キャピラリ
キャピラリは、微細な内径をもつ管(毛細管)ないし、液体が管内を自発的に上昇・侵入する毛細管現象を指す用語である。工学・物理・化学の広範な分野で用いられ、分析化学のガスクロマトグラフィーやキャピラリ電気泳動、熱工学のヒートパイプ、電子冷却用のマイクロチャネル、医療の血液採取管などで不可欠な要素部品・概念となっている。設計では内径・表面性状・材料・長さといった幾何と、表面張力・接触角・粘度・温度・圧力差といった物性の整合が要点となる。
定義と語源
キャピラリ(capillary)は語源的に「髪の毛のように細い」を意味し、日本語では「毛細管」と呼ぶ。対象は2通りあり、①現象としての毛細管作用、②部品としての毛細管(細管)である。実務ではガラス製・石英製・金属製・高分子製など多様な細管を総称してキャピラリと呼ぶことが多い。用途に応じて内径はおおむね数µm〜数百µm、長さは数cm〜数十mまで広がる。
毛細管現象の原理
毛細管現象は、液体の表面張力γと固体表面との界面エネルギー差、そして接触角θにより規定される。濡れ性が高い(θ<90°)と液面は管内で湾曲し、管内に負圧が発生して液体が上昇・浸入する。濡れ性が低い(θ>90°)場合は逆に抑制される。管径rが小さいほど曲率が大きく、毛管圧が増して自発流が生じやすくなるため、微小流路設計では表面処理と内径の最適化が鍵となる。
ヤング-ラプラス式と上昇高さ
曲率をもつ界面の圧力差はΔp=γ(1/R1+1/R2)(Young-Laplace)で表される。円筒細管では界面半径がほぼrに支配され、静的上昇高さhはh=2γcosθ/(ρgr)の近似で見積もれる(ρは密度、gは重力加速度)。例えば水(γ≈0.072 N/m)が親水性のガラス細管(cosθ≈1、r=0.25 mm)に触れると、理論的に数cm程度の上昇が起こる。反対に撥水化処理を施すとcosθが小さくなり、上昇は著しく低下する。
流動抵抗と設計パラメータ
細管内の層流はHagen-Poiseuille式で近似でき、体積流量Qに対する圧力損失ΔpはΔp=8μLQ/(πr^4)(μは粘度、Lは管長)で与えられる。r^4に反比例するため、わずかな内径減少が大きな圧損増加を招く。したがってキャピラリ配管では、所望のQ・使用温度範囲でのμ、許容圧力、ポンプ能力、気泡混入の有無を同時に勘案してrとLを決める。
- 内径r:感度・分解能・圧損を支配。製造公差と実測値の整合確認が必須
- 長さL:圧損・滞留時間・分離性能に影響。余長は最小化
- 表面粗さ/清浄度:摩擦係数と吸着を左右。洗浄・前処理が有効
- 接触角θ:濡れ性の指標。表面改質で制御可能
- 温度T:粘度μと表面張力γを変化。恒温化で安定化
材料と製作法
ガラス/石英キャピラリは溶融延伸によって高い真円度と滑らかな内面を得られる。ステンレスは機械的強度と耐圧に優れ、曲げ配管や高圧分析に適する。PTFEやPEEKなど高分子は耐薬品性が高く、接液材の選択肢を広げる。微細加工ではフォトリソグラフィ、ドライ/ウェットエッチング、ホットエンボス、レーザ加工、マイクロドリリング、積層造形(3D printing)などが用いられる。内面コーティングで疎水/親水や帯電特性、非特異吸着の低減を設計できる。
主要用途
- 分析化学:ガスクロマトグラフィ(GC)用カラム、キャピラリ電気泳動(CE)、マイクロLC配管
- 熱工学:ヒートパイプやウィック構造の作動液移送、二相マイクロチャネル冷却
- 医療・ライフサイエンス:毛細管採血管、マイクロニードル、ラボオンチップ(μTAS)
- 光・フォトニクス:中空導波路や微細ファイバの支持・封入
- 電子・半導体:薬液供給、現像・洗浄の微量移送、封止材ディスペンス
表面処理と濡れ性制御
キャピラリの濡れ性は、プラズマ処理やサイレーン(silane)処理、ポリマーコート、自己組織化単分子膜(SAM)で調整する。親水化により自発吸い上げと液面安定が向上し、疎水化によりクロスコンタミや吸着の低減が期待できる。混相流では接触角ヒステリシスや界面ピン止めが挙動に影響するため、表面の均質化と経時変化(エイジング)の管理が重要である。
接続・封止・ハンドリング
微小径キャピラリは、フェルールとナット、スリーブ、クイックコネクタなどで接続する。段差や段付き継手は乱流やデッドボリュームを生み、分離能や応答を劣化させるため避ける。曲げ半径は材質ごとの最小値を守り、過大応力による座屈・クラックを防止する。封止は溶融封止、UV接着、熱圧着、溶着、金属ろう付けなどを用途・温度・薬液に応じて選ぶ。
検査・品質管理
内径・真円度は光学顕微鏡・干渉顕微鏡・画像測長で評価する。清浄度はTOC、コンタミ粒子数、吸着試験で確認し、漏れはヘリウムリークや加圧保持で試験する。圧力耐性は規定の安全率で証明し、温調下での寸法変化や熱サイクル耐久も検証する。分析用途ではブランクランによりベースラインの安定性とキャリーオーバの有無を確認する。
トラブルシューティング
- 詰まり:前処理フィルタの挿入、前後方向のフラッシング、超音波洗浄
- 気泡:脱気、背圧付与、界面活性剤の適正化、温度安定化
- 吸着:内面コート変更、pH/イオン強度調整、溶媒組成の最適化
- 基線ドリフト:温調の強化、配管の断熱、振動源の遮断
安全・環境面
ガラス/石英キャピラリは脆性が高く、欠け・破断時の飛散に注意する。金属配管は高圧下での継手緩みが重大事故となるため、トルク管理と定期点検が必須である。毒性・揮発性試料の取り扱いではドラフト内作業、廃液の区分管理、適切な個人防護具(PPE)の着用が求められる。環境面では溶媒使用量を低減するために内径の小径化、流路短縮、回収・再利用の導入が有効である。
設計実務の勘所
要求仕様(流量Q、応答時間、分離能、許容圧損、温度範囲、接液材適合)を明確化し、Hagen-Poiseuille式とYoung-Laplaceの関係からrとLの初期値を算出、試作で実測して微調整する。表面処理により接触角θをチューニングし、濡れ領域の再現性を確保する。量産では製造公差・洗浄・検査の管理図を整備し、ロット間ばらつきを最小化することで、キャピラリ系の性能安定と保守容易性を両立できる。