グラウンドループ
グラウンドループとは、複数点で「接地」または「基準電位」に接続された導体群が閉ループを形成し、そのループに外部の電磁界や機器間の電位差が印加されることで不要電流が循環し、ハム音、センサ値のドリフト、通信エラー、EMC不適合などを引き起こす現象である。ループ面積が大きいほど磁界結合による起電力が増え、また接地インピーダンスが理想的な0Ωではないため、異なる機器筐体間で数百mV〜数Vの電位差が生じうる。したがって回路・配線・筐体・建物接地を含むシステム全体設計での抑制が重要である。
定義と物理的メカニズム
閉ループを貫く磁束変化により誘導起電力が生じる(Faradayの法則)。ループ面積をA、外部磁束密度をB(t)=Bpksin(2πft)とすれば、誘導電圧は概ねVind≈A・2πf・Bpkで増大する。加えて、現実の「GND」にはRとLがあり、機器間の保護接地(PE)やシャーシ間に流れるコモンモード電流ICMが信号基準に重畳してノイズ化する。電源のYコンデンサや漏れ容量、長尺ケーブルの分布C・Lと合わさると、低周波では50/60Hzハム、高周波ではMHz帯の放射/伝導エミッションや受信感度低下を招く。すなわちグラウンドループは電磁誘導(H場結合)と基準電位差(インピーダンス共有)という二重の起源をもつ。
典型的な発生シナリオ
産業・計測・オーディオ・IT配線で広く発生する。以下は代表例である。
- PC—オーディオインターフェース—アンプ—スピーカの3点以上接地による50/60Hzハム。
- 装置—計測器でのシグナルGNDとPEの多点接続、オシロスコープのアースクリップ誤用。
- 長尺シールドケーブルを両端で筐体接続した際のコモンモード循環電流。
- Ethernet/USB/HDMIなどのシールドやリターンが別経路で再接続される多重ループ。
- 設備接地系のインピーダンス差や等電位ボンディング不足による筐体間電位差。
等価回路と周波数特性
グラウンドループは、起電力源VindとループインピーダンスZloop=R+jωL、ケーブル/筐体間容量Cを含むRLC網として捉えると理解しやすい。低周波ではRが支配的で、基準電位差→差動系への直接重畳が問題化する。高周波ではLとCが支配的になり、ループは一種のループアンテナとしてH場に感度を持ち、共振周波数近傍で電流が増大する。伝送路的には、コモンモード電流が結合器(コモンモードチョークやフェライト)で抑えられ、差動成分はそのまま通すのが基本戦略となる。
抑制の基本原則
抑制は「ループ面積を小さくする」「基準点を整理する」「コモンモードの帰路を制御する」の3本柱である。基板では広いGNDプレーンとリターンの近接配置、ケーブルではツイストペアで磁界起電力を相殺し、筐体では等電位ボンディングを適切に行う。シールドは360°クランプで低インピーダンス接続し、周波数に応じて片端接続/両端接続/ハイブリッド接続(片端直結+他端をCで接続など)を選択する。装置間はアイソレーション(isolator/transformer/optocoupler)で信号基準の独立性を確保し、不要な多点接地を避ける。
レイアウトと配線の実務
PCBでは、(1)高速差動ペアの直下に分断のないGNDプレーンを敷く、(2)コネクタ直近にシャーシGNDへ多数のスティッチビアを打つ、(3)大電流パスを信号から離す、(4)AGNDとDGNDは単一点(たとえばADC付近のブリッジ)で接続、(5)帰路は常に往路のすぐ下/隣を通す、が要点である。筐体では塗装剥離や導電ガスケットで確実な接触を確保し、ペイント越しの高インピーダンス接続を避ける。ケーブルはツイストの高いものを選び、不要な余長ループを作らない。
- コネクタ—シャーシ間を短く太い経路で接続(360°クランプ)。
- 外来H場が強い区画ではリターンを切らず、スロットを避ける。
- GNDスプリットが不可避ならブリッジ位置を信号のリターン経路上に置く。
- ケーブル束ねはループが大きくならないよう“8の字”やツイストで処置。
シールドの接続戦略
低周波のハムが支配的な系(オーディオや工場の50/60Hz干渉)では、シールド片端接続が有効な場合がある。一方でMHz帯ノイズや放射の抑制では両端接続+360°接地が基本で、コモンモード電流のバイパスを低インピーダンスで確保する。両者の折衷として、片端直結・他端を数nF〜100nF程度のCでシャーシ接続するハイブリッド接続が用いられる。重要なのは、シールドに「電流が流れても信号に重畳させない経路設計」を与えることである。
電源・接地体系とリーク
クラスI機器ではPEを介して筐体が接地され、電源のY-Cによる漏れ電流がPEへ戻る。複数機器を接続すると、その漏れがシグナルGNDに回りグラウンドループを形成する。クラスII(二重絶縁)機器同士をつなぐ場合も、長尺ケーブルの分布容量によって高周波のコモンモードが閉ループを作る。電源入口にコモンモードチョークやY-C配置の最適化、装置間の等電位ボンディングで帰路を意図通りに与えることが肝要である。
測定・トラブルシュート
症状は「50/60Hzの唸り」「センサ値のオフセット/周期変動」「通信のCRCエラー増加」「触れると雑音が変わる」などである。診断は、(1)クランプメータでシールド/PEのコモンモード電流を測る、(2)Hフィールドプローブでループ近傍の磁界をスキャン、(3)差動プローブで基準点間の電位差を観測、(4)一時的ジャンパで単一点接続に切替えるA/B試行、(5)アイソレータを挿入して症状変化を確認、の順で進める。配線経路を最短化し、余長をねじって面積を減らすだけでも顕著に改善することが多い。
安全上の注意
保護接地(PE)の除去や「アースリフト」を恒久対策として用いるのは危険であり、規格違反となりうる。オシロスコープのグランドクリップはPE直結であるため、被測定系と別系統の接地があると短絡事故や感電の危険がある。安全は常に最優先とし、必要に応じてアイソレーション電源、絶縁プローブ、等電位ボンディングの見直しで対処する。
用語・関連概念
グラウンドループ(ground loop)、コモンモード電流、差動リターン、等電位ボンディング、シールド接続(片端/両端/ハイブリッド)、ツイストペア、GNDプレーン、スター接地(single-point ground)とマルチポイント接地、ループ面積、H場結合、ケーブルの共振などを体系的に理解すると、設計・評価・保全の一貫性が高まる。装置単体最適ではなく、配電・建屋・周辺機器を含む「系」としての接地設計が有効である。