キルヒホッフの法則|複雑回路を保存法則で解き明かす

キルヒホッフの法則

キルヒホッフの法則は、電気回路における電荷保存とエネルギー保存を数式化した基本法則であり、節点での電流の釣り合い(KCL)と閉回路での電圧の和(KVL)から成る。これらはオームの法則や単位ボルト(V)と組み合わせて回路方程式を立て、直流でも交流でも解析できる。集中定数近似が成り立つ範囲では普遍的に適用でき、手計算からSPICE系シミュレータまで一貫して使われる。

成り立ちと前提

キルヒホッフの法則の前提は、導体長が信号波長に比べ十分短い「集中定数回路」であることである。電磁界が準静的で、要素間の結合が寄生成分で近似可能なとき、回路はノード(節点)とブランチ(枝)で表せる。符号は受動符号規約に従い、ブランチ電流の向きと電圧の極性を一貫して定義することが重要である。

第1法則(KCL):電流則

KCLは任意の節点で流入電流の総和が0、すなわち ΣI=0 であることを主張する。これは電荷保存に対応し、定常時のみならず過渡時にも成り立つ。コンデンサでは I=C dV/dt、インダクタでは V=L dI/dt となり、時間微分を含んでも節点での電流収支は崩れない。浮遊容量や漏れ電流を含めた「見かけの電流」も勘定に入れると、実測値と理論の整合が取りやすい。

  • 節点を選び、未知は節点電位とする
  • 各ブランチ電流をオームの法則や素子特性で表す
  • 流入符号を統一し、各節点で ΣI=0 を列挙する
  • 独立方程式数は(節点数−1)が目安となる

KCLの簡単な例

ある節点に3本の枝が接続し、抵抗R1,R2,R3がそれぞれ基準点に接続されるとする。節点電位をVとすれば、V/R1+V/R2+V/R3=0(電流の符号は流入基準)となる。実回路では独立電流源や依存電流源も同様に代入して、節点方程式を組み立てる。

第2法則(KVL):電圧則

KVLは任意の閉路で電圧の代数和が0、すなわち ΣV=0 であると述べる。これはエネルギー保存の回路版であり、電源で得た電位上昇は抵抗やリアクタンスでの電位降下の総和に等しい。周回方向と素子の極性を合わせて符号を付け、独立なループ数だけ式を立てればよい。抵抗ではV=RI、コイルではV=L dI/dt、コンデンサではV=(1/C)∫I dt で表される。

  1. 独立ループを選択する(ループ数=枝数−節点数+1)
  2. 周回方向を定め、素子ごとに極性を決める
  3. 各素子のV–I関係を代入し、ΣV=0 を列挙する
  4. 必要に応じてKCL式と連立して解く

時間変化磁束とKVLの補正

大きなループを貫く磁束Φが時間的に変化すると、∮E・dl=−dΦ/dt が成り、標準的なKVLは起電力項を含む形に拡張される。変圧器の緊密結合や高周波での放射を伴う配線では、誘導起電力が無視できない。実務ではループ面積を小さく配線し、磁束を局在化させることで、キルヒホッフの法則の単純形を保つのが通例である。

解析手法:節点解析とメッシュ解析

節点解析はKCLを基礎に節点電位を未知数とし、コンダクタンス行列Gを用いて Gv=i の形に整理する。メッシュ解析はKVLに基づきループ電流を未知数とし、抵抗行列Rで Ri=v を解く。回路グラフでは入出 incidence 行列A、ループ行列Bを用い、A・i=0、B・v=0 がキルヒホッフの法則の線形代数表現となる。SPICEはMNAでこれらを統合して解く。

計算例(2メッシュ)

電圧源Vと抵抗R1が直列の左枝、抵抗R2の右枝、両枝を結ぶR3で構成された2ループを考える。メッシュ電流I1,I2を反時計回りとすれば、左ループ: −V+R1I1+R3(I1−I2)=0、右ループ: R2I2+R3(I2−I1)=0。節点法でも、上節点電位をVxとして (Vx−V)/R1+Vx/R2+Vx/R3=0 が得られ、両手法は一致する。

交流回路とフェーザ

正弦定常では複素インピーダンスZを用いる。抵抗RはZ=R、コイルはZ=jωL、コンデンサはZ=1/(jωC)であり、KCL/KVLは複素数の加法としてそのまま適用できる。I=V/Z の関係で位相を含めて計算し、共振やフィルタの極・零点を設計する。周波数応答の検証でもキルヒホッフの法則は基盤となる。

現実回路での留意点

高周波・高速デジタルでは配線が伝送線路となり、分布定数が支配的になる。このときKCLは変位電流を含めた形で近似的に保たれ、KVLは誘導起電力を取り込む形に拡張して扱う。測定器の入力抵抗・容量やプローブのリターン経路も釣り合いに影響するため、基準点(グラウンド)設計とループ最小化が肝要である。

歴史と名称

キルヒホッフの法則は1845年、G. Kirchhoffにより定式化された。後にMaxwell方程式の局所保存則と整合することが明確になり、電気工学・物理学の標準理論として定着した。回路理論、測定、制御、電力系統まで広く用いられ、初学者から実務家まで必須の基礎である。