クラッシュセンサー|衝突を瞬時に検知して安全展開制御

クラッシュセンサー

クラッシュセンサーは、車両の衝突を瞬時に検知し、エアバッグ展開やシートベルトのプリテンショナ作動などの乗員保護装置を起動するための検出装置である。主に前面、側面、センタートンネルやフロア付近に配置され、加速度変化、圧力波、ひずみなどの物理量を監視する。検出信号はSRS用ECUへ送られ、閾値・パターンマッチング・時間積分などのロジックにより可否判定がなされる。要求機能は「誤展開の徹底回避」と「必要時の確実展開」の両立であり、そのために高い信頼性、冗長性、自己診断機能が設計に組み込まれている。

役割と機能

クラッシュセンサーの役割は、衝突初期に特徴的な減速度プロファイルや圧力波を捕捉し、ミリ秒オーダでECUへ伝達することである。前面衝突では運動エネルギーがクラッシャブルゾーンで吸収される過程の減速度波形が鍵となり、側面衝突ではドア空間の圧力上昇が早期指標になる。これにより、運転席エアバッグ助手席エアバッグサイドエアバッグカーテンエアバッグステアリングエアバッグなど、部位別の展開判断が行われる。

検知方式と原理

クラッシュセンサーは対象イベントの時間スケールと物理量に応じて方式が選ばれる。応答は数ms〜数十msが求められ、ノイズや路面段差、ドアスラムなどの擾乱と確実に弁別しなければならない。

加速度方式

MEMS加速度センサが最も普及しており、縦・横・上下の多軸で車体減速度を検出する。ECU側ではフィルタリング、時間積分(速度変化Δv)、波形相関などを用いてイベント判定を行う。加速度方式は前面・斜め衝突に強く、車両中心部の基幹センサとして用いられる。

圧力波方式

ドア内部やサイドシルに配置した圧力センサで封入空間の圧力上昇を捉える。側面衝突ではドア変形が早期に空間圧を高めるため、検知が迅速で誤検出も少ない。近年は加速度とのハイブリッドでロバスト性を高める。

組合せ・補助方式

ひずみゲージ、ピエゾ素子、ジャイロとの組合せで検知の冗長化を図る例もある。環境ノイズや経年変化に対し、複数物理量の相互検証で誤展開を抑制する。

構成要素

クラッシュセンサーは、センサ素子、信号調整回路、A/D変換、自己診断回路、通信インタフェース(LIN/CAN)、ハウジング・コネクタ等で構成される。ハウジングは熱・振動・湿度・EMCに耐える設計が要る。

  • センサ素子:MEMS加速度、圧力、ひずみ等
  • 信号処理:フィルタ、オフセット補償、サチュレーション監視
  • 診断機能:短絡/断線検出、レンジ外監視、RAM/ROM/CPU診断
  • 実装:基板固定・シール、取付用ボルト、防水コネクタ

配置と取付設計

クラッシュセンサーの配置は、前面衝突向けにラジエータサポート付近やフロントレール先端のサテライト、側面向けにドア内・Bピラー・ロッカー等が典型である。取付部は剛性・共振特性が信号に影響するため、固有振動数や取り付け面の平面度、締結力のばらつき管理が重要である。

ECU連携とアルゴリズム

ECUは各クラッシュセンサーからの時系列データを融合し、閾値、Δv、パターン認識、機械学習ベースの分類器などで展開可否を判定する。誤展開回避のため、複数チャンネルの合議や時間窓内の相関条件を課す。乗員状態(着座・ベルト装着)や衝突方向も考慮し、シートベルトプリテンショナ作動とエアバッグ展開の時系列を最適化する。

冗長化・フェイルセーフ

クラッシュセンサーはASIL目標(ISO 26262)に応じた診断カバレッジを確保する。デュアル素子、相互監視、チャネルクロスチェック、電源二重化、通信監視を行い、故障時は安全側(非展開/故障警告)に遷移する。自己診断はイグニッションON時と定期的に実施され、DTCがOBDで記録される。

試験と評価

開発段階ではSLED試験、台上衝突模擬、HIL/SILでアルゴリズム検証を行う。環境試験は温度サイクル、湿熱、振動、衝撃、塩水噴霧、ESD/EMC等を含む。完成車では前面・側面・オフセット・ポールなどの法規/自社基準に沿った衝突試験で、センサ応答のタイミングとECU判定の一貫性を確認する。

規格・法規・機能安全

クラッシュセンサーはISO 26262の機能安全プロセス下で設計され、ASILレベルに応じた要件が割り当てられる。適用法規としてECE R94/R95、FMVSS 208等があり、EMCはCISPR/ISO規格に準拠する。製造工程の変更管理、ソフトウェア構成管理、トレーサビリティが量産品質を支える。

製造・品質管理

量産ではMEMSダイのパッケージング、ワイヤボンディング、封止、校正(オフセット・感度)、自動検査(ATE、X線)、バーンインを経る。統計的工程管理(CPK)と出荷検査でばらつきを抑制し、フィールドでの不具合はDTC解析・回収品解析でフィードバックする。

関連システムとの関係

クラッシュセンサーの出力は、運転席エアバッグ助手席エアバッグサイドエアバッグカーテンエアバッグといった乗員保護デバイスの展開戦略を決める基礎である。またシートベルトプリテンショナ作動順序やガス量制御とも連携し、衝突方向・強度・乗員条件に応じた最適化を実現する。