ゲージボソン
ゲージボソンは、場の量子論においてゲージ対称性から導かれる相互作用を媒介するベクトル粒子である。電磁相互作用・弱い相互作用・強い相互作用を担う媒介粒子として定義され、標準模型ではスピン1の量子として記述される。ゲージ場の局所対称性(例:SU(3)×SU(2)×U(1))を課すと、対応するゲージ場の量子励起がゲージボソンとして現れる。電荷保存や色荷の保存則などはゲージ対称性の帰結であり、ゲージボソンはこれら保存則の背後にある対称性の「担い手」として理解される。
種類と基本的性質
- 電磁相互作用:光子(γ)。質量は0で長距離力を与える。光子は電荷を持たず、自己相互作用をしない点が他のゲージボソンと対照的である。
- 弱い相互作用:W±、Z^0。電弱対称性の自発的破れにより質量を獲得する。W±は電荷を持つため、崩壊や生成に特徴的な荷電流過程を示す。
- 強い相互作用:グルーオン(g)。SU(3)の非可換性により自己相互作用を行い、クォーク・閉じ込めや漸近的自由といった現象に寄与する。
- 重力(仮説):スピン2のグラビトンがしばしば言及されるが、標準模型の範囲外であり未検出である。
ゲージ群と電弱混合
標準模型のゲージ群はSU(3)_C×SU(2)_L×U(1)_Yである。強い相互作用を担うSU(3)_Cからグルーオンが、電弱部SU(2)_L×U(1)_Yからはゲージ場の混合を経て光子とZ^0が現れる。混合角(ワインバーグ角)により電磁相互作用の無質量キャリアとして光子が選択され、Z^0は質量をもつベクトルゲージボソンとなる。W±はSU(2)_Lの荷に対応し、荷電流相互作用を媒介する。
ヒッグス機構と質量生成
電弱対称性の自発的対称性の破れ(SSB)はヒッグス場の真空期待値により起こる。これによりW±とZ^0はベクトルゲージボソンとして整合的な質量項を獲得し、ゲージ不変性とユニタリティを同時に満たす。光子は未破れのU(1)_emに対応するため無質量のままであり、長距離にわたる電磁相互作用を実現する。ヒッグス機構は縦偏極成分の起源を与える点でも重要である。
相互作用の描像と自己相互作用
場の量子論では相互作用は交換粒子のやり取りとして表される。電磁相互作用では荷電粒子間で光子が交換され、弱い相互作用では短距離でW±やZ^0が交換される。非可換ヤン–ミルズ理論であるSU(3)では、グルーオン自体が色荷を持つためゲージボソン同士の頂点が存在し、ジェット構造やランニング結合の実験的徴候として現れる。
実験的検証のハイライト
- グルーオン:e^+e^-衝突での3ジェット事象観測が決定的手掛かりとなり、強い相互作用のキャリアとしての性質が支持された。
- W/Z:ゲージボソンのうちW±とZ^0はハドロン衝突で生成・崩壊が観測され、その質量・結合が高精度に測定された。後続のLEPやTevatron、LHCで精密検証が進んだ。
- 光子:散乱・放射過程、量子電磁力学(QED)の精密検証により、無質量・スピン1のキャリアとしての描像が確立している。
理論的枠組みと計算技法
ヤン–ミルズ理論はゲージボソンを含む場のダイナミクスを与える基本式である。摂動計算ではフェインマン図により頂点と伝播関数を組み立て、繰り込みにより紫外発散を制御する。ゲージ不変性を保つためにゲージ固定やBRST対称性が導入され、物理量のゲージ独立性が保証される。非摂動領域では格子QCDが有力な手段であり、グルーオンの寄与を数値的に評価できる。
観測量とシグナル
ゲージボソンは崩壊角分布、横運動量分布、ラピディティ分布などで特徴づけられる。例えばZ^0→ℓ^+ℓ^-の前後左右非対称(forward–backward asymmetry)は電弱混合角に敏感である。グルーオン放出はジェットの多重度やスプリッティング関数に反映され、光子は初期状態放射や最終状態放射として精密テストに用いられる。
関連領域への広がり
凝縮系でも有効理論としてのゲージ場が現れ、スピン液体や超伝導の位相などで「擬似的な」ゲージボソンが議論される。高エネルギー実験では、大型加速器のビーム制御、超伝導磁石、極高真空の維持、検出器の機械設計まで多分野の知見が統合される。たとえば真空フランジの締結要素であるボルトの管理や熱収縮の見積りは、ビームラインの安定運用に不可欠である。
用語と表記の注意
英語では“gauge boson”と表記し、日本語ではゲージボソンと訳す。「力の媒介粒子」「交換粒子」などの同義語が使われるが、厳密にはゲージ対称性に対応する場の量子励起を指す。光子・W±・Z^0・グルーオンはいずれもゲージボソンであり、ヒッグス粒子はスカラーで別種である。重力子は候補ではあるが、量子重力の未完成性から標準模型のゲージボソンとは区別して扱うのが通例である。