クルーズコントロールスイッチ
クルーズコントロールスイッチは、自動車の定速走行や先行車追従をドライバーが直感的に指示するための入出力デバイスである。主にステアリング上のスイッチ群やステアリングコラムのレバーに実装され、ECUやADASコントローラへ電気信号を送る。近年はACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)やLKAなどの支援機能と連携し、速度設定、加減速、再開、キャンセル、車間調整といった操作を最小の視線移動と適切な触覚で実現することが要求される。
機能と役割
基本機能は「ON/OFF」「SET/COAST」「RESUME/ACCEL」「CANCEL」である。ACC対応車ではこれに加え、車間距離ステップの変更や減速優先の一時操作が含まれる。スイッチ入力は冗長な妥当性チェックを伴い、速度設定はECU側で車速・勾配・エンジントルク余力・制動制約などを総合して演算される。制御はドライバーの最終決定を尊重し、ブレーキやクラッチ操作で即座に解除される。
物理形状と配置
搭載形態はステアリングスポーク上の押しボタン群、またはコラム左側のレバー式が代表的である。頻用するSET/RESUMEは親指で押しやすい位置に大きめの面積と明確なクリック感を与え、CANCELは誤操作を避けるため段差や離隔で区別する。夜間視認のため透過アイコンの照光が用いられ、アイコンは国際的な記号体系に合わせて統一される。
電気アーキテクチャ
配線方式は抵抗分割(レジスタラダー)を用いたアナログ多値入力、またはマトリクス/個別ラインのデジタル入力がある。ステアリング実装の場合はクロックスプリング(スパイラルケーブル)を介してBCMやECUへ信号を伝送する。近年はLINやCANゲートウェイ経由で状態を配信し、チャタリング対策のデバウンスやESD保護、プルアップ/プルダウン設計、断線・短絡検出の自己診断が標準化されている。
ACC・ADASとの連携
ACCでは前方レーダやカメラが検出する相対速度・距離情報をもとに、スイッチの車間ボタンでヘッドウェイを段階選択する。減速度の上限や制動介入の閾値は車種ごとに最適化され、急減速時には制動灯制御やドライバーへのトルクフィードバックが連動する。LKA/LCCなどの横方向支援を備える車両では、関連設定メニューへのショートカットや状態表示との一貫性が求められる。
回路設計と信頼性
機械接点は定格電流・接触抵抗・寿命試験に基づいて選定し、接点材と端子めっきは硫化やフレッティング腐食を考慮する。アナログ方式では抵抗公差と電圧ウインドウの余裕を確保し、温度ドリフトや給電電圧変動を含めたマージン設計を行う。EMCについてはISO 7637等のトランジェント、放射/伝導イミュニティ、ESDに対して保護素子とレイアウトで対処する。機能安全はISO 26262に従い、冗長診断やフェイルセーフ(例:不正入力時は即時キャンセル)を設ける。
ヒューマンファクター(HMI)
触覚はクリック荷重、ストローク、戻り特性を一定範囲に収め、手袋や発汗時でも誤操作しにくい表面形状とする。視認性は昼夜の輝度バランス、反射グレア、色覚多様性への配慮が必要である。機能の階層は最小で記憶負荷を抑え、長押しと短押しの意味を明確に分ける。運転時の視線移動を最短化するため、ステアリング上の配置は親指ホームポジションからの移動量で評価する。
故障モードと診断
- 短絡(B+またはGND): 不正な固定値として検出し、DTCを記録して機能を制限する。
- 断線: 入力無効として扱い、フェイルセーフでクルーズ機能を停止する。
- 固着/チャタリング: 時間的整合性と押下シーケンスの妥当性を監視して検出する。
- クロックスプリング劣化: ステアリング系の他信号(ホーン、エアバッグ回路)との整合で推定する。
試験と評価
環境試験は高温高湿、低温、熱衝撃、振動、塩水噴霧、砂塵、化学薬品暴露(汗・皮脂・内装洗浄剤)を実施する。耐久は操作サイクルとオーバートラベルを含めた機械寿命を確認し、照光式では発光素子のフリッカ・輝度劣化も評価する。HIL試験でECUと統合し、異常入力時のキャンセル遅れや誤作動を検証する。
法規・規格と表示
表示記号は国際的なピクトグラムに準拠し、取扱説明書の表記と一致させる。操作ガイダンスはメータ表示やHUDと整合し、状態(待機/制御中/一時停止/警告)を多重モダリティで提示する。法規では意図せぬ作動の防止、ドライバー主導の解除可能性、警告の明確性が要求され、ソフト・ハード両面で遵守される。
開発上の留意点
設計初期にHMIプロトタイプを用いてユーザビリティテストを反復し、配置・荷重・記号を確定する。回路は量産ばらつきと経年劣化を見込んだしきい値設計とし、診断は誤検出率と見逃し率のバランスを最適化する。製造ではスイッチユニットの組立ばらつき、照光漏れ、キーキャップ印刷の耐擦傷性を重点管理項目に設定する。
関連システムとのインタフェース
スロットル-by-wire、ブレーキ制御、トランスミッション制御、電動パワステ、そしてメータ/インフォテインメントとの通信設計が要となる。故障時の優先度は安全系が最上位であり、スイッチ要求はいつでもブレーキ操作により即時に上書きされる設計とする。