カレントトランス|交流電流を安全かつ高精度に測定

カレントトランス

カレントトランス(CT)は交流回路の電流を比例縮小して二次側に取り出す計測用変流器である。一次側の電流によってコアに磁束を生じ、二次巻線に電流を誘起する。理想的にはアンペアターンが等価となり、一次側と二次側の関係は Np・Ip ≒ Ns・Is で表される(Np/Ns は巻数比)。二次電流 Is は負荷(バーンデン抵抗 Rb)に流れ、二次端子電圧は Vs ≒ Is・(Rb+Zs) で決まる。コアには励磁電流 Im が必要であり、負荷や周波数、コア材質により誤差や位相ずれが発生する。CTは絶縁を確保しつつ大電流を安全に測定でき、電力計測、保護継電、産業用インバータのフィードバックなど広い用途を持つ。

動作原理と等価回路

理想動作では Np・Ip = Ns・Is を満たし、Is = (Np/Ns)・Ip となる。現実にはコア励磁インダクタンス Lm と漏れインダクタンス Ll、巻線抵抗 Rs、バーンデン Rb を含む等価回路で記述する。周波数が上がると Ll の影響で比率誤差が増え、低周波では Lm による励磁電流が相対的に大きくなって誤差が拡大する。二次側の開放はコアが深く飽和し高電圧が発生するため厳禁であり、計装では常時 Rb またはショートプラグを備える設計を採る。

特性(比率・位相・帯域)

比率誤差は(実比率−理想比率)/理想比率で定義し、位相誤差は一次電流と二次電流の位相差で表す。これらはコアのB-H特性、磁気損(ヒステリシス・渦電流)、Rb、周波数に依存する。帯域はコア材と巻数で決まり、ケイ素鋼は50/60 Hz の計量・保護用、フェライトやナノ結晶はkHz帯の電力エレクトロニクス向けに適する。高周波化では巻線の分布容量・スキン効果・近接効果による振る舞いも無視できない。

コア材と構造

コア材はケイ素鋼、フェライト、ナノ結晶合金などを用いる。ナノ結晶は高透磁率と低損失により広帯域・高感度を得やすい。構造はトロイダル、Cコア、スプリットコア(クランプ型)などがあり、スプリットコアは配線を切らずに後付けできる長所を持つ。巻数は感度と帯域のトレードオフで決め、絶縁やクリープ距離・沿面距離も規格に沿って設計する。

設計手順(電力用・計装用の基本)

  • 定格の決定:一次定格 Ip、周波数 f、過電流レンジ(保護用なら飽和特性も)を仮定する。
  • 巻数比の選定:Ns/Np = Ip/Is。電力計測では 100:5 A などの慣用比を用いる。
  • バーンデン設計:必要な Vs と許容誤差から Rb を決め、二次電流 Is と熱設計を行う。
  • コア容量と膝点電圧:励磁曲線から膝点(knee point)を確認し、想定最大 Vs でも飽和しにくいコア断面を選ぶ。
  • 帯域と安定化:高周波では巻数や巻法を最適化し、必要に応じて二次側にRCダンパを付加する。

安全と実装上の注意

二次開放は絶対に避ける。開放時は一次磁束が抑制されず、二次側に危険な高電圧が誘起される。メンテナンス時はショートバーまたは適正なダミー負荷を装着する。プリント実装では一次導体の発熱・磁界漏洩・絶縁距離を評価し、外来ノイズによるグラウンドループを避ける配線とする。スプリットコアはエアギャップの再現性が精度に直結するため、ラッチ機構と組付け公差管理が要点である。

CTとシャントの比較観点(設計指針)

CTは絶縁が得られ、損失が小さく高電流の測定に適するが、原理上DCは測れない(平均値は0)。一方、シャントはDC/ACを等しく検出でき、位相直線性に優れるが発熱と共通モード耐圧を要する。インバータのフェーズ電流検出では、低損失と絶縁が求められる場合に CT、DCも扱う制御・低電圧側ではシャントを選ぶ設計が多い。

誤差要因と低減策

  • 励磁電流:大きいほど比率誤差と位相遅れを増やす。高μ・低損失コアと適切なRbで抑制する。
  • 飽和:過電流や高Rbで膝点を超えると波形歪が増える。コア断面増、巻数最適化で余裕度を確保する。
  • 漏れインダクタンス・分布容量:高周波でのオーバーシュート・リンギングの原因。巻法最適化とRCスナバで緩和する。
  • 温度:コア損と抵抗値の温度依存。温度範囲での校正または誤差予算化を行う。

校正と規格の要点

校正は複数点(例えば 10%、50%、100% 定格)で比率・位相を測定し、補間モデルを作るとよい。精度等級は用途で異なるが、計量用と保護用では許容誤差の考え方が異なる。保護用は過電流時でも飽和が遅い設計が重要である。絶縁については耐電圧・インパルス・沿面距離などの項目を満たすことが求められる。

信号処理と計装インタフェース

二次信号は Rb で電圧化し、計装アンプや差動アンプで取り込み、必要に応じてアイソレーションアンプで絶縁伝送する。RMS計測では積分型またはデジタル信号処理(ADC+DSP)により高調波を含む波形でも正確な値を得る。高周波用途では帯域制限フィルタを前置し、折返し雑音を防ぐ。

設計の簡易計算例

一次 100 A、目標二次 5 A の場合、Ns/Np = 20 が目安となる。二次抵抗と配線抵抗の合計が 0.2 Ω なら Vs ≒ 5 A×0.2 Ω = 1 V。最大故障時 10 倍電流を想定すると、Vs が増大し膝点超過の恐れがあるため、コア断面の増加や巻数の再設計、もしくは Rb を下げる対策が必要である。

よくある失敗

  • 二次開放での破壊・感電リスクを過小評価する。
  • 配線長とRbの合成インピーダンスを無視し帯域・位相を悪化させる。
  • スプリットコアでのギャップばらつきを想定せず実機で誤差が増大する。

用途例

電力メータ、保護継電器用の変流、UPSやPFCの電流フィードバック、溶接機・モータドライブの電流監視、漏れ電流検出(高透磁率コアに同相電流をキャンセルして差分を検出)などが代表例である。高周波電源ではフェライトCTでスイッチ電流を観測し、スルーホールに一次導体を貫通させるトロイダル構造が扱いやすい。

DC・低周波測定への配慮

CTは原理的に直流成分を測らない。低周波では励磁リアクタンスが低下し、誤差が拡大するため、必要に応じてホール素子やフラックスゼロ方式を用いる。混在波形の評価ではハイパス特性を理解し、設計仕様に「測定可能周波数帯」を明記することが重要である。