する。
  • ピックオフセンサ:入口側・出口側の変位を独立に検出し、差分位相を得る。
  • 演算部:位相差から質量流量を、共振周波数から密度を、内蔵RTDから温度を推定する。ゼロ点自動調整、温度・剛性変化の補償、フィルタリングを行う。

特性とメリット・留意点

コリオリ流量計は質量直接計測で流体物性変動の影響が小さく、多相系でも相対的に安定である。直管長要件が緩く、据付自由度が高い。一方、計測管の圧力損失や装置重量が増しがちで、極低流量域ではノイズに留意する。気泡混入は位相検出の散りを増大させるため、エア抜きや配管姿勢の工夫が必要である。

選定手順(レンジと適用流体)

  1. 必要計測範囲:最小~最大質量流量に対し、計測管サイズのレンジ適合を確認する。
  2. 流体条件:密度・粘度・固形分・温度・圧力を整理し、材質(SUS、Hastelloy等)とライニングの要否を決める。
  3. 接続仕様:フランジ、ねじ、サニタリなどプロセス接続を統一する。
  4. 出力・通信:4–20mA、Pulse、HART、流量計の管理に適したフィールドバスを選ぶ。

据付・配管の要点

  • 振動影響:配管支持を堅牢にし、外来振動源から距離をとる。必要に応じ遮振金具を用いる。
  • 姿勢:気体は上流に気液分離器、液体は上り勾配を避けエアポケットを作らない。
  • 保温・断熱:粘性流体や低温媒体では結露・固化を防ぐ。
  • バルブ配置:計測管の下流側に調整弁を置き、上流の乱流と脈動を抑える。

校正・トレーサビリティ

ゼロ点検証は停止状態で定期実施する。現場では体積式標準との比較流量校正、もしくはマスタ計器との伝送校正を行う。工場校正では質量標準(静荷重法)や重力式プロバーにより原器へトレーサブルな定数を決定する。密度機能を使う場合、基準液体での多点確認が有効である。

多機能化(密度・濃度・診断)

共振周波数からの密度推定を濃度換算に用いれば、糖液・薬液・溶媒混合のインライン濃度管理が可能となる。さらに駆動電力・共振Q・位相雑音などのヘルス指標を常時監視する自己診断が実装され、付着や摩耗、ガスロック兆候の早期検知に役立つ。

応用分野と具体例

  • 化学・石油化学:高温高圧媒体のバッチ計量、反応器フィードバック制御。
  • 食品・医薬:サニタリ配管でのシロップや懸濁液の正味質量制御。
  • エネルギー:LPG・LNGのトラックスケール置換、ブレンディングのリアルタイム制御。
  • 上下水・パルプ:スラリーや高固形濃度流の安定計測。

他方式との関係

体積式の電磁流量計や差圧式の差圧計は配管条件や導電率などの制約がある。一方コリオリ流量計は質量の一次測定により物性変化へ強い。ただしコストや重量、圧損の観点から全用途で最適とは限らず、用途・レンジ・経済性を総合評価して選択する。

信号品質とトラブル対策

  • 気泡混入:脱気・背圧付与・ポンプ位置見直しで位相の不安定を抑制。
  • 外乱振動:ポンプや撹拌機の同期振動を避け、励振周波数と干渉しない支持を設ける。
  • 付着・堆積:CIP/SIPや定期洗浄を計画し、診断値の閾値監視で早期対応する。
  • ゼロ点ドリフト:温度安定化後に自動ゼロ調整を実施し、結果を履歴管理する。

関連知識への導線

体積基準との換算や計測体系の基礎は流量計の記事が参考となる。導電媒体に特化した方式は電磁流量計、差圧を用いる方式は差圧計を参照する。また熱起電力の基礎は熱電対温度計、抵抗式温度計は白金測温抵抗体温度計、放射による非接触測温は赤外線放射温度計の記事にまとめている。計測システム全体の保全や電源監視に関してはバッテリーアナライザの知見も有用である。