クーラント|熱管理と腐食防止でエンジン長寿命

クーラント

クーラントとは、機械・装置の運転中に発生する熱を効率よく除去し、同時に潤滑・洗浄・防錆などの機能も担う作動流体である。自動車の冷却系では水とエチレングリコール(またはプロピレングリコール)を基剤に各種添加剤を配合し、凍結防止・沸点上昇・腐食抑制を実現する。工作機械では水溶性切削油剤や不水溶性切削油を加工点へ供給して工具寿命や加工面品位を高める。いずれも熱伝達と材料適合性の最適化が要諦である。

定義と役割

クーラントの主機能は「冷却」「潤滑」「洗浄」「防錆」「消泡」である。冷却は比熱・熱伝導率・流量で決まり、潤滑は摩擦係数低減と境界潤滑膜の形成が鍵となる。洗浄は切りくず・スラッジの搬出、防錆は金属表面の不働態化やpH緩衝で達成され、消泡は循環効率を落とす泡を抑える。

用途と分類

  • 自動車用冷却液(LLC/SLLC):水+グリコール+防錆・消泡・緩衝添加剤。
  • 工作機械用:水溶性(エマルション、ソリューブル、ソリューション)と不水溶性(鉱油系、合成エステル系)。
  • 電力機器・電子機器:誘電性流体や二相冷却媒体など特殊用途。

自動車用クーラントの化学と規格

基剤はエチレングリコールが主流で、凍結点降下と沸点上昇を両立する。添加剤は金属(アルミ、銅、鋳鉄)、エラストマー、樹脂への腐食を抑制し、キャビテーション侵食も低減する。交換周期はLLCよりSLLCが長寿命で、希釈率は一般に30〜50%が多い。着色は識別目的で機能差を厳密に示すものではない。

防錆技術(IAT/OAT/HOAT)

IATはシリケート等で全面保護、OATは有機酸で選択保護、HOATは両者の複合である。アルミラジエータではシリケート皮膜の安定性や有機酸塩の適合性が性能を左右する。

熱設計と物性

熱移動は対流熱伝達係数h、流速、流路設計で最適化する。比熱が高いほど熱容量に優れ、粘度が低いほどポンプ負荷は減るが、潤滑・シール性との両立が必要である。沸点は加圧で上昇し、キャビテーション発生限界は静圧と温度に依存する。

  • 比熱:水>グリコール。混合比で設計最適化。
  • 熱伝導率:水が高く、添加で低下する傾向。
  • 粘度:低いほど循環しやすいが漏れ増の懸念。
  • 沸点・凍結点:濃度曲線に従って決定。
  • 蒸気圧:低いほど沸騰・気泡化を抑制。

流体回路要素

ラジエータ、サーモスタット、ウォーターポンプ、エキスパンションタンク、ホースパイプの各要素が圧力・流量・温度のバランスを保つ。クランプの締結や接続部の面粗度も漏れ防止に重要である。

機械加工用クーラント

切削・研削ではクーラントが熱き裂やビルトアップエッジを抑え、加工精度を安定させる。水溶性は冷却・洗浄に優れ、不水溶性は潤滑・極圧性能に強みがある。CNCのスルースピンドル供給は深穴や高能率加工で有効である。

供給方式

  • フラッディング:広範囲を洗い流し冷却・搬出を重視。
  • MQL:微量給油でミストを最小化し環境負荷を低減。
  • スルースピンドル:刃先へ直接供給し切りくず排出を効率化。

劣化と管理

自動車用は比重計や屈折計で濃度を確認し、pH・導電率・外観を点検する。工作機械では菌繁殖や悪臭、泡立ち、切りくず混入で性能が劣化するため、スキマーで浮上油を除去し、定期ろ過・希釈水の硬度管理を行う。補給は同系統で行い混用を避ける。

材料適合性と腐食

アルミ、銅・黄銅、鋳鉄、ステンレスの電位差によるガルバニック腐食を抑えるため、添加剤の選定とpH管理を徹底する。エラストマーはNBR、EPDM、FKMなど材質で耐薬品性が異なり、シール部の膨潤・硬化を監視する。

キャビテーションとエロージョン

インペラ背面やライナ外周で圧力が低下するとキャビテーションが発生し、金属表面をピッティング損傷させる。適切な静圧、脱気、添加剤選定、ポンプ設計で対策する。

環境・安全・法規

SDSの保管とPPEの着用は基本である。排水はpH・COD・油分を基準内へ処理し、産業廃棄物として適正に委託する。グリコール系は誤飲防止の管理が必要で、プロピレングリコールは相対的に毒性が低いが無害ではない。

トラブルシューティング

  • 過熱:サーモスタット不良、ラジエータ目詰まり、ポンプ劣化、混合比不適。
  • 泡立ち:消泡剤不足、リークによる吸気、過大攪拌。
  • 漏れ:接続部のOリングワッシャガスケットキットの劣化や締結不足。
  • 腐食・スラッジ:pH低下、混用、硬水由来のスケール付着。

選定・導入の指針

目的(冷却重視か潤滑重視か)、対象材(鋼、アルミ、銅合金、樹脂)、運転条件(温度、圧力、流量)、維持管理性(補給・濾過・寿命)を整理して銘柄を絞る。自動車は車種仕様に合う規格を守り、工作機械は工具・被削材・加工法で希釈率や粘度を最適化する。配管・接続には適合サイズのホースパイプ、締結にはボルトスナップリングを適切に用い、経時管理で性能を維持する。